二日目。

「そこまでだ」


 ヤタさんを先頭にナンパ男たちに声をかける、アイとイチゴは苦笑いしながらそれぞれおこっちに移動して来たから良いんだけど、比和子だけが目が座ったまま移動しない、アレ戦場モードになってない?


「ほら、あんな優男よりこの子はコッチがいいって」

「はて…誰が優男でしょうか」

「ストップ、比和子」


 今の比和子を見てよくそんな軽口を叩けるなと思ったけど、相手の表情なんて見てなくて、適当に言ってるだけなんだろう。ヤタさんが止めなかったら本気で喧嘩になってそうな比和子を、ヤタさんは手招きして呼ぶ。


「おい次、行こうぜ」

「あ、なんでだよここで引き下がれるのかよ」

「引き下がれって、いいから」


 ナンパ男達はコロニーでナンパしてきたアイツよりは物分りが良かったようで、スグに引き下がっていく、というか引き下がらなかった…あの名前をまた忘れたヤツが変なだけなんだけど。


「まったく…よく我慢したな」

「いえいえ…少しイラっとしただけですよ?」

「…あぁ、それでもだ」


 ヤタさんは比和子の頭を撫でながらパラソルの方に移動する、一方でクガさんはイチゴさんを連れてどこかに連れて行った。自分はアイの左手を握って海水プールに連れていくんだけど、アイが自分の右手のひらを見つめながら、握ったり開いたりを繰り返している。


「どうかした?」

「ん、なんでもないで」

「嘘でしょ、なんかあるって顔してる」

「あー…ちょっとなぁ」

「違和感でもあるの?」


 言いづらい顔をしながらアイは誤魔化すように、右手顔を掻くような仕草を見せて目が泳いで何か言い訳を考えてるように見える。


「誤魔化さないでよ」

「んー…ええか、ちょっと違和感あるだけやで」

「違和感ってどのくらい?」


「拳思いっきり握ったらなんか、折れた辺りにいやーな感じしただけやで」

「大丈夫なの?」

「リハビリ、もうちょいしたらええと思う」


 だったら大丈夫かと思い、アイの両手を掴んでプールの中を移動すると、ゆっくりとアイが水中に浮かぶようにして泳ぐ…というか引っ張らられる。


「これは違和感とかあるの?」

「んーん、コレぐらいやったらないで」

「そっか」


 アイは軽くバタ足をしながらついてくる、アイは泳げないわけでもないんだけれど、なんとなくこうしたいからこうしていたら、アイの後ろから波が来て二人でもつれあうように、水中に沈む。


「プハッ……あー、しょっぱい」

「方向がわるいわー、もう」


 二人で笑い合い、夕方まで海水プールを楽しんでビーチに上がると、クガさんが引き上げる準備を開始していた。引き上げると言ってもパラソルセットの撤去は業者さんがやってくれるらしく、延長料金を支払うだけだけど。


「おかえり~、仕事の話で悪いんだけど、明後日から出撃できる?」

「俺は出来ますけど…」


 アイの方をチラッと見る、アイは右手が本調子じゃないので、見送るのも選択肢の一つで、本音は大事を取ってほしいんだけど、本人の意思は尊重したいので判断はアイに任せよう。


「いけます、でも…ちょっと調子悪いんだけ」

「オッケ~、じゃあ詳しくは明後日にミーティングするんだけど…先にどこに行くかだけつたえとくね、エリダヌスコロニーです」


「嘘やろ、失敗したんか、二回目も」

「…うん、公式発表はまだだけどね、今回は二人の犠牲、一人の行方不明が出たタイミングで早期撤退をしたから、被害自体は前回よりは軽いんだけど…」

「失敗は失敗やな」

「そうなるんだよね~…」


 さすがにここまで廃棄コロニーの調査で難航すると、上層部は思っていなかったのだろう、ただ二回も調査が失敗して、その施設が月面のスグ近くに流れてきているのなら別の判断をする選択肢も視野に入るはずだ。


「いっそ破壊しないんですか?」

「私もその方がいいと思うんだよね、ここまで来ると」

「自分もです、破壊したほうが…」


「でも、これが相手の戦力として実装されてると対策を練らなきゃマズイし…それにこのコロニーの所属もわかって、見逃せないって意見も出てるの」

「どこの所属なんですか?」

「蛇遣い座だよ」


 蛇遣い座、黄道上にあるが十二宮に属していない星座で、中立を謳っている研究メインの国際コロニーである、四大コロニーにも数えられる。ただ中立と言っても戦争に非介入というわけではなく、各国に研究費を貰えば本当になんでも研究するし、武器の開発や改造も請け負う死の商人である側面もあり、全ての勢力から警戒されている厄介な勢力だ。


「…蛇遣い座の廃棄コロニーってだけで押収価値が高いよね」

「確かに」


 コロニー側の技術力が高いのは、蛇遣い座と一番親密な勢力だからという要因が強い、確かにここを押さえればコロニーと技術の差を埋めれるだろうし、もしかしたら現行の機体のデータも手に入る可能性がある。


