10年前に戻っても友達ができるわけがないだろう ③


「ったく、あんた未来からきて25歳なんでしょ? 10歳年下にビビってどうすんのよ」


「は? はああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉」


 こいつは今たしかに俺が未来からきたとそう言ったのだ。

 俺はもちろん誰にも未来からやってきた人間だということを話していない。当然家族にも佐伯ゆいにもである。

 どうせ信じてもらえないだろうし、ややこしくなる可能性が高いからだ。

 それなのに、この女は当然のことのように言っている。


「なんでお前は俺が未来から来たって知ってるんだよ!」


「は? あんた気づいてなかったの? あたし、あんたを過去に送った張本人なんですけど」


 過去に送った張本人? そう言われても思いつくのはたった一人しか……。あー!!


「も、もしかして、お前……あの時の天使か???」


 俺を過去に無理矢理戻しやがった天使と金髪で顔が整っていると特徴が同じ。よくよく思い出してちゃんと見ると顔も一致していた。


「ええ、そうよ。マジで気づいてなかったの? ウケる」


「ど、どうして、その天使様がクラスメイトになってるんだよ」


「あんたを監視するためよ」


「……監視されてんのか? 俺」


「ええ、このタイムリープであんたがズルしようとしたら止めるわよ」


「ズル? ってなんだよ」


「例えばね……。宝くじ買って大金を得ようとしても無駄だから。他人の人生に大きく変化を与える宝くじを横取りしようとしたらすぐ止めるわよ」


 正直、宝くじとか競馬とかで金稼げるとか少しはそんなことを考えはした。だが10年前の宝くじの結果など覚えてるわけもなく買いようがなかったのだ。


「ん? でもよ。前とクラスが違うのもお前が何かやったんじゃないのか?」


 あの時の天使に聞きたかったことで思いついたのが、10年前とクラスが変わっているという点である。

 俺は何もしていないのに過去が変わっているというのはこの天使とやらが何かしたという可能性が一番高いはずだと思っていたのだ。彼女がここにきているというのもいい証拠だろう。


「ん? どういう意味?」


 そのはずなのに天塚はわざとらしく首を傾げた。


「どういう意味って、俺が本来辿ってきた10年前と今とじゃクラスが違ってるんだけどよ」


「へー、そうなのね。あたしは何もやってないけど……。そうね、それくらいだったら重大な変化とは言えないし、それ神様がお節介を焼いただけなんじゃない? あの神様ならなんかやってそうな気がするけど」


 神様のお節介か。やはり俺の行動のせいでクラスが変わっていたりしたわけではないらしい。

 一安心すると、ずっと思っていたもう一つの疑問を思い出した。


「結局よ、お前とその神様とやらは過去に送ったり、過去のクラスまで変えたりして、何がやりたいんだよ」


 わざわざ過去に戻すということは何かしらの理由があると思う。過去に送られる直前に俺は過去で何をやれば良いんだと聞いた時は何もないわよとか軽く流された。だが、そんな答えでは納得がいくわけがない。


「そういえばあんたを過去に送った理由をまだ言ってなかったわね」


 天塚は思い出したようにつぶやく。

 よくわからないまま過去に飛ばされて二ヶ月。ようやく俺が過去に飛ばされた理由がわかるのだと、俺は生唾をごくりと飲み込み、天塚の言葉を待った。


「あんたをたまたま見ていた神様があたしに命令してきたのよ。負け組のあんたがあんまりにもかわいそうだから幸福にしてみせろって」


「は? 俺を幸福にしろだ? それが俺を10年前に送った理由なのか?」


「ええ、そうよ。あんたみたいなやつを見てくれた神様に感謝しなさい」


「なんなんだよそれ」


 はっきりいってこの天使とやらの話には腹が立った。

 自分で負け組だと自虐するのはいいが、他人に勝手に負け組扱いされると、ムカつく。

 それにだ。


「たしかに高校生に戻ることができて、一旦は、社畜生活は抜け出すことはできて悪くないと思ってるさ。それでも、過去に戻ってやり直したところで俺の人生はきっと何も変わらねえんだよ」


