違和感

 わたしはパートから帰る途中に、突然道路に飛び出してきたキツネの親子を轢いてしまった。


 車を止めて、運転席からその死骸を確認した。


 骨や内臓が腹部から飛び出しており、一目で即死だと分かった。


 わたしは、心苦しかったが、「ごめんね」と一言だけ呟くと、その死骸を放ったらかしにして帰宅した。


 鍵を開け、居間に行くと、小学3年生の息子と、会社から帰って来た旦那がテレビを観ていた。


 「ただいま」と言うと二人が「おかえりなさい」と言った。


 わたしは直ぐに食事の準備に取り掛かった。その間、息子はテーブルの上で文句を言いながらも宿題をし、旦那は新聞を広げビールを飲んでいた。


 「いただきます!」


 楽しく夕食をとり、一家団欒をして過ごした。


 いつもの変わらない、幸せな日々。


 そんな調子で一週間が過ぎた。


 (何かがおかしい)


 近頃、息子と旦那の、わたしに対する態度が何かおかしいのだ。上手くは言えないが、愛が無いような、上っ面の家族の様な、二人にどこかで仲間外れにされ、突き放されている寂しい感覚がある。


 そしてわたし自身、息子と旦那を以前ほど愛せないでいる。


 それを悟られないよういつもの日常のわたしを演じてはいるが、少し、と言うより、かなり本気で二人の顔を見たくない。


 はっきり言って同じ空間で同じ空気を吸いたくない。理由は全く分からないが、確かなのは、二人も同じ気持ちだろうという事だ。


 いつからこうなってしまったのだろうか。


 涙が出てくる。


 この人なら一生添い遂げられると思った旦那も、自分がお腹を傷めて産んだ、命より大事な息子も、今はこれっぽっちも好きじゃない。二人のやることなすこと、何もかもが気に障る。


 もう離婚するしかないのだろうか。


 いや、離婚した後のわたしの人生になど、何の喜びも無いだろう。せめて家族三人がバラバラにならないうちに、素晴らしい思い出のまま、わたしの、いやわたしたち家族の一生を終わらせるのが一番良いのでないだろうか。


わたしはホームセンターで農薬を大量に購入し、料理に入れる際の致死量や手際等をインターネットで念入りに調べた。不思議な事に、それがとても楽しかった。


 そしてある日、わたしは、一家団欒で夕食をとりながらも密かに悦んでいた。


 (もうすぐこいつらを殺せる。この家族三人地獄に堕としてやる)


 ん?


 わたしは車を飛ばし神社に向かい、すぐに御祓をしてもらった。


 母狐の霊が憑いていた。

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