「それで自分達に依頼が」

「前回断ったんだけどね…自主判断で撤退とクガの同行を条件にして、後はパイロット全員がOKなら…って感じ、断ってもいいんだよ?」


「俺は大丈夫です」

「ウチもええで」


 二人で一緒に作戦に対して賛同すると、迷っていた様子のイチゴさんは一度深く呼吸をしてから、覚悟を決めた顔をしてタブレットを操作する。


「わかった、もうヤタと比和子の許可も出てるから受注は決定だよ…作戦はこれから頑張って練るから二人はこの間に休息と準備を」

「「はい」」


 そこにクガさん達が戻ってくるので、イチゴさんはクガさんにタブレットを見せながら作戦会議をしながら移動して行く。


「エリダヌスやって、次」

「また室内戦だ…続くよね最近」

「ほんまや…うちコレで4連続やで」

「俺は三連続か…」


 二人で肩をすくめて一緒にホテルに戻る、塩で身体がヌチャヌチャなのだが、海水浴帰り用の専用エレベーターが設置されており、そこから宿泊してる部屋に戻る。ホテルキーを差し込んで部屋に戻るとアイは真っ先にシャワーを浴びに行く。


「スノウもはよ」

「俺は次でいいよ」

「…と思うんやけど、そんなヌチャヌチャでベッドに座られても困るやん?」

「立ってるって言うても、ウチ長風呂やん」


 アイは手を引きながら強引に部屋についている浴室に連れていき、水着のままでシャワーを浴びせてくる。


「別に脱がへんでも塩水ぐらいは洗い流せるやん?」

「そうだけどさ…」


 アイはシャワーを俺に渡すと、バスタブの蛇口が別なのでバスタブに温度調整してからお湯を出して様子をみる。


「なんや、一緒にお風呂にでも入る思ったん?」

「思ったよ、積極的過ぎてビックリした」

「ないない、ウチそんなんしたら固まるで?」


「自分で自覚してるんだ」

「あんだけやったらそら自覚もするって」

「なるほど」


 そう納得しつつも、一つの浴室に二人で入ってるこの状況も冷静に考えれば危ないと思うんだけど、アイはもっと恥ずかしい状況が回避できてれば、今の状況も大概だと気づかない傾向にある、なんというか抜けてる部分があるよね。


「…どないしたん?」

「ん、水着かわいいなって」

「せやろー、結構選ぶん時間かかってん」


 ずっと見てたせいかアイに不審に思われてしまったので水着を褒めて誤魔化す、そういえばまだ水着を褒めてさえいなかったので、後で不機嫌になられたかも知れないので危なかったのかも。


「その、改まって言われると結構照れるもんやな」

「俺としては…お風呂場に連れ込まれたのも大概だと思うけど」

「え…? あぁーそれはやなー、ほら効率的やんソッチのが」

「そうだけどさ、じゃあゆっくりね」


 お風呂場を出て、食事を予約して、ふう…と溜息をついた瞬間に身体から一気に力が抜ける。緊張した、一緒にお風呂場に入るのは水着でも心臓に悪い。あー…もう、アイは変なところで無防備すぎる。


 そのうちアイがお風呂場から出てくるので、顔も見れずにさっさと交代してお風呂に入って、身体を洗ってお風呂に入ってから出て、食事が届いてたので二人でディナーにする。


「そんで…明後日やんな、出撃」

「本当に右手大丈夫?」

「大丈夫やで、Archeの補助もあるし」


 出撃が決まってしまえば話題は当然その話になるのがパイロットの習性だ。実際こういう話題は出撃したときに結構影響が出てくるのでするだけトクではある。問題点は致命的にムードに欠けることだけど。


「無理なら即時撤退してね」

「わかってるって…そっちこそムチャしぃひんでや」

「うん…相手は機械だけだし大丈夫だと思うけどね」


「そこがアカンと思うんや、ウチ」

「なんで?」

「多分そういう油断したから、先遣隊はヤラれたんやと思う」

「なるほど」


 会議のような会話は始めると時間が過ぎるのが早く、気づけば夜も遅くなっていて、昼間遊び続けた事もあり眠気が強くなったせいか、二人して欠伸をしてのでベッドに入ることにした。


「おやすみー」

 アイが先にベッドに潜り込もうとするのを、手を引っ張ってコッチに向ける。


「どないした…ん!?」

 振り返るアイ合わせて、重ねるだけの軽いキスをする。


「おやすみ、アイ」

「う…うん」


 アイは驚いて、俯いてしおらしくなったけど、そのままベッドに入って背を向けて布団をかぶる。自分も一緒に入って背中から抱きしめてそのまま目をつぶる。


 目標であったキスをして興奮して寝れそうにない、目が冴えて心臓が高鳴って高鳴って、同時に疲労がドッと押し寄せて。



 気づいたら朝だった、嘘だろ俺。

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