脳改造。

 比和子が扉を蹴り破り突入していき、こっちの到着はあと1秒。もう突入している人間がいるってだけで、こんなに長く感じる1秒は人生で初めてだ。


 ―――絶対に許すものか。


 激情が近づくにつれて増していく、もう調査とかどうでもいい、全部破壊してでもアイを救い出す、そう決めた。


 そんな覚悟を胸に突入して最初に見た景色は、比和子が既に一匹破壊して調査員の宇宙服を鷲掴みにして、救出しているところだった。


「スノウ、これを!」

「えっ!?」


 間髪入れず比和子はその調査員をこっちに投げつけてくる、それを咄嗟にキャッチして異変に気づく、ヘルメットと作業用Archeのどっちも付けてない。


「これ酸素は!?」

「安心してください、ここは既に有酸素エリアです」

「いつの間に……!?」

「かなり前ですよ」


 比和子に言われて気づいたけど、確かにArche外部にある酸素の有無を示す表示が、安全圏を示すブルーの表示になっている。


「ソレを持って落ち着いてください」

「………っ」


 比和子に落ち着けと言われる日が来るとは思わなかった、けど酸素表示も見てなければどこで空気のあるエリアに入っていたのかも、一切記憶にないこの状況は言われても仕方ない。


「はぁはぁ、状況は・・・?」

「一人は救出、残りは見当たりません」

「そ、そうか」


 とりあえずこの調査員は誰かわからないけど、フライクさんに押し付けよう。フライクさんも話の流れで受け取って邪魔にならなさそうな廊下の側に要救助者を丁重ていちょうに置くのが見える。


「さあスノウ、落ち着きましたか」

「うん、ありがと」

「いえいえいえ」


 実際、要救助者を有無を言わさず投げ渡されて戸惑ったのと何をしていいかわからなくなった事でが空いたし、比和子なりに一呼吸入れさせようとしたっぽい。繰り返すけど比和子に言われる日が来るとは思わなかったけど。


「ではではでは、どうしましょうか一つずつ破壊しましょうか?」

「やろっか」


 この空間にあるのは、四方八方にある機械装置に中央奥の巨大モニター、それとソレらを制御していたであろうパソコンに、5つのカプセルポッド。カプセルポッドは人間が一人縦に入れるような大きさで、中には緑色の液体が縦30cmぐらいの長方形の小窓がついてる。そして比和子の目の前にある左から2番目のポッドだけ扉が開いていて、機械人形の残骸があったのでコレに入れようとしていたんだとわかる。


「待て、何があるかわからんぞ」


 クガさんが俺達二人を静止しつつパソコンを操作してモニターを切り替える。フライクさんは救出した調査員が目を覚まさないのを確認して、床と天井を中心に警戒しているようだ。


「ッたく、暫く落とし穴がトラウマになりそうだ」

「自分もですよ」


 目があったフライクさんも、少し調子を取り戻したようで、先程までのピリピリした空気がちょっとだけ緩和して軽口を取り戻していた。おそらく救出の芽が出てきたので少し心に余裕を取り戻したんだろう。


 だとしても一刻も早くアイと再開したい、早くしないとアイがあの変なロボットにされてしまうのが目に見えてるし怖い。


「…何をしてもアクセス拒否、というかモニターがつくだけでキーボードどころかマウスカーソルすら動きやがらねぇ、解除キー以前にシステムとして終わってやがる、完全に暴走状態ってわけか」


 クガさんがパソコンを操作しようとしたがスグに全部無駄だとわかったようで、深くて怒りもこもった溜め息が通信から聞こえてくる。


「引き止めて悪かった、二人共、中身に気をつけながら今すぐこの悪趣味なカプセルを破壊して人員を救出してくれ」

「「了解」」


 改めて破壊許可がおりたので遠慮なく…とはいかないけど二人で同時に、比和子はできるだけカプセルだけを斬るように、自分はカプセルの下側をアイが入ってても当たらないように撃つ。


「はい!?」

「あれ?」


 その二人の攻撃をそのカプセルポッドはいとも容易たやすく攻撃を跳ね除け、二人して驚きの声を上げる。ただそこで止まるわけにもいかないので今度は比和子が扉の開閉口に思いっきり刀を突き刺す。


「なかなかなかに…強情な扉ですね……!」

「開きそう?」

「いえ、留具とめぐであろう金属の手応えはあるのですが・・・」


 比和子は最初は左右に刀をグリグリと動かして、テコの原理を利用してこじ開けようとしていた。けれど無駄そうだと一分も経たないうちに諦めて、今度は力任せに刀を下に下げてロックしてるであろう金属を斬ろうとしたが、それも上手くいかないようだ。


