変質者

 Iさんが女子大生だった時の話。


 Iさんは夜遅くまで、ホラー小説を読んでいた。


 尿意を覚え、小説を片手にトイレに入った。


 トイレの中で小説を読み耽っていると、頭上から気配を感じた。


 ふと上を向くと、なんとすりガラスの窓からこちらを覗いている男性の人影があった。


 Iさんはバッと目を伏せ、咄嗟に念仏を唱えた。


 念仏を唱え終わり、再び上を向くと、人影は無くなっている。


 ホッと胸を撫でおろしたのも束の間、今度は寝室から音が聞こえてきた。


 耳をすますと、誰かがIさんのタンスの引き出しを開け、中の衣服をガサガサと漁っている様な音だった。


 (幽霊じゃない! 泥棒だ!)


 Iさんは直ぐに玄関を飛び出して人を呼ぼうと思ったが、下手な事をして殺されたらどうしようと思い、明け方までトイレでじっとしていた。


 外がだいぶ明るくなったのでIさんは恐る恐るドアを開け、辺りを見渡した。


 タンスに仕舞っていた下着が部屋中に散乱していた。


 (気持ちが悪い……)


 Iさんはゾッとした。


 しかしそれ以外は、何かを盗られた様子も無く、貴重品も全て無事だった。


 (戸締りしているはずなのにどこから入ったんだろう。鍵が開けられた様子も無いしな)


 考えながら床に散らばった下着を片付けていると、一枚の下着が誰かの腕に引っ張られるかのようにベッドの下に吸い込まれていった。


 ギョッと思い、ベッドの下を見たが、誰も居なかった。


 (やっぱり幽霊だ!)


 そう心の中で叫んだ瞬間、


 〝へへへ〟


 男性の気味の悪い声が、今度は押し入れから聞こえた。

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