回収部隊。

 作業は政府側からの調査員一名と護衛、パンゲアのパイロットがニ名、そしてパンゲアの調査員ですることになった。その間自分達ワダツミメンバーは周辺の警戒という役割分担になった。気になるのはクガさんが異常なほどピリピリしてるところだ。


「なんであんな気ぃ張り詰めてんねんやろ?」

「さあ?」


 理由はわからない、通信越しのイチゴさんも普段と様子が違うようだし、なにか心当たりがあるんだろうか?


「過去になんかあったのかな?」

「過去って?」

「わかんない、そう言えばクガさん達の過去って聞いたことないなぁ」


 わざわざ聞かなくてもいいと思っていたし、経歴だって軍に元々いて独立したってぐらいしか知らない。


「ウチも聞いてへんのよね」

「だよね」

「まあウチの方が後輩やし」

「あ、そういうのズルいと思う」

「言うてスノウより先輩って、あの三人しかおらんやん」


 そうなんだよね、自分達の組織は上にいるイチゴさんクガさん、そしてヤタさん三人が初期メンバーにして、主要メンバー。対してアイと俺と、それに比和子さんの後輩三人組が部下って形になる、けどさ。


「経歴で言ったらそっちの方が先輩じゃん」

「む、バレてもうた」


 クガさんの方もイチゴさんと個別で通信しているようで、先程からヘルメット越しに口を動かしているのが見える、さすがに空気がないから通信をカットされると何も聞こえないけど、まあとりあえず作業待「敵襲です!!」・・・。


 大声での通信で我に返り、比和子さんの方をみる。


 既に比和子さんは地面に空いた真四角の穴から這うように出てきた、さっきの自動兵器オートマトンと戦っている。


「そんなとこから!」

「皆様! 援護を!!」

「了解!」


 言われるがまま、湧き出る自動兵器オートマトンを撃っていく。頭部に当たるような場所を撃ち抜けば耐久力も高くなく簡単に撃破できる、撃破できるんだけど。


「数多くない!?」

「あかん、減らへん!」


 アイも一匹ずつ殴り飛ばしているけど、3人で倒しても倒しても湧いて出てくる法が多い、出てくる穴は3つに増えてるし、なんなら天井からも這い出てきてる。


「撤退するぞ! 作業を切り上げろ!!」

 クガさんの怒号に近い指示で、コンテナからパンゲアの調査員が出てきた。さすがと言うか、パンゲアの二人と調査員は既にコンテナから出てきて撤退するための道を開こうとしているのが見える。


「しかし遺体回収が!」

「無理だ! 回収部隊にでも任せろ!!」

「しかし!」


 この期に及んで政府の調査員はまだ、回収を諦めきれていないようで、未練がましくコンテナから離れようとしない。


「この、状況を見ろ!!」

「あ…うああああああああ!?!?」


 一瞬だった、逃げ渋った調査員の真下に例の四角形の穴が開いて自動兵器オートマトンの腕に引きずり込まれていった。


「クソったれ! 救助は…っち、できないよな!?」

「っち、しょうがない残ったヤツだけでも…」


 ライボームさんが悪態をつき、フライクさんが舌打ちをしながら、引き込まれていった調査員へ意識をやった瞬間だった。


「な!?」

 政府から派遣されていた護衛の人も、今度は天井に空いた穴から出てきた腕に引きずり込まれていく。


「ヤッコさん頭いいぜ」

「そのようだ…チクショウ、要救助者が増えちまった」


 あっちにばかり意識を割いてる余裕はコッチにもない、正直コッチも押されながら三人で合流して、既に搬出口で辛うじて耐えてるクガさんに近づいていく。


「いやいやいや、なんともし難いです!」

「やりにくそうやん、ソッチ」

「えぇえぇ、首を狙うのは得意ですが、こう這っていると狙いが下過ぎて」


 地面を這うように進んでくるせいで、刀だとどうにも斬りにくいようで四苦八苦しているのが見て取れる。一方でアイは蹴り飛ばせばいいのに気づいてコツを掴んでるようだ。


「スノウは順調そうやん」

「こっちだって連射数の壁があるっての!」


 軽口を叩いてアイなりに褒めてくれてるんだろうけど、ビームの射撃一発一発にクールタイムがいるし、実弾だと2・3発撃ち込まないと倒れない、ビームと実弾を交互に使ってやっとだ。


