救出部隊。
エリダヌスは長い、だいたい半分くらいまでは来ていたけど、逆に言えばあと半分もあるし、どこを探せばいいのかわからないし、冷や汗が止まらない。
「で、クガの旦那、奥に進んでるが勝算はあるのか」
「ある、具体的な情報は省くが残りの敵機体数は残り23体だ」
「わお、何故わかったんだい?」
「正直ショッキングな内容だから、終わったらにしたい」
クガさんはそう言うと先頭を
「いや、今聞いておく必要があるだろ、途中でわかってそこでショックを受けたらどうするんだい、リーダー」
「………」
「絶対にコッチが気づかない保証でもあるってのか?」
フライクさんも引き下がらずに、続きの質問を無言で答えるクガさんに、更に質問を投げかけて説得し、ここでクガさんが折れた、というか答えることに納得したようだ。
「信じられない事を言うぞ」
「あぁ、どうぞ」
「あの
は? どういう事だ?
「サイボーグってあの人体を機械に改造する、あのサイボーグですか?」
「そうだ、そのサイボーグで間違いない」
「ふむふむふむ、ですが変ではないですか?」
「具体的には?」
「あの兵器に人間の部分など…おや? おやおや?」
比和子が何かに気づいた。それと同時にクガさんに指示された方向へと進むスピードが加速する、こっちが着いてこれるかなどお構いなしの遠慮ないスピードを出し始めている。
「比和子さん!?」
「急ぎましょう、
もしかして比和子さん、怒ってらっしゃるんじゃ?
けれど自分には好都合だ、追いつくのは大変だけど、一刻も早く助けたいし皆そうだろう、今は一秒だって惜しい。
「おいレディー! ちょっと手加減ってのをだな!」
その声を聞いてただ一人、フライクさんはそうでもないのかよ・・・と思ったけど単純に追いつけないようで送れ始めてるようだった、それと同時に自分がここで悪態を心のなかでついてしまったのに自己嫌悪する、だめだ、相当焦ってるのを再自覚する。
「無理ですか?」
「嬢ちゃんに合わせると、Gで頭がダメになってきやがった!」
ヘルメット越しにフライクさんの顔が真っ青になっている、確かに急カーブなどをほぼノンブレーキで曲がっていくのに着いていくので、Archeの操縦技術もそうだけどカーブのたびに掛かるGはかなりのものだった。
「おやおやおや、パンゲアの次期エースが情けない!」
「言ってくれる!」
そんなフライクさんに比和子は煽って奮起を促し、フライクさんは必死にくらいついている、けど実際は比和子の速度が5%程だけ下がったので、あぁ見えてまだ比和子にもまだ、ちょっとだけ手心は残ってるようだ。
「ほらほらほら、見てご覧なさい、非戦闘員のクガさんですら平気ですよ!」
「嘘つけ! 絶対隠し玉じゃねぇか!!」
うん、それは至極もっともだよね。というか薄々自分も感づいていたけど、いや薄々じゃないや、なんならヘルメットをあの時見た時から絶対なんか隠してるとは思っていたけど。
「あれのどこが作業用機体だよ」
「失敬な、本当に作業用機体だが」
「はあ!?」
確かにどこをどう見ても、作業用には見えないスリムな高機動ボディをしているし、真っ黒にカラーリングされた見た目と、比和子に借りた刀も相まって殺意の塊にしか見えない。
「機体登録は間違いなく作業用だし型番も作業用、非売品なだけだ」
「非売品ってどこのだよって、まさかコロニー製か?」
「あぁ、そうだ」
「ハハ、どうやってそんなもの」
フライクさんから乾いた笑いが出る、地球側の傭兵がコロニー産の機体を使ってるとなると、よっぽど特殊な理由がないと手に入らないし、有らぬ事を疑われる。まあコロニー産の武器を鹵獲したってことで使ってる自分が言えた義理じゃないけど。
「骨董品だよ、開戦前に作られた物をチューンナップしたな」
「開戦前の? あぁ、なるほど、軍用転換前の代物か」
「そうだ、軍事転用が研究された頃の試作品だからまだ、軍用認可前の物でな」
「ははあ、となると
「そんなところだ」
初期の機体を魔改造して最新型である比和子の機体に着いていけるとか、魔改造ってレベルじゃないのでは? もう全部パーツ改造して別モンになってそうなんだけど、それは良いのかな? ベースが作業用だったらいいの?
