ホテルルーム。
ホテルは高そうな部屋だった二部屋あるタイプで二人でまず寝室を同時に覗き込むと、確認するまでもなく目に飛び込んできたのは、キングスサイズベッドで二人で一つのベッドを使うのがひと目でわかった。
「あー…、うんバルコニーあるで」
「わーほんとだー」
バルコニーはチェアが二つとテーブルが一つセットされていてリゾートエリアが見渡せるし、コロニーの中だけど風が吹いて心地よい、どういう原理だろう。
「もう夕方やねぇ…」
「そうだね…なんか食べる?」
「せやね、早めやけどディナーやね」
ディナーは客室のリビングでとれるタイプで、こういう形式の夕食のことを、インルームダイニングディナーと呼ぶらしい。
「最近なー、悩みがあんねん」
「なんの悩み?」
「ここ来てからなー、食事ってメッチャ豪勢になったやん?」
「…だね、正直自分もここまで良いものが食べれるって思ってなかった」
「そのせいで舌が肥えてきてんねん」
「あー、ヤバイね」
「せやろ? やっぱジャンクフードとか食べとかんとアカンねんって」
舌が肥えると、宇宙食にも満足できなくなってくるし、より良いものを求めてそれに慣れてしまって、物足りなくなっていう悪循環に陥ることがある、その典型的な例がクガさんで、食事付の質を追い求めてしまっている、もちろんクガさんは美味しければジャンクフードも好きではあるし、趣味になっているから不幸でもない。
「でも、食事の質をワザと落とすのって苦痛だよね」
「そこやねん…」
多分今だと、朝ごはんにトーストに牛乳というシンプルな朝ごはんでも、物足りなさを感じてもう一品を求めてしまう。
高級ディナーを食べ終わり、ホテルスタッフにチップを渡して片付けを任せ、二人でまったりと夜の海を眺める。人口灯も月のような見た目になり、暗くはなるのだが、夜の繁華街ぐらいには見渡せるぐらいで、ナイトビーチも十分楽しめるんだろう。でも人工の波がよく見え、上にある逆さまのビーチや建物を見なければ本当の海だと見間違うぐらいにはよく出来ている。
「「………………」」
長い沈黙が流れる、気まずい、すっごく気まずい。
「あー、お風呂でも入ってくる?」
「せ、せやな、ちょっと行ってくるわ」
アイが客室に備え付けてあるお風呂に向かっていく、ふう…とりあえずコレからどうしよう、いやどうしようって訳でもないんだけど、まだ手を出すのは早いって、いやもうこれは逆に手を出さなきゃ失礼なんだろうか、据え膳食わぬは男の恥って言うしやっぱり…いやいや。
あぁ、クガさんなら…いやあっちはもう熟練夫婦みたいな空気すらあるから参考にならないし、ヤタさんも違う意味で参考にならないぞ? あれ周りにマトモに参考になる大人がいねぇ! いや俺も大人ではあるけどさぁ!!
「お風呂お湯張らなアカンかったわ」
「お、おおおおおかえり」
「なんや急に16ビート刻んで」
「な、なんでもない」
ダメだ、これじゃあいつも固まるアイを笑えないぞ、いやでもさ、大事すぎて触れないってなんなんだよって思ってたけど、いざ大事にしすぎると手を出すのが怖い。
「…なんや? お風呂覗こうとでも思ったん?」
「いやいや」
「なんやったら一緒に入るかーなんて」
「入んないから」
「あはは、せやろなって」
久々にアイにからかわれる、よっぽど余裕がないんだなっと言うことを自覚するけど、こうなってしまうと感情の制御がままらならない。
「んじゃ、お風呂もらうでー」
「どーぞー」
「いっそ、一緒に入るぐらい勇気があればなぁ…」
「は?」
しまった、つい本音を呟いてしまった、どれくらいの声量だった? 多分小声で言ったとは思うんだけど、あの反応は絶対に聞き取られてる。
「…はいる?」
「や、やめとく」
「あ、うんほなな」
気まずい空気の中アイがお風呂に入ってく…マズイ、絶対引かれた…。頭を抱えるこ体感数分、湯上がりでバスタオルを撒いた状態のアイに肩を叩かれる、アイは長風呂のはずだから結構長時間頭を抱えていた筈だけど、ショックすぎて短く感じていたらしい、アイが赤面中一瞬だけだと思ってたらしいから、同じ感覚かな?
「お次どーぞ」
「うん」
サッと身体を洗ってから湯船につかる、さてこれからどうしようか考えないと。と考えたところで明暗は浮かばないし、コレ以上はノボセそうだから風呂から出る。
「いいお湯でした…ってアイ?」
「おーかーえーりーやーでー」
戻ってきたアイはお酒を飲んでいた、しかも結構強めのお酒を頼んでお風呂に入ってる間にできあがってしまっている。
「アイ、それは卑怯だと思うよ」
「なんや、あんたも飲むんや!」
「…しかも絡み酒?」
「ちゃう、これがいっちゃん平和的解決法やって思うんや」
「…一理ある」
お酒を飲むと二人共どうでもよくなって、だいたい二人で何事もなく同じベッドで寝れる、これだと後々ありそうな自分がソファーで寝るとか気を使ってお互いで揉めることも回避できる、なるほど明暗だな?
「飲むよ」
「よっしゃ、どんどん飲も!」
これの問題点は二人共お酒の記憶が残っているタイプなのと、たが自体は外れるので翌朝二人して悶えることだ。
案の定、翌朝二人してベッドの上で悶ていた。
とりあえず記憶を遡ってみるけど、大丈夫変なことにはならなかった、ただこの作戦は危険な気がする、そのうち何かのはずみで酔っ払ってる間に大事な一線超えまくってしまいそうだ、むしろファーストキスすら酒の勢いでクリアしてないことが奇跡なんじゃなかろうか…うん、このままだとダメだ、決めた。
「おはよう、アイ」
「うー…おはよ…」
「二日酔いしてる?」
「ん………んー……ちょっとダルいけど、大丈夫やな」
お互い二日酔いに耐性があるのは、日頃酒を余り飲まなくて休肝日が長いのと、元々のアルコール耐性が高いおかげだろう、それでも少し残ってる日もあるけど。
「とりま…ビーチやな」
「その前に朝ごはん、倒れるよ」
「はーい」
二人で食べる朝ごはんは美味しくて珈琲で目が一気に覚める感覚を覚える。その後別々の部屋で水着に着替えて、決意の証とばかりにアイの手を握って部屋を出る、鍵はちゃんと部屋に忘れていないのをチェックしてビーチに向かう。
二泊三日の旅行の二日目だけど、明日には帰ることになるので今日が実質最終日、ここで一歩だけでも関係を進展させよう。
「スノウ、手強く握ってどないしたん?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してた」
「アカンでー、隣に恋人がおんのに」
その恋人の事で悩んでたんだけどね…よし、今日こそキスまでいく。
そんな決意を元にビーチへと繰り出した。
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