レコード

 かずおさんが小学生だった頃の話。


 当時、ブルースリーが大好きだったかずおさんは、兄さんに、誕生日プレゼントに『燃えよドラゴン』のサウンドトラックのレコードを買ってもらい、毎日のように部屋で聞いていた。


 ある晩、いつものように燃えよドラゴンのレコードを流していると、


 「かずおーーーー」


 突然母親に呼ばれた。


 かずおさんは急いで家族のいる1階に降りていった。


 「お母さん、今呼んだ?」


 「呼んでないよ? どうしたの?」


 気のせいかと思い、また部屋に戻ってレコードをかける。


 「かずおーーーー」


 また母親に呼ばれたが、かずおさんは無視してレコードを聴き続けた。


 「かずおーーーー」

 「かずおーーーー」


 ……レコードから聞こえてくる。燃えよドラゴンに歌詞なんか無いはずだ。しかし、時々入るブルースリーの声に混ざってはっきりと母親の声が聞こえてくる。そして何か切羽詰まったような声だ。これは凄い空耳を発見した。どうして何度も聞いてたのに気が付かなかったんだろう。


 かずおさんはレコードの音量を上げた。


 「かずおーーーー」

 「かずおーーーー」

 「兄さんがよーーーー」

 「かずおーーー兄さんがーーー」


 曲はそこで終わった。


 明日、兄さんが帰ってきたら聞かせてあげようと考えていると突然家の電話が鳴った。


 兄が交通事故で亡くなった。

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