「おい、そりゃギリギリのグレーじゃ…いやそれじゃすまない、今はそんなグレーを気にしてる場合じゃない、本題はどこに向かってるかと、あの
「向かってる場所は一番奥だ」
「根拠は?」
「カンみたいなもんだ」
カン!? それって適当とどう違うんだ、予想をハズしたら……時間だってどんだけあるかわからないのに。
「おい、そのカンとやらはアテになるんだろうな?」
「あぁ、この手の外道な
「
「それ以外にアテがあるなら今すぐ聞く」
そう答えられると、気が苛立ちから強くなって言葉が荒くなっていたフライクさんが何も言い返せなくなる。
「オーケー、ソレしかないからその可能性に賭けてるってワケか」
「そうだ」
実際、他にアテがあるなら別だけど無いなら心当たりを探していくしか無い、ただ心当たりなら一つ思い浮かんだ場所もある。
「工場エリアの可能性は無いんですか?」
「考えたが可能性が低い、医療エリアから距離が離れている」
「関係があるんですね、その2つに」
医療施設が近くに必要がある必要がある場所に、アイはいる。正直さっきから嫌な予感しかしていないけど、ずっと否定し続けてる。
「サイボーグって事と、関係あるんですよね」
「あぁ」
その声は酷く冷淡に感じるほど低い、きっとクガさんも怒りを押し殺してる。
「…さっきの戦闘中、イチゴから検査結果が届いていた」
高速で移動しながら、声に緊張が走るのがわかる。きっと良くない知らせだったのはもう皆わかりきっていた。
「あの
最悪だという思いと、やっぱりかという落胆、そして趣味の悪さによる吐き気で感情がごちゃごちゃになって、頭が一瞬クラっとしかけた。それをアイが一瞬脳裏によぎる事でなんとか持ち直せた。
「パーツってやっぱりアレか?」
「脳と脊髄だ」
聞きたくない事をハッキリと言われてやるせない思いがこみ上げた、総数がわかったのは、コンテナの死体数イコール敵機の数だからで、今アイや捕まった人達はその材料にされそうになっている。
想像するだけで吐きそうになる胸糞の悪さを、バンッという大きな音が通信越しに比和子が鳴らしたから、目線と意識が比和子に向く。比和子が角を曲がる時に思いっきり通信をオンにしたまま壁を三角跳びのように蹴って移動した音だった。
「ッチ、嬢ちゃんまた加速しやがった!」
「そのまま加速しろ、目的地までもうすぐだ、最初に比和子が突入したほうが都合もいい、絶対に追いつく」
「マジかよ、これだからエース連中は!」
フライクさんが再び遅れ始める、本当は自分も同じ置いていかれる立場と技量の筈だったんだけど、今は不思議と体が動いていた。
「比和子、行儀の良い真似は終わりでいい」
「えぇ、えぇえぇ、待っておりましたその言葉、もっとも我慢できておりませんでしたが」
「上出来だよ、むしろ済まなかった」
どうやら、おとなしいと思ってたけど比和子はそうするようにお願いされてたみたいだ、多分合同作戦だし、ミッション難易度を甘く見ていた事もあった。
「あの扉が最後だ比和子!」
「了解です、突破致します!」
最後の曲がり角を曲がり、曲がりくねったコロニーを最初に抜けきった事を示すかのように、その機体限界近くまで上げた速度のまま比和子は扉を蹴破った。
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