ラーン研究区。
メイン通路にある大きな隔壁、
「さて、防衛装置の御出ましだ」
「どうする、迂回するか?」
パンゲアのお二人が、最初にそっと中を確認したおかげで、まだ自動兵器には気づかれていない。そのまま扉を一度締め、落ち着いた時間ができたので、クガさんに指示を全員が聞く余裕ができた。
「型番は?」
「さあ、見たことない型だが、見た感じは地球…いや、やっぱコロニー産か」
「その心は?」
「地球産、特に極東の島国は人型にしたがるんですがね、ありゃちょっと人型だとしたら、4足で這いつくばった異形系に見えるんで人型とか関係ないな、と」
言われてみればなんとなく地球産のは人間とか動物、あとは鳥とかを模したものや、既存のヘリとか飛行機なんかの地上で使える乗り物を意識した形が多い。やっぱりそれは重力下でも使えるようにと、自分達の主な環境を意識しているからかな。
逆にコロニーは合理性重視で、ドローンは球体にブースターと銃口やカメラをつけたものだったり、コロニー外壁とくっつくように接地面を増やしたタンク型や4足型みたいなのが無人機には多い。資源が少ない分、無駄を減らしたいんだろう。
火星はよくわからない。本当によくわからない。
「実際見てみるか、どれ」
そうクガさんが言うと、扉を1cmほどの隙間を作るように開けて、小型のカメラを内部に放り込む。中の映像はクガさんの持ってきたノートパソコンを覗き込むことで確認する。
「なんやコレ火星産やないん?」
「人型に見えなくもないけど、間違いなくゲテモノだ」
非常用電源だけに照らされた通路を未だに巡回する機体は、確かに這いつくばった人間の形に見えなくもない2mに満たない胴体で、下部に4足を持ち、胴体の先に丸い全店型のモニターを付けた機体があった。しかもその奇妙な見た目をしながら、4本の足が壁や床に張り付き、まるで重力がないなんて感じさせないぐらい自由に這いずり回っていて、正直きもち悪い。
「これ、どうやって戦うんやろ」
「多分だが背中、と言っていいかわからんが、上に付いてるマシンガンだな」
「クガさんどれがなん…ってほんまや、銃座あるやんか」
通常時だからか折りたたまれているが、背中には銃座が付いている、おそらくこれも360度どころか上下にも自在に撃てるのだろう。
「そんでどないするん?」
「どこの製品であれ、未知の機体なら鹵獲しておきたい」
「ほな破壊せぇへんようにしなアカンね」
「いや、破壊して構わないぞ」
「へ?」
そう言われ破壊すると思い切っていたアイは、クガさんに意外そうなトーンの声を出しながら振り返る。
「今引き換えして持ち帰るわけにいかないからな、再起動しないぐらいには破壊しておく必要がある、応援を呼ばれないうちにな」
「どんぐらい増援あるんやろか」
「わからん、兵器製造もしてたんなら、結構ありそうだが稼働率がどうだか」
ここはあくまで研究施設なので、量産するような工場じゃない。だから軍事工場や倉庫を攻撃するよりは数は少なくなる傾向だとは思うんだけど、研究施設だからどれだけ試作機が作られてるかの予想もつかない。少なくとも実戦配備を実験的にかどうかは、わからないけどしているので、ある程度研究は進んでいたんだろう。
「とりあえずパンゲアの2人、フライクとライボームにそれとスノウは扉を開けた後すぐに各個射撃を開始、比和子とアイがその射撃中に接敵して各個撃破、アシストは国際調査員護衛のモンドは念のため俺たちの護衛を頼む」
しれっと名前出てきたけど、あの人モンドっていうんだ。聞いたことがない名前なのでわからないが、正規の軍人なのだろう。
作戦が決まれば行動は早い、各自それぞれどの個体を攻撃するか決め、ソレに合わせて扉前に陣取る、自分は一番右側の個体、扉は左から開くので一番最後に見える個体を狙うことになる。やはり一番遅くなるということは一番攻撃までにかかる時間が短くないといけないので、エースの肩書を持ってる自分が適任ということになった。正直荷が重いんだけど。
―――――扉を開く。
本来はスライド式のドアだけど、電源が落ちているのでロックだけは開閉できるように解除されている。それでも物理的に重いドアをArcheの力で強引に、襖をダンッという音がなる勢いで開けるかのようにスライドさせ、銃声が鳴り響く。
―――撃たれたのは、味方だ。
フライクさんが後方に吹き飛ばされるのが、ゆっくりに見える。とっさに扉から離れることを優先したので、俺はダメージを受けることは避けられたけど、予想外の先制攻撃に混乱する。なんでだ、なんで先に撃たれたんだ!?。
「フライク!」
「大丈夫、対人用ライフルだ」
生身用のマシンガンしかないように見えて油断していた、どこかに武装を収納していたとしてもおかしくはなかったんだ…!
