キメラ。

 振りかぶった一撃は、容易く装甲にガンッと音を立ててぶつかり、弾かれこそしなかったが金属が熱を帯びて赤くなるだけで、かすり傷ぐらいしか入ってない。


「ッ! ふざけんなよ…!」


 本当にふざけた材質をしている、さっきのポッドといい何を使ったらこんな硬い装甲になるんだ、そんな技術があるならArcheや戦艦、コロニーに流用すればいいのに。下手な盾よりも固い、この硬さは…エネルギーを内部に流してるような上物の盾ぐらいしか思い浮かばない。


「またっ!」


 ブンと音を立てて振り回された腕がこちらへ向かってきたので、攻撃を中断して飛び退く。薄々気づいていたけど、最初の不意打ちの時はともかく、襲撃の時も、今でさえこっちが致命傷を受けて死ぬような攻撃をしてこない。


「あぁそうか、本当に鹵獲することしか考えてないんだなコイツら」


 最初から怒り狂いそうだけど、更に腹が立つ。コイツらは人間を捕まえて、取るもの取ったら廃棄する資材の一つとしか考えてない。それを同じ人間が開発して、どんな外道がコレを作ったんだ。


 敵は横に薙ぎ払うように腕を大振りで振って捕まえようとしてくるが、その動きはそんなに早くないから、見てれば余裕でかわせる。これも早く振ってダメージをこっちに与えすぎないようにしてるだろうし、無理をしなきゃダメージを受けなさそうだ。


「うげ…」


 そう思ってたんだけど、暗くて見えなかったけど、敵の背中から腕が4本追加で出てきたのが、まるで生えてきたかのように見えて生理的に気持ち悪く見えた。


「頭が3つはいってるから、動かせるパーツも三人分ってワケか…ほんっとにタチが悪いなコイツら」


 こうしてる間にも、アイ達の入ったカプセルはプログラムを進行して、記憶消去、そしての準備を勧めているんだろう。


「焦るなよスノウ」

「わかってます…けど、どうやって倒したら」

「こっちが行くまで耐えれるか?」

「大丈夫です」


 さっきから後から出てきた4本と合わせて6本ある腕をブンブン振り回してきているけど、かわすこと自体簡単だし、反撃に大振りな攻撃になってしまう、レーヴァテインを合わせて当てることだってできている。


「時間だけ稼がれて…」

「こっちもだ」


 クガさんと比和子の方も、相手がスクラムを組んでがっしりとお互いの頭部を守ってヤラれないようにしている、ただ数は半数に減っていて突破は時間の問題だ。


 好ましくない膠着状態こうちゃくじょうたいになっていたけど、ソレを変えてきたのはその、膠着状態を作った敵側だった。


「なにかし始めました…」

「あれは…凝固剤ジェルか!?」


 胴体部から敵はくだを伸ばし、カプセルポッドの液漏れ部分に管の先から薄い透明の液体を噴射する。それは自分にも馴染みのある液体で、この宇宙服にも仕込まれている、外気に触れると凝固する。


 宇宙服に流れてるものも破損して流出すると、宇宙服の内側にある空気を使って穴を防いでくれる便利なモノで、腕の大きさぐらいまでの大きさの穴なら塞いでくれるらしい。無色透明だということは、消毒液とか他の薬品を混ぜる前の基本品だろう。


 そんな便利なジェルでせっかく開けたカプセルポッドの穴を閉じて、またポッドは液体を注入し始める。モニターをチラっと見たら2番ポッドも記憶消去装置の起動準備を始めていた。


「比和子、向こうの援護に行ってくれ」

「了解です、御武運を」


 即座に比和子がコッチに飛んでくる、そのまま自分の隣に来て作戦を・・・と思ったら比和子ったら思いっきり敵の頭を蹴飛ばした。しかも多分比和子お得意の超加速まで使って反動で自分の足が痛みそうなぐらい思いっきり両足で。


「よし!」

「比和子さん!?」

「おやおやおや、さん付けはお辞めくださいと」

「いや、つい、ね…」


 こういう突拍子もない行動をされると思わず『さん』を付けて言いたくなるんだけど、というか足は平気なのソレ。


「あ、足は大丈夫です、頑丈ですので」

「え、あ、うん、頑丈で済むんだ」

「済みます」


「ところで、効果ありみたいですよ」

「ほんとだ」


 頭部を思いっきり揺らされてか、ぐわんぐわんと体をゆっくりブラブラとさせてグラついているのが見て取れる、管は液体を撒き散らしながら収納され、まだ中で漏れ出しているのか、収納した後も開閉口から溢れて凝固している。


