脳科学。
「ところでなんやけど、脳科学でなにするん?」
自分が聞こうと思ったところ、アイが切り出してくれた。正直脳科学と言われても俺自身、脳みそを調べる学問ということぐらいしか知らない。
「さあな、脳科学部門って文字しかこっちからは把握できないからな、それだけで研究内容まではわからないさ」
「それはそうやねんけど、そもそもの話、脳科学ってなにするん?」
「そっからか」
「だって、脳みそ関係ってことしかわからへんもん」
なるほど、とクガさんは言うと自分で説明しようと言葉を考え始める、けどもすぐに断念したようで通信越しにヤタさんを呼び出した。
「すまんな、こっちは電子工学はいけるが、医学は門外漢だ」
「そらそうだ…しょうがない説明する」
ヤタさんが言うには、脳機能を推測したり脳波、脳磁図、神経細胞と一口に脳科学と言っても更に細かく分野は分かれるらしい、ただ状況やオフィスの状況を見るに心理学という精神よりも、電気信号や脳波などの物理的な要素を研究してるんじゃないか、とヤタさんは推理した。
「そこまでわかるのか?」
「カメラに写ってる小さい小物の部品、そうだ、ソレは脳波計に使う」
ヤタさんが示した部品は細いコードの先に丸い金属みたいなのが付いている部品だ、ソレが廃品か予備部品だかはわからないけど、ソレをヘルメットのような装置に大量にくっつけて脳波を見るらしい。
「で、それと電子工学のと兵器との関連性は?」
「俺が見たことがある論文にはない・・・いや待て一つあったな」
「聞かせてもらおうか」
「
義肢装具とは義手とか義足の事だ、手足を失ったときに生身の体の代わりに、機械で作った手足を装着して、体の昨日を
「アレか、よくチラシとか広告で見る」
「今の御時世、厄介になる人は多い」
戦闘で手足を失ったという話はかなり多い。いくらArcheという金属の鎧やバリアを貼っていても、ダメージを受けて撃破され、命は助かっても部位を欠損してしまったというのは日常的に聞く話だ。
一応今は再生医療も発展して頑張れば腕の一本も再生可能だというが、それにはかなり高額の費用と時間がかかるので、治すにしてもソレまで
「確か、義肢って武器を仕込めるんでしたっけ」
「そういうモデルがあるらしいな、チラシで見た」
「武器をつけたって宇宙服とか着るのに…」
「機械部品のとこから、Archeとか宇宙服を露出させるんだよ」
その構造だと破損したときが怖そうだな、と思ったけどスリムになる分だけ、当たる部位は気持ち少なくなるな…誤差の範囲だけど。
「なんというか、重そうやなぁソレ」
「実際かなり重いらしくて、月とか重力下だと使えんらしい」
「ほな、ずっっっっと無重力生活なん?」
「いや、軽いやつと付け替えるらしい」
「なんか、便利なもんやな」
ただ、毎回メンテナンスや取り付け作業をしないといけないと考えると、結構大変そうだなぁ、できる限り自分はお世話になりたくはないな、腕が損傷するとか絶対痛いし。傭兵してるからって痛いのが平気なわけじゃないし。
「じゃあここは、平気運用可能な義肢装具の研究施設だったということか」
「可能性としては、正直まだ何とも言えない」
「あのあのあの、少し質問よろしいでしょうか!」
「どうした、比和子」
「素人質問で恐縮ですがッ!」
そういった瞬間クガさんに国際機関の調査員さん、更にこれまで冷静で無口だったパンゲアの調査員や通信越しのイチゴさんとヤタさんまで「ヒッ」やら「ウッ」などという悲痛な感じの声が漏れりビクッとした反応を見せた。どうやらこの切り口からする質問は一定の人間に効果が絶大らしい。
「比和子、その質問の仕方は今後控えて欲しいな」
「おやおやおや、そうですか、よくわかりませんが善処します」
「それで、質問は」
「いえいえ、
その質問にクガさんは押し黙る。言われてみれば当然で明らかに義肢装具でこの規模のコロニーはおかしい。そもそも義肢装具の研究はかなり盛んで一般企業も参入している分野。既存コロニーを流用してたとしても、コロニー一つを使った研究で採算は取れないと思う。
「本当に素人質問の前置きで飛んできそうな質問しやがって…」
「それで、どうなんでしょうか」
「言う通りだ、経営者の立場から言えば明らかにオーバーだ」
「えぇ、えぇ、えぇ、やはりそうでしょう」
「義肢装具だけであってくれと正常性バイアスでもかかってたかな、こりゃ」
正常性バイアスって言うのは、確か予期しない事態に出くわしたときに、『そうであって欲しい』『今回は大丈夫』みたいな自分にとって悪い考えだったりを無意識に軽んじたり、切り捨てたりすること。
ただ義肢装具だけではない、としても結局何を研究しているかの結論は出なかった。さすがに今の段階じゃ情報が少なすぎるし、そもそも義肢を作ってるかだって単なる予想のでしかないし。
「ま、とりあえず進むしかないな」
「はい、次はラーン区域ですね」
「ラーンか・・・エリダヌス座のラーンと言えばなんかあったっけかな」
「エリダヌス座のラーン、うーんなんにも知らないですね」
進みながらクガさんがふと疑問を口にする、だけど実際の星座がどうこうとかは航行中の暇な時間に見たりするけども、詳しく調べたわけじゃないからメジャーどころは知っていても、こういうことは知らないことのほうが自分は多い。
「あれかい、北欧神話の事言ってるのか?」
そう答えたのはパンゲアの護衛の人だ。エースパイロットじゃないにしても、腕は立つと聞いているし次期エース候補だと太鼓判を押されている名前は確か。
「いや、もっと別だよフライク」
そう、フライクさんで。もう一人のパンゲアの護衛はライボームさん、二人で良い連携を取ると評判らしい。
「じゃあアッチか、太陽に近い恒星ってやつ」
「そうだ、ソレだ結構創作にも使われてるヤツだ」
クガさんがスッキリと納得したらしく手を叩きながら嬉しそうな声を上げる。
「SFドラマとかでよく見る惑星だな、20世紀のやつにも出てた」
「おいおい、その20世紀のやつは今も続いてるだろ?」
「そうだった」
パンゲアの二人が盛り上がっている、そのSFドラマは自分も見たことがあるな、全世界で大ヒットを起こし、この宇宙時代が活気づき、発展を
「俺はソレもだけどアニメとゲームで見たな」
「あ、クガさんもゲームやるんですか?」
「やるぞ、浅く広くだけど」
「それじゃあ今度一緒にやりましょう」
3人でオフの時ゲームをする約束をし始めたが、3人とも視線はお互いを向いてない辺りさすがなんだけど、緊張感があるのか少し心配にならなくもない。
「私はラーンと言えばロボット帝国だけど、そんなことより先に進まないの?」
「すまない、切り替える」
イチゴさんが少し呆れた口調で言いながら進行を促す。クガさんはそれに申し訳無さそうに答えて、パンゲアの二人は「怒られちまったな」と二人して肩をすくめて先頭に立って進む。
ただ、実際は話してる間にも進んでは居たから、もうラーン区画への入り口は目の前まで来ていた。
そしてここからが、本当の探索の始まりだった。
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