救出。
狙いすました一撃は、腕の隙間をすり抜け、ねじった体に入り込み、
「後は…装置を……!」
張り付いた脚部を差う大までブースターを点火して、出力を上げ脱出しようとする。けれどミチミチという音を立てるだけでゴムのような弾力を持ったジェルは中々外れない、せいぜいブースターの火と熱が当たったところが溶けただけだ。
「なんで…!?」
「無機物用だから、強度が高いヤツか…!」
唯一動けるクガさんが、コッチに来て刀をスライムに突き立てて切断しようと試み始める。しかし一気に切断とはいかず、ゆっくりとノコギリで斬るように少しずつ斬るしかない。
「
「大丈夫です、大丈夫ですから…」
この大丈夫はクガさんにもだけど、一番は自分に言い聞かせている。ジェルまみれのモニターは既に一番ポッドは記憶消去作業の進行を開始し、ニ番ポッドは消去プログラムへの開始までのカウントダウンを始めている。残る2つはまだ注入中・・・いや記憶消去プログラムのスタンバイをほぼ同時に開始した。
「…っ」
なにかできることは無いかと考えると、さっきブースターでジェルが溶けていたことを思い出す。
…いや、あるじゃないか、今目の前に自分でもできることが。
「この!」
クガさんが斬ってる左足のジェルとは逆の右足のジェルに安物のエネルギーサーベルを押し付ける。元々が液体な事もあって斬る速度は遅くなると思っていたけど、熱で溶けていくので思ったより早い。
「これなら…」
「だったらスノウ、コッチにライフルを撃てるか?」
「はい!」
あれほど斬りにくかったジェルが、熱を加える事で簡単に切り離す。
「イケッ!」
「はい!!」
狙いは4番ポッド、これはもう液体が漏れるぐらいには一度傷をつけたし、穴を
「クガさん! 今の進行度は!!」
「どっちもカウントが始まってる、残り60!」
刃が進むのがかなり遅く感じる、いや実際遅い。それでも少しずつ溶かしながら進んでいくのでじわじわと焼き切る。
残り40………30………20と、クガさんがカウントの区切りで伝えてくるたびに焦りが
「残り10…!」
「っく…開けよっ……!! こんのォォォッ!!」
ガン、とここで大きく音が鳴った、それと同時にずっと重く感じていた手応えが軽くなり、一気に刃が下に落ちる。急いでレーヴァテインから手を話し、Archeの手を扉の隙間にねじ込み、Archeの動力で無理矢理、ギシギシと音を立てながらこじ開ける。
「アイ! アイ!! 無事かッ!? アイ…? あ…? ちが……」
カプセルポッドから倒れ込んでくる体を優しく抱きとめる、抱きとめたけど、明らかに小柄な女性であるアイの体つきじゃない。
「え…だ、だれ?」
失礼だとはわかりつつ、
「…っ!!」
思わずお前じゃないんだよと叫びそうになるのをグッと堪える。後ろにはフライクさんがいるんだ、相方を救出してお前じゃないとか言ってしまえば、本気でまずい、思いっきり言いそうになるのを我慢するけど、我慢した瞬間吐き気が喉を駆け上がってくる。
じゃあアイは? 今から? 間に合うの?
「スノウ! しっかりしろ!!」
「あ…は…っ! うああああああああああああああ!!」
叫びながらライボールさんをそのままにして、急いでレーヴァテインを掴んで思いっきり隣のカプセルポッドに斬りつける。間に合わない? わかってるよそんな事!
「この!! このおおおお!!!」
吐きそうになりながら、本当に間に合わないという現実で視界がボヤケてくるけど、それでも全出力使って切断を試みる。もう、記憶消去プログラムは起動してる時間だって、それでも・・・!!!
ブーーーーーーーーーーーーーーー!!!
その時だ、けたたましいアラーム音が鳴り、辺りが暗くなり非常電源の赤い光だけがあたりを照らす。いや、そんな事どうだっていい、はやく、ちょっとでも早くアイを…。
「…スノウ、悪いがそのまま話を聞く余裕はあるか?」
「…はい」
自分でも涙声混じりの酷い声を出してると思う。けど、なんでか頭はまだ働く。
「止まった」
「何がですか!?」
クガさんに当たっちゃいけないのに思わず怒りと悲しみで叫ぶように答えてしまった。止まったって何がだよ、なんでそんな少し嬉しそうに言ってんだよ、止まって嬉しいことなんて今は・・・え?
「止まったって…なにが……?」
「プログラムが止まったんだよ」
「ぷろぐらむ…」
「記憶消去装置の」
「止まったの…? なんで?」
ゆっくりと首をもたげてモニターを見ると、すべてのカプセルポッドの表示が、
【
になってる。
「知らん、ギリギリでなった」
「あい…アイは大丈夫なの?」
「あぁ、だがいつ再開するかわからんか、手は止めるな」
そう言われて、手が止まっていた事に気づいてハッとして、改めてレーヴァテインでカプセルポッドを開く作業に戻る。それにしてもなんでエラーがでたんだ?
開けたポッドがエラーになるのはわかるんだけど、一箇所が開いたから連動してエラーが出たって言うならシステムが
『やれやれ、やっと
考えながら作業を続けていたら、ボウっと浮かび上がるように、ずっと暗いままだった中央にある巨大モニターが点灯して、一人の女性を映し出す。
それはボサボサの黒くて長い髪の毛を雑に後ろにポニーテールのように束ねた、目の下に濃いクマをもった黒い瞳をした、色白で、ヘラヘラとした笑顔を浮かべた人物だ。
「やっぱりお前か、レムレス……!」
誰? と声が出る前にクガさんが怒りとも憎しみとも判断がつかないけど、絶対に殺意だけはこもってるとわかる声で、その人物の名を呼ぶ。
「やあ久しぶり、ヨンゴウくん、通信の向こうにいるのは懐かしい、イチゴウちゃんじゃないですか、もしかしてハチも居ます? 仲が良くて羨ましいですね相変わらず」
え、急にこの人は何を言っているんだ? わけが分からずクガさんを見てみたら、今にも人を殺しそうなぐらい殺意に満ち溢れた表情をしてるし、フライクさんはライボールさんを回収して必死に呼びかけててソレどころじゃないらしい。というかさっきからフライクさんの事をすっっかり忘れてた。ぷかぷかとジェルの中で浮かんでる比和子さんも、ポカンとした表情なのが見上げればわかった。
とりあえず、レムレスって名前なのはわかったけど、ソレ以外まったくわからない、わからないけど、それは比和子さんも同じだろう。
「あらあらあら…まさか……母上?」
ウッソだろおい、母上っていたの? っていうか母親ってマジか。そう言われてみれば確かにアジア系のような感じがしなくもない、ってことはレムレスって本名じゃなくて偽名?
…
……
………
クガさんも、通信越しのイチゴさんもヤタさんも何も言わないし、比和子さんの母上って質問にも何も答えないから、暫く長い沈黙が続く。このままじゃ何も進まないから、とりあえず重い空気だけど、聞くだけ聞いてみよう。
「あの…クガさん、どなたか聞いても大丈夫ですか?」
できるだけ慎重に、怒らせないように、恐る恐る聞いてみる。
「この装置を作ったやつだ、あってるよな?」
「正解です」
OK、わかった、絶対殺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます