廃棄区画。
鹵獲機体を見送ったところで軽い休憩を挟みながら次の調査予定を立てる。途中気が紛れてるんじゃないかと思うぐらい雑談した場面もあったけど、基本的に慎重に進んできたのでここまで来るのに既に8時間が経過していた。
まだ距離的には大して進んではいないんだけど、調査しながらなので時間はかかっている。ここまでは一本道だったので、どのぐらいのペースで進むかなどを目安にしていたんだけど、ここからは分岐があった。
「さて、どっから行くかだな」
「候補ってどのぐらいあるん?」
「研究区画が多数に、廃棄区画、生産工場だな」
本命である研究区画は撤退状況によっては物は残ってるか怪しいし、パソコンなんかはデータを削除してる可能性が高い。それでも資料など持ち出しきれないものは期待できるだろう。
生産工場は兵器やその施設で研究したものを実際に組み立て、作る場所だろう。コロニー内の研究施設なら内部に併設してる事は多い。緊急で撤退したのなら試作機はもう無い可能性が高いけど、さっきみたいに稼働してたり、製造するための機械を見るだけでも情報は得られるかも知れない。
廃棄区画はゴミ捨て場だ、コロニー内のゴミを全部捨てて業者とかが引き取る為の場所で外に繋がってるから、出入り口の確保が目的になるのかな?
「あれ、そう言えばゴミってどうしたんだろう・・・」
「どうしたって?」
「緊急で放棄したなら、業者ってゴミを引き取れたのかなって」
そう言うとクガさんや調査員の人たちはヘルメット越しに顔を見合わせ「ありか?」「ありだな」と数度言葉を交わす。
「よしソレで行こう、目的地は廃棄区画だ!」
「了解です」
目的地が決まったところで休憩も十分取れたと判断したチームは、次の目的地である『廃棄区画』へと進路を向ける。
「やっぱり、ゴミを…?」
「あぁ、言われてみれば確かに、そこが一番可能性がありそうだ」
「そうなんです?」
クガさんが道すがら教えてくれたのは、どうやらこのコロニーには一斉にデータを消去するためのネットワークが組み込まれていて、何かアレばコロニー内でだけで繋がった通信回線から全てのデータを消去するシステムがあり、既に作動された後だったらしい。
「セキュリティとしたら万全なんだがな、おかげでデータは期待してなかった」
「それじゃあ無駄骨だったんですか?」
「いや、鹵獲したのもあるしまったくゼロじゃない」
収穫がゼロじゃないと聞いて少し安心する、なんだかんだ戦闘も苦戦品かったとは言え、ここまで来るのにかなり神経は使うし道中の道のりは長かったので多少は疲れもあったし苦労したという感覚もあった。
「ただまあ、コレといった物もなかったし、研究区画はデータ消されてたら終わりだし、生産工場も撤退するときに破壊されてたらこんな短期調査じゃ厳しいからな」
「それでゴミ捨て場ですか」
「あぁ、まだ残ってるものがありそうだしな、にしても刑事物でもよくゴミを漁ってたりするが、まさか自分でやることになるとは」
そう苦笑いしながら先へ進む道中敵はおらず、あっさりと廃棄区画の前に到着する。目の前にはコンテナを出し入れできるほどの巨大な隔壁と人間が作業用に入れるような扉、そしてその両方に巨大で真っ赤な『ハザードマーク』がついていた。
「うわぁ…」
「安心しろ、こういうとこには大抵つけてあるから」
「そうなんです?」
「だよな、ヤタ」
話を振られた通信越しのヤタさんからは「その通り」と返答がある。
「バイオハザードマークってのは世界共通で【生物学的危害】に対する警告なんだ」
「じゃあやっぱり、危険なんじゃないですか?」
「そうだな、船に戻るとき除染とか消毒は必要だ、ただバイオハザードマークってのは医療廃棄物を取り扱う場所ならついててもおかしくない」
詳しく説明を受けたのをザックリと自分なりに解釈してみると、どうやら血液みたいな体液だったり、医療用に使ったメスなんかもなんかの病気が感染する可能性があるから、バイオハザードマークをつけるものらしい。
「ここは医療研究がメインだったらしいからな、当然ついてるだろ?」
「確かにそうですね」
「ま、本当にウイルスとかだって可能性はあるが…まあないだろう」
そう言ってクガさんは自分の胸をトントンと叩き