 俺の人生はやり直しても何も変わらなかったからこそ10年前に戻り、最初からやり直して同じような人生を辿るのは嫌だった。

 俺という人間が過去に戻ったとして何か変えられるとは思えない。またしても同じような人生で、同じような辛い経験をして、一度目以上の絶望を与えられるだけだ。

 それだから最初からやり直すのが嫌だったのだ。


「は? 前も言ってたけどなんでそんなに諦めてんの? そのままだったらあたしがマジ困るんですけど」


「は? どうしてだよ」


「あたしだってあんたみたいなのとは関わりたくないし、あんたみたいのを幸せにしたいと思わないわよ。それなのに助けてやってるのわね。これはあたしが一人前の天使になるための最終試験なわけ。あんたみたいな負け組の人生を救ってやれっていうね」


「……いろいろつっこみたいところはあるが、まずお前、一人前の天使じゃなかったのかよ……」


 そりゃあいろいろ雑なわけだ。

 そんな奴に目をつけられた俺ついてなさ過ぎだろ……。


「細かいこと気にしてんじゃないわよ。マジウザいんですけど」


「……もう一つ聞いとくが、神様の命令とやらは俺を幸福にしろっていうものだったんだよな?」


「ええ、そうだけど?」


「じゃあなんでわざわざ10年前に来る必要があったんだよ。他にいくらでもやりようあっただろ」


「ちっ、本当に細かいことに気づくわね。ええ、そうよ。過去に連れてくる必要なんてなかったわね」


 天塚は軽く舌打ちをすると俺をにらめつけた。


「じゃあどうしてなんだよ」


「あたしがJKになってみたかったから」


 天塚は当たり前のようにそんな意味のわからない理由を言った。


「はあああああああ?????????」


 意味がわからない。俺は自分が10年前に連れてこられた理由を聞いたはずなのにどうして天塚自身の願望がかかわってくるのか。


「JKってさ、超可愛くない? 制服着てみたかったのよね」


「それが理由になるのか???」


「普通、記憶持ったまま過去に送れば勝手に幸福になれるでしょ? だからあたしは神様に頼み込んで過去に戻してもらうことにして、後は監視役としてJKを満喫しとけば、あんたが勝手に幸福になって一石二鳥って思ってたんですけど……はあ」


 あまりに自分勝手な天塚の理由にドン引きしていると、天塚は大きくため息を吐き、ジロリと俺を睨めつけた。


「問題はあんたなのよ。どうしてあんたは友達一人できないのよ。マジありえないんですけど」


 廻り巡って元の話題に戻ってきて、俺は言葉を詰まらした。


「……た、単純に話題がねえんだよ! 15歳と25歳で共通の話題なんて存在すると思うか?」


「は? それ結局あんたのコミュ力の問題なんじゃないの?」


「うっ……、そ、それでもこんな俺を幸せにするのがお前の試験なんだろうが」


「結局、あんたの問題なんだからあんたが解決するしかないの。いいから今週までに友達一人くらいを作ってきなさい」


「今週まで⁉」


「ええ、そうよ。わかったわね?」


「ちょ、ちょっと待てよ。なんで友達なんか作らないといけねえんだ。そんなのいなくても俺は学生のうちだったらオタクライフを満喫できて十分幸福なんだよ」


 社畜と違って学生のほうが時間は取れていて割と楽しむことができている。一応幸せなことは間違いない。

 学生生活が終わったらその限りではないし、友達を作ろうとして目立ってしまったらこの幸せの高校生活がいつ壊れてもおかしくはないだろうが……。


「神様に認められないと意味無いんですけど! 仕方ないわね……。これはあまり言いたくなかったけど教えてあげる」


「なんだよ。なんか罰でもあるのか?」


「ええ、もしも神様に認められるような幸福な人間。ま、リア充って言ったらわかりやすいわね。リア充になることができてあたしが正式な天使になることができないとあんた早死にするわよ」


「死ぬのか俺⁉」


「それはそうでしょ。今のままだったら25歳が寿命なんだから、何か劇的な変化がない限り早死にするだけよ」


「でもよ……リア充なんてなれる気しないぞ」


「大丈夫大丈夫、とりあえずあんたはあたしの言うことを聞いとけばいいの」


「……わかった。とりあえず友達を作ればいいんだな?」


「わかればいいのよ。わかったなら死ぬ気で頑張りなさい」

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