不審者

 都内でOLをやっているRさんは、朝、駅のホームで電車を待っている時、


 「夜、お邪魔します」


 と、背後から、全く見覚えの無いおじさんに声を掛けられた。


 Rさんは人違いかと思い、適当に流した。


 その日の夜、インターホンが鳴った。


 時刻は0時を回っている。


 まさかと思い、ドア穴を覗いた。


 心臓が止まりかけた。


 向こうからも覗かれている。


 再びインターホンが鳴った。


 Rさんは不審者が出たので来て欲しいと、警察に通報した。


 電話の最中もドアがガンガンと叩かれ、


 「宅配便でーす。開けてくださーい」


 と叫びながら何度もインターホンを鳴らしている。


 Rさんは玄関の前で息を殺して縮こまり、警察の到着を待った。


 暫くすると、玄関から気配が消え、インターホンも鳴らなくなった。


 警察に通報してから5分後、


 ガチャン


 ガッチャン


 ベランダから聞き慣れない音が聞こえてきた。


 そっとベランダに出て、下を覗き込むと、


 朝、声をかけてきたおじさんが汗だくになりながら、Rさんの居る三階のベランダ目掛けて縄梯子を投げ込んでいる


 「それっ」


 と声とともに縄梯子がベランダに届いた。


 Rさんは悲鳴をあげた。


 「おい!何をしてる!」


 ようやく警察が到着し、おじさんは連行された。


 後日、警察から報告で、


 犯人がRさんを狙った動機は全くの不明だが、犯人の持っていた『Rちゃん用』と書かれた鞄には液体の入った注射器が何十本と入っており、


 その注射器の中の液体は、神経系のヘビ毒からVXなどの毒物、その男の物と思われる腐乱した精子など様々だったと言う。


 そして犯人は、パトカーの中で、こい呟いたと言う。


 「寂しい思いさせちゃうなあ、すぐ戻ってくるからね」


 当然Rさんは直ぐに職場を変えて引っ越しをした。

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