「防護服なら最初から着込んでるだろ?」
と、返した。
その通りだ、このArcheもその下にインナーとして着込んでる全身タイツみたいな宇宙服も、基本的にウイルスは通さない。そもそも空気を通してしまったら宇宙空間なので死ぬんだからウイルスだって通さないし、宇宙は地上の100倍以上も放射線量が高いから、その対策で放射能汚染対策だって万全だ。
「除染装置は手配してあるから、頑張ってね!」
イチゴさんが通信越しに明るく声をかけてくるし、本当に大丈夫そうだ。いや疑ってるわけじゃないんだけども。疑ってるわけじゃないんだ、疑ってるわけじゃ。だけどなんか嫌な予感がするんだよな。
「どうかしたん?」
「いや、なんでもないよ」
「あんまあかんで、仕事に関わることでなんでもないって」
「いやさ、本当になんとなくで理由がないんだ」
「直感的なもんなんかー、伝えにくもんなーソレ」
そんな会話をアイとしてる間にも廃棄区画の扉を開けるための
「まあでもわかるわ、こんな場所アカン気しかしいひいんもん」
「雰囲気あるもんね」
やっぱりアイは、かなり慣れたものの少し怖がっているようだ。人数も居るし明かりもガンガン付けているとは言え、宇宙に漂う廃墟には違いないので仕方ない。明かりをつけて進んで見つかっても良いのかと言えば、別に
ガシャン、と機械が作動する音がしてゆっくりと廃棄区画の扉が開く。警戒はしていたが中にはドローンや自動兵器の姿はなかった。
その代わりに会ったのは大量の廃棄用コンテナで、地上だと10tトラックに積まれてるようなサイズで宇宙用に加工されたものがかなりの量積まれていて、その数は3桁はありそうだ。
「
「どないするん?」
「とりあえず片っ端から見ていくしかないだろ、フライク、ライボーム発着場は任せる、終わったら合流してくれ」
「オーケーリーダー」
フライクさんとライボームさんは廃棄業者がコンテナを積むこむための発着場へ向かった。発着場といってもここの壁沿いがそうなっているのでスグに退路は確保できるし、何かあってもお互いカバーしに行ける距離だ。
問題はこの大量のコンテナ、当然カギはかかってるので1つずつ破壊しなければいけない、幸運にも使い捨てのコンテナでこういうのを運ぶ業者は中を見るのは禁止されてるため、頑丈なカギは使われてなかった。
ちなみに、契約によってはコンテナごと溶鉱炉に入れたり、圧縮したりして廃棄するという事もあるそうだ。
肝心の開け方だけど、Archeの力で無理やり引っ張ってこじ開けるのが一番良さそうで、アイが力付くで観音開きのようにこじ開けた。自分のArcheだとそこまで馬力は出ないので時間がかかるから、近距離型の性能がどんだけピーキーなにか改めてわかって苦笑いが出る。
最初のコンテナは医療廃棄物、注射針とかガーゼとかが袋に入れて詰め込まれていた、知ってた、次。
2個目のコンテナは生活雑貨のゴミ、インスタント食品や液体も入ってて平常時は重量維持してたんだぐらいしかわからない。
3個のコンテナは産業廃棄物、金属製のものばかりで一瞬全員で期待したけど、内容は廃オイルや金属疲労によって取り替えることになった摩耗品で、変なものはなかった、次。
4個目にして、異変は起こった。
「あかん、コレ開かへん」
アイのArcheでもこじ開けれない頑丈な施錠がされたコンテナがあらわれたのだ。
「ペインハンマーでぶち抜く?」
「あほ、それだと中身までぶっ飛ぶだろ」
「せやったらスノウの出番やな」
「あ、そう言えば良いもの持ってた」
背中から重い重い、レーヴァテインを取り出す。本当は持ってくる予定はなかったがアレば便利ということで、荷物に入れておいたのを取り出す。さすがにコレで切れないという事はないだろう。むしろこれで切れなきゃ敵のArcheも斬り裂けないただの重りって事になるし。
ゆっくりと大剣であるレーヴァテインを振りかぶってカギを叩き切る。
わりと軽い気持ちで叩き切ったんだけど、その楽観的な心境は中を見た瞬間に一気に凍りついた。
「っ・・・!」
「・・・アカンわ」
「酷いな」
何故なら、中にあったのは大量のバラされた遺体だったから。
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