流されるプール。

 アイの手を引いてビーチへ向かう、だけど目的地はビーチではなくその先の遊具施設、さすがに遠いのもあって途中でバスに乗って向かう、コロニー外周半分近くがビーチだけど、商業施設もあり中は温水プールだ。


「そういやあるんやっけ」

「そうそう、いいでしょこういうのも」

「うん、結構すきやでこういうの、ほんで何するん?」

「とりあえずウォータースライダーでもやる?」

「ええやん」


 二人で手を繋いでウォータースライダーの頂上まで行く、二人用の専用ボートに乗るタイプで、ボート自体は結構小さく自然とアイを後ろから抱きしめる形になる。


「結構恥ずいんやけど…こーゆーやつ」

「じゃあ一人で滑る?」

「…二人でええ」

「だよね」


 ココぞとばかりに、アイを後ろから抱きしめる、嫌がられるかすこし不安があったけど、拒絶する素振りも見せず、むしろ体重を預けてくれる。


「ほぉら、女の子の柔肌やで?」

「柔肌………?」

「そこはお世辞でも柔らかいとかうたり、照れるべきやろ」


 見上げながらイタズラな笑みを浮かべながら軽口を叩いたが、アイのお腹が柔らかいかどうかで少し、戸惑ったので、呆れたようにジト目を向けられる。


「ぎゃくにプニプニって言われても嫌でしょ」

「…確かに」


 さすがに思いっきり腹筋が割れている訳でもなく、薄っすらと筋肉がついているのがわかる程度なのだが、触ってみると結構締まっているのがわかる、多分力を入れれば割れてる腹筋が浮き上がるんじゃなかろうか。


「嫌でもな、乙女としては柔肌っていうのは捨てとうないんやけど、せやかてこう鍛え上げてる筋肉をプニプニって言われるんもやっぱ腹立つやん? ってことはアカンやんこの質問した時点で詰んでるやないくああああああああ!!」


 アイが早口で考えている言葉をつらつらと述べている最中にウォータースライダーは出発した、急な発進で思わずアイの言葉が最後叫び声に変わったが、恐怖というよりも驚いただけだろう、そういえばボートの上で順番待機中でしたね。


 ウォータースライダー自体はロングコースの透明なチューブを進むタイプだ、チューブタイプの理由はコロニーでは高くなればなるほど慣性や重力が変わるので、コッチのほうが設計が楽なんだそうだ。


「…ふー…舌噛みそうなったわ」

「出発前にあんなに喋るから」

「出発アナウンスとか聞いてへんかったわ」

「だろうね、俺だって聞いてない」


 アイの言葉に集中しすぎて、全く聞こえてなくて、実は自分の声を上げそうになっていたのをグッと堪えることに成功していた。


「思ったよりスリルあるんやね」

「だね…なんでだろう」

「自分でコントロールしてへんからかも」


「そう言えばそんな話あるね、戦闘機乗りでもジェットコースターは怖いって」

「それに落ちるんってマイナスやからなぁ、加速度」

「あー、だから」


 下方向に落ちたりする時に感じるマイナス加速度-Gは、戦闘機のりでもArcheパイロットでも生理的に嫌うパイロットは多い、理由は普通に感じる加速度よりも圧倒的に肉体が耐えれないし、気持ち悪くなるからだ。


「マイナスGを好きなパイロットなんておらへんやん?」

「確かに、アレも楽しいなんて言えるArche乗りなんて…」


 そこまで言った時に、自分達より年下で黒髪の鬼から移籍してきたエースパイロットの充血しながら無邪気に笑う姿が脳裏によぎった。


「いるね」

「おったわ、身内に」


 二人で顔を見合わせる、極めて特殊な事例だとわかりつつも、ごく親しい友人関係にその例外がいるとなると、先程の会話は間違いだと否定せざるを得ない。


「あれやな、産まれついてのArcheのりって、ああいう子を言うんやろな」

「だね、ちょっと真似できる気もしないし」

「ちゅーか、アレを真似したらアカンって、敵より前に自滅するやん」


 スーツなしで8Gに耐えれるようなパイロットでも、マイナス3G程度が限界だ、なのにあの友人はそのマイナス3Gを平気で戦闘中にし始める。敵からしたら普通は警戒しない動きなのでできるなら有効なのはわかるけど、普通はしない理由が命の危険の方が遥かに大きいきいから。


「…そんで、もっかい行くん?」

「いこっか」


 ウォータースライダーの後は流れるプールに合流するけど、一度プールサイドに上がってもう一度ウォータースライダーを楽しんで、それから流れるプールに入って身を任せる様に二人で流れていく。