―――いや、違うそうじゃない。
そんな事はどうでもいいんだ、問題はバレていたということ。待ち構えられていたんだ、でないと開けた瞬間にArcheに合わせた武器を取り出して撃つ、この動作を準備して開けたこちらより早くできるわけがない。いくらCPUの性能が高くても、物理的に武器を出す時間があるはずで、よくて相打ちのはず。最初からコッチを狙っていないと
「バレてた!?」
「ッ…全員有視界戦闘だ!」
クガさんが咄嗟に中に向けて手持ちのグレネードを投げる、それは一瞬だけ閃光を出して金属片を撒き散らした…スタングレネードだ。今のカメラやセンサーだとチャフによる妨害機能はかなり有効で、機械はまともにこちらを捉えられなくなる。これが戦場でドローンがArcheにかなわない理由の一つだ。
「了解、前に出ます!」
「いくで比和子!」
「えぇ!」
チャフの効果を信じて、開いた扉から体をだし、射撃を三回。それぞれ狙ったのは首の根元で、どれも一撃でカメラと思われる部位と胴体を撃ち抜けた。そうなってしまえば後は簡単でただでさえ混乱している機械達が抵抗できることはなくなり、簡単に胴体を二人の手によって切断された。
「怪我は?」
「大丈夫、飛ばされただけだ」
フライクさんの胸装甲に1cmほどの浅い銃痕ができている、これなら損傷は軽微で活動に問題はない範囲だ。終わってみれば戦闘自体は最初ヒヤリとさせられただけで、あっさりと決着がついた。
バレていたとしたら増援を呼ばれている可能性があったけど、レーダーにも反応はなく増援がくるような気配はなかった。
「ふう、待ち伏せだよね今の」
「せやろな、ようできた
AIとは人工知能の事で、コンピューターに人間が考えてることをやらせようという機能の事だが、現在完璧なAIは完成していない。できるのは最初から作られた命令を実行する事だけだ。
「相手を発見した場合、状況によって待ち伏せを選択するプログラムか・・・」
「できるん、って聞きたいとこやけど実際されてもうたし」
「できなくはないが、敢えてやる必要がないしな」
固定式のものなら待ち伏せしかできないのでわかるけど、自律行動が可能なユニットが、突撃せずに待ち伏せをしてきたというのは、なかなか珍しい事だった。ちなみに、バレてた事自体はArcheのバリアや熱源を壁越しに探知できるものを積んでいるなら簡単なので、驚くことじゃなかった。
「しかもこっちを見つけてないフリまでしてきてたな、なんとも人間臭い」
「そういうプログラム組むんって、どうなんやろ」
胴体の切断面を見てみると、ギッシリと機械が詰まっていて自分は何が搭載されていたかはわからない、ただ一つわかるのは首の根元に銃口が隠れていたことだ。
「こっから撃ってきたんですね」
「あー、わからへんわコレ」
頭に位置していた球体のカメラパーツと胴体の接続部の下に、銃口があった。暗い中でカメラ越しに見たんじゃこれは見つからなくてもしょうがない。だけど、その銃口よりも気になったのものができた。
「うわ…なんですかこれ」
「これだけ先に送るか、気味が悪い」
その気になったものは頭部に位置していた球体パーツ。接続部から透明な液体が漏れていた、それはすこしピンク色の液体が混じっており、俺の銃弾で破損した部分から漏れ出していた。
「ここで調べないんですか?」
「液体があるからな、ここで調査するのは難しいから送ったほうが無難だ」
最初にあったドローンのチップを送ったように、今度は比較的損傷の少ないパーツに小型機械を3つ装着してイチゴさんのいる母艦に向けて送り出した。自動の回収装置というのは、本当に便利だな。
―――後から思えば、ここで残った2つのうち1つでも開けて見ればよかった。
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