「ううむ、難儀ですねぇ・・・仕方ありません、中の液体の温度上昇が気になりますが・・・エネルギーブレードを使ってもよろしいでしょうか?」


 と聞きながら既に呼びの刀を取り出している。


「いや、もう少し余裕はあるからできるだけ中を傷つけ無いことをゆうせ・・・いや、無いなこりゃ何を使ってでも早くこじ開けろ!」


 冷静だったクガさんの口調が一気に焦りが混じったものに変わる。なにを見たんだと思ってクガさん、そしてクガさんが見てるパソコンの画面を、ヘルメットの望遠昨日を利用して覗き込む。そこには各カプセルに番号、そして進行状況が書いてある。


 一番左から。


 6番ポッド【待機中】


 5番ポッド【開放中】


 4番ポッド【フェーズ・保護液の注入】


 3番ポッド【フェーズ・保護液の注入】


 2番ポッド【フェーズ・保護液の注入】


 となっているが、問題は一番右のポッドだ。



 1番ポッド【フェーズ・・スタンバイ】




 嫌な汗が吹き出てくる、なんだよあの記憶消去システムって!

 そんなもんが可能なのかよ!

 ソコまでしてあんな兵器を作る意味があるのか!?


 瞬時に色んな事が頭に浮かぶけど一番は『アイの記憶が消去される』という事実。


「スノウ! スノウ!! 反応を!!!」

「ごめん日和子!」


 ショックが大きすぎて声が聞こえてなかった、そのせいで比和子が最大ボリュームでこっちに通信を飛ばしてきたので耳がキンと痛くなる。


「レーヴァテインを!」

「わかった!!」


 言われるがままレーヴァテインを最初から最大出力で、比和子さんの代わりに小さな隙間めがけて振り下ろす。


「っぐ…あけ……よ!」

「そのまま、少しずつ斬れてますので…っ!?」


 突然比和子が自分の左手側に飛び出て、そのまま何かに刀を弾き飛ばされた。その奥に見えるのは・・・あのサイボーグ達だ。


「比和子さん!」

「続けてください!」

「っ………あぁ!」


 数は19機、最初に比和子が倒してるし残り3機を残して出してきたか、クガさんもパソコンを離れて比和子の援護に向かう。フライクさんは護衛対象が後ろにいるのでその場からの援護だ。


 ただ最初に比べて負担は少ない上に残り三機の予備がいるけど、最初の戦闘よりはやりやすい、いや慣れたらしく比和子は次の刀を手に取り、クガさんと一緒に次々と倒していく。


「おやおやおや、慣れたものですね」

「これでも元軍属だ」


 二人で声を掛け合いながら倒していってるみたいだけど、連携はほとんどしていなくて、各個撃破している。連携するような訓練もしてないし、比和子自体がやっぱりのびのびと自由に戦った方がしょうに合ってるので、下手な連携をするぐらいなら、それを活かしたほうがいい。


 こっちは、ようやく刃が入っていって少し緑の液体が盛れてきている。このままなら開くのは時間の問題だけど、どれだけ時間がかかるかわからない。先に液体注入が終わった1番ポッドからやるべきか?


 このポッドは4番ポッド。なんで3番からというと、人が入れられそうになっていた4番ポッドから一番近いから、その場ですぐに取り掛かったから。というのもあるけど、最初のポッドはたぶん最初に連れてかれた調査員で、2番はその護衛の政府の人、3番はライボールさんで、連れ去られた順番ならこの4番が一番アイが入っている可能性が高いから。


 最初にこのポッドから手をかけたのは偶然だけど、斬りながらアイがどれだろうと考えるとやっぱりこのポッドが一番可能性が高い。けど、全員助けたいし全員助けるなら1番に切り替えたほうが…。いや、途中で対象を変えて誰も助けれないのが最悪のパターンだ、一度斬り始めたなら最後まで…っ!。


「うあああっ!!」


 考えながら斬ってたせいで反応が遅れた、いや考えながらじゃなくてもしっかりレーヴァテインを握っていたから、どうせくらってたけど、今、何かに思いっきり殴られた。


「スノウ、大丈夫か?」

「はい…ちょっと一番浅いとこの装甲が剥がれた程度です」


 システムに何もエラーは出てない、胸の装甲が少し剥がれただけだ。けど、まずは何に殴られたか確認する、殴ってきたのは腕っぽかったけど・・・。


 そこで目にしたのは5m程もある大型の機体、大きな頭を一つもち、三つ目かと思えば、あの気持ち悪いサイボーグ…いや今更だけど自動人形って呼ぼう、抵抗があるし。ソレと同じ頭部が目の代わりに埋め込んでいて、なんとも悪趣味してる。って事はアレと同じ仕組みなんだろう、これも。それが天井から逆さ吊りのようにぶら下がって、パンチをしてきて、引き離しにきのか。


「このっ…邪魔をするな!!」


 握ったままだったから一緒に握っていたレーヴァテインを、握り直し、俺はコイツにむかって振りかぶった。

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