「なんでこれが夜になったら緊張するんだろ」

「雰囲気ちゃう?」


 二人で、だらんと気を抜きながらプカプカプカプカと、流れるプールを流れていく、ボート伝いに水が背中を流れて気持ちいいし、アイを抱きかかえてるのも幸福感がある、ずっとこうしていたいぐらいだ。


「…決めた」

「なになに?」

「今日お酒飲まないようにする」

「正気なん?」


「…飲まない」

「休みやのに飲まへんの?」

「そっち方面から攻めるのズルくない?」

「せやろか、でもせっかくの休日やで?」


「でも昨日のんだし大丈夫」

「シラフで一緒に寝るん?」

「うん」


 アイが一層深くビニールボートに沈み込む、ここで固まるのはわかってたから、優しく頭をなでながら少し体勢を変えてアイの顔を上から覗き込む。


「昨日のヤタさん達のこと言えないね」

「………う、うん」


 今日は赤面しながらも、まだ喋れるようで顔を見上げながら潤んだ目でコッチを見つめてくる、そんなアイのほっぺたを両手で優しく包み顔を近づける。


「へ………ちょ…まっ…」

「待たない」

「人多いんやって!」


 そこでハッとする、確かにココだと人目につきすぎるし、カップルが多いとはいえ冷静になると恥ずかしくなってくる、ダメだ、焦りすぎた。


「…ごめん」

 アイの頬を誤魔化すようにふにふにと触りながらほぐす、アイは緊張をほぐす為に何度も深呼吸しながら、落ち着いて姿勢をもどすと、ビニールボートをプールサイドに寄せて、プールから出る。


「ご飯食べよ、んで向こうと合流しいひん?」

「…だね、なにがいい?」

「んー、アレがええ、おごってーや」

「いいよ」


 二人でローストビーフバーガーとコーラを買って、バス停に移動しながら食べ歩く、お昼より少し早い時間だからかバス停は空いていて、ゆっくりと席に座って最初のビーチに戻ってくる。


「おかえり~、ちょうど良かった! アイちゃんちょっとこっち来て!」

「なんですのん?」

「比和子と三人で一緒に、ショッピングいかない?」

「ええやん、いきましょ!」


 女性陣三人が揃ってショッピングに向かい、男性陣三人はビーチパラソルの下で取り残される、二人共ゆったりとビーチチェアの上に寝転がって休んでいる。


「お疲れですね」

「ちょっとイチゴに朝から付き合わされてな…」


 苦笑いしながらクガさんは空を見上げながら、頭の後ろで腕を組んでサングラス越しに人工灯を見つめている様子だ。


「そっちはどうなんだ、少し落ち込んでないか?」

「あー、ちょっとうまく行かなくて」

「恋愛か? 相談なら乗るぞ、そこのヤタよりはマシだから」


「失敬な」と反対側から聞こえてきたがスルーしつつ、クガさんに今日の出来事を話すと、クガさんは一笑したあと「すまんすまん」と謝りつつも少し目を閉じて考えを纏めてから、アドバイスを始めた。


「お前ら二人ってファーストキスだろ?」

「…たぶん、少なくとも自分は初めてです」

「だったら、尚更ムードを大事にしてやれ、さすがに人混みの中だと慣れてても恥ずかしいし、嫌がる女性も多いぞ?」


「…反省してます」

「ま、そうだな…食事前の夕日とか、食後とかゆったりした雰囲気でトライしてみるのがいいんじゃないか、お前ら二人なら」


「ゆったりした時に」

「イチゴだってムードにうるさいからな」

「クガさんはどうしてるんです?」

「俺か? 俺はなぁ…後でだな」


 そこでクガさんは少し考えて黙ってしまう、自分もソレ以上は追求せずにゆっくりと身体を休めていると、女性陣が帰ってくるのが遠目に見える。


「あ、戻ってきました」

「…だな」


 遠目で三人が帰ってくる様子を見ていたら、道中で三人一緒に男に声を書けられてるのがみえる…おい、ちょっと何してんだアイツら。


「アイツら何してるんだ」

 自分が思ったのと同時に、ヤタさんも声を上げる、自分の彼女がナンパされるのを見ると、やっぱりヤタさんでも不機嫌になるんだろうな。


「アイツら死にたいのか」

 そう言ってヤタさんが駆け足で向かっていく、よく見ると比和子の目が怖い、笑顔だけど静かな殺意を感じるし、いつ手を出してもおかしくない気がする、あぁそうか、これ危ないのはこれナンパ男たちの方だ。

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