「揃ったら脱出するぞ、いいな」

「はい!」


 三人合流したことで、連携が取れるようになって殲滅せんめつ速度が敵が湧き出る速度を上回れて、なんとかクガさんと合流できる。後はパンゲアの人達がコッチに来れば脱出できる。


「イチゴ! 援軍要請は!!」

「もうしてる!! けど、この分だと時間が」

「…だろうな、ったく!!」


 どうやら援軍は期待できないらしい、極秘作戦らしいから当然と言えば当然だし近くに軍艦とかも通ってないだろう、何しろ宇宙は広い、宇宙だと近くにいるって言われたけど、数百キロメートル離れてるなんてザラだし。


「おいフライク!」

「っちぃ!」


 クガさんと合流して、近くの敵はアイと比和子さんにまかせて、パンゲア側の二人に援護射撃をしていたんだけど、とうとうフライクさんが掴まれる。


「っく・・・頭は穴の中かよ!」

「ウチがいく!!」

「ダメだアイ!!」


 止めようとしたけど遅かった、はじかれるように救出に飛び出したアイは即座に穴の中にあった頭部を蹴り飛ばしてフライクさんを救出する。


 ―――しかし、


「あっ…!」


 フライクさんを押し込もうと援護に来ていた自動兵器オートマトンに背後から羽交い締めにされるのが見える。


「ダメだ…それはダメだ!!」


 即座に撃とうとするけど、頭部がアイで隠れてて撃てないし、救出された筈のフライクさんも脱出しようと全力で抵抗していたのが解放されたので、距離が離れてしまっている、近くにいるライボームさんは調査員の護衛で手一杯。


「離せ! 離せや!!」

「今行くから、耐えて! 耐え…!」


 必死にアイは抵抗した、抵抗していたが一瞬で多数の自動兵器オートマトンに群がられてそのまま強引に穴に押し込まれた。


「アイ! アイイイイイイイイイイイイイ!」

 必死に叫んで通信を試みるけど返事がない。


「クッッッソオオオオオオオ!!」

 どけ!! 早くしないとアイが!!


「落ち着けスノウ!」


 急に、後ろに引っぱられて驚く、背後から自動兵器オートマトンに掴まれたかと思って焦ったが、引っ張ったのはクガさんだった。ヤラれたと思って一瞬背筋が冷えたおかげで、事態が飲み込める。


「クガさん、アイが!!」

「わかってる」


 落ち着いた口調で、クガさんはなだめるように頷く、けど自分でも相当焦ってるのがわかるし、動悸が止まらない。


「イチゴ、もういいよな、ライボームも捕まった」

「えっ…!?」


 振り返ったらパンゲアの調査員は、フライクさんと搬出口にたどり着いた代わりにライボームさんの姿はどこにも見えなかった。その代わりに、かなりの自動兵器オートマトンの残骸があって、生きてる機体は見当たらなかった。


「良かねぇ! クソったれ…ライボームまでヤラれた!!」

「わかってる、お前は一人でこっから母艦まで飛べ」


 そう言われると、戸惑いながらもパンゲアの調査員は母艦へと単独発進した、追いかける自動兵器オートマトンは居ないようだ。


「イチゴ、止めるか?」

「ううん、どうせだし、行くんでしょ」


 呆れたようにイチゴさんからの通信がはいる。

「予測データは、まあ中身を見ればわかるか」

「そうだね、概ね推測すいそくどおりだよ」

「だったらな…総員、説明は道中でやる」


 アイが、みんなが連れて行かれたのに、二人は何の話をしてるんだ?

そう考えていたら、クガさんが思いがけない行動をし始める。


 クガさんが生き残った俺と比和子、そしてフライクさんを見ながら肩の装甲パーツを外していく…肩が終わったら、腰、背中、脚部や腕、そしてヘルメットの装甲を外していく。


「おいおい、なんだそれ?」

フライクさんはソレを見てドン引きしながら、クガさんに質問を投げかける。


「道中ですると言った」

 クガさんが作業用機体の分厚い装甲を全部外すと、中には装甲がかなり薄い機体が出てくる、ヘルメットは前にアイと見たあの戦闘用のヘルメットだ。


「これより回収作戦を始める、異論があるものは?」

ソレに否定する人間はここには誰も居なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る