「時間もありません、もう一度いきます、援護を」

「了解」


 比和子が突撃するのを察知して、敵がその6本の腕でガード必死にしようとする。それをレーヴァテインで、腕の一本めがけ無理矢理押すように叩きつけてズラす。6本でガードしてても四方八方に飛ぶ比和子からガードするなら一本ズラせば十分隙間ができる。


「ソコです!」


 比和子が狭い隙間を抜けて真下から頭を蹴り上げる。一発入ればニ発、三発と連続で攻撃が入っていき、とうとう天井に張り付いて軸にしていた体を、無重力空間に投げ出した。


「これで、どうでしょう」

「上出来だと思うけど・・・」


 まだ無力化できてない、無重力空間でジタバタと両腕を闇雲に振り回してるせいで余計にタチが悪くなったとも言える。


はさせられたようですが、頑丈なようで」

「無力化デキてると思う?」

「再起動しそうな気は」

「まだ行けないか…」


 恨めしそうにカプセルポッドを見てしまう。もう一回ポッド破壊しに行くのはまだ危険だろう。


「ところで、質問です」

「なに?」

「なんでアノ装甲は小型にはないので?」

「さあ、Archeも盾に使ってるのは見たけど」


 こんな会話をしていると、ザザっというノイズがあり、イチゴさんから「答えれるけど、今していいの?」と通信がとんできた。


「えぇ、えぇえぇ、どうぞ何か参考になるやも」

「じゃあ話すね、その技術ってかなり電力消費が激しいのと、エネルギーを流してないと無力っていうデメリットがあるの」

「ほう?」


「なるほど、燃料代が跳ね上がるから戦艦とかには採用されてないんですね」

「ではではでは、エネルギー供給を止めれば良いのでは?」

「だね、でもあのロボットは内蔵型だと思う」

「カプセルポッドの方はどうでしょう」


「緑の液体が多分その冷却水も兼ねてて、酸素ボンベを使って呼吸を確保してると思うの、だから電力を止めると窒息しちゃうかも…」

「熱いんですか?」

「サウナどころじゃなくなるよ、冷却水がなきゃ」


 辿り着いた頃にはもう冷却水がある程度溜まっていて、装甲を強化する装置が作動できていたって事か。なら液体を抜けば装甲を無力化できるけど、そもそも液体を抜くには装甲を破壊しなきゃいけない。


 打つ手なしかと思った瞬間、敵から大きな破裂音がして大量の無色の液体が爆発しながら飛び散り、溢れ出してきた。


「な!?」

「ほえ!?」

「どうし…は?」


 俺と比和子、そしてクガさんとスクラムを組んでいる敵、その全部を敵が撒き散らす凝固ジェルの被害に合う。


「ちょっと…何があったの!?」

「あらあらあら…すいません、捕まりました」

「コッチは平気だ」

「自分は…足がだめです」


 状況を確認する、おそらく大型ロボットに搭載されていたジェルのタンクが爆発して、周囲をジェルで覆い尽くしたようだ、原因は放出しながら格納していたジェルが、多分出っぱなしになっていて格納してた部分が破損して、そのまま液体を圧縮保存していたタンクまで壊したんだ。


 クガさんは咄嗟にある程度スクラムをした敵を盾に回避したけど凝固ジェルが引っ付いて機動力はかなり低下してるようだけど、スクラムした敵は完全に無力化した。


 近くにいた比和子は思いっきりタンクの近くにいたせいで体中をジェルに包まれて動けなくなっていたようで、無重力空間に浮かんでいる。


 自分は、足が地面とひっついて固定されてしまったので脱出に時間は掛かるし機動力は完全に殺された…だけど。


 ―――好機は見えた。


「スノウ、見える」

「はい、見えます」


 装甲が勝手に壊れてくれた、そのおかげで内部の機械、そして大型のジェネレーターがジェルにまみれて露出していた。


 アレを撃てば、あの敵を倒せる。


 動けない足を固定具にして、大きく息を吸い込む。まだまだ暴れてるせいで狙うべき場所が見え隠れもする、けど。


それでも自分なら…狙える。

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