忘れ物

 Aさんが高校生の頃の話


 明日提出の宿題を教室に忘れてきたAさんは、深夜1時、学校に忍び込んだ。


 懐中電灯を片手に、鍵が壊れている一階の保健室の窓から入り、4階の教室を目指す。


 校内は真っ暗で静寂。非常口の緑色の明かりだけが点いている。


 階段まで行くと、頭上から気配を感じた。


 懐中電灯で照らすと、坊主頭の女の子が4階の手すりから一階にいるAさんを見下ろしている。


 そして、ゆっくりと階段を降りたり昇ったり繰り返している。


 Aさんはあんな子うちの学校にいたかな、そもそもこんな深夜に何してるんだろう。と、不審に思いながらも、暗いから危ないだろうと懐中電灯で彼女の動きを追った。


 何かがおかしい。


 彼女には、身体が無い。


 無表情の顔面が、Aさんを見下ろしながら、階段の手すりをすべるように反復移動している。


 Aさんは静かに懐中電灯を切ると、外に出るために保健室に走った。


 ぺたぺたぺたぺたぺた……


 背後から裸足で追いかけてる足音が聞こえてきた。


 Aさんは死に物狂いで学校を飛び出し家へと帰った。


 数日が経ち、あれは見間違えじゃないかと思えるようになったある日、母が父に泣き喚きながら何かを訴えていた。


 「夜中にトイレに行くと階段に坊主頭の女が座ってて怖いのよ!早く引っ越しましょうよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る