水着回。
「再現してるのはいいが…暑いな」
「湿度は低いんで…いいんじゃないですかね」
「喉が渇く」
辺りを見渡すと、ところどころにワゴンで販売しながら歩いている人が見える。
「なるほど…いい商売だ」
「…ですね」
さすがにどうしようかと悩んでいると、ヤタさんが何の迷いもなく呼びつけていたのでソレに便乗することにする、自分が買ったのはアイと自分のドリンクに、ソフトクリームをひとつ、待ってる間に食べよう。
「あ~! ソフトクリーム食べてる!」
そのソフトクリームを食べ終わる頃、イチゴさんの声とともに女性陣が現れる。
「オフショルにしたのか」
「うん、どう?」
「似合ってる」
「えへへ~」
イチゴさんが選んだのは薄目の色をしたピンクのオフショル。オフ‐ショルダーの略で両肩が出てるのが特徴のフリル系の水着で、二の腕まで布が一体化している。
「スノウ、ジュース」
「ほら」
「ありがとーさん」
アイの水着は白色のフリルにパレオを着けたもので、南国感があり見た目だけは清楚に見える、実際アイが清楚かと言われたら…まあギリギリ清楚かな? 少なくとも飾り気はないし。
「お待たせしました!」
「ん、ジュースだ」
「ありがとうございます!」
一番後ろにいた比和子が着ているのはシンプルな黒の水着。
そう言えば三人とも身長が低い、一番高いアイでも157cmだっけ。
「なに人の水着見とんねん、やらしーわー」
「いやさ…もしかして比和子の水着選んだのかなって?」
「よぉわかったやん、せやで、ちょっと色々あってん」
「競泳水着選ぼうとしたとか?」
「…正解や…っちゅーことはソッチも?」
「うん、ヤタさんが」
「あー…なるほど、そら人の水着見ても仕方ないわ、不問や」
「ありがたきしあわせ」
「ちなみにヤタさんは競泳水着否定したらブーメランにしようとしてた」
「そこも同じやん…」
「ビキニ?」
「水の抵抗が少ないっちゅーってマイクロ」
「理由まで同じかよ」
「お似合いやな、あの二人」
結局皆で選んだ水着も、両方とも黒にワンポイントでお揃いになっている。
「とりまプールいこか?」
「だね」
二人でゆっくり体をほぐしながら歩き、人工の海に足をつけると、ヒンヤリとした間隔が足先から身体を駆け巡っていく。
「結構冷たいやん」
「暑いから…」
「せやなー…」
アイも暑いらしく、かなり汗をかいていて、足早に腰の辺りまでの深さのところに進んでいく、結構本格的に海を再現してるようで、このさきもっと深くなりそうだ。
「よっ…」
腰の辺りまで進んだアイは、全身を水の中にダイブして思いっきり水飛沫を上げ、気持ちよさそうに水を浴びるた後、ちょっと間が空いて真顔になる。
「…本当にしょっぱい…!」
「そりゃ海水プールなんだし」
「…実はウチ、海風プールや思ってたんやけど」
「あってるよ」
「最近のプールはえらい凝ってるんやな」
「まあ、流石に魚はいないけどね」
二人で軽く泳いだりしながら楽しんでいると、後ろからマット型の浮き輪が突撃してくる、誰だろうと思って見るとサングラスをしたヤタさんが上に乗っている。
「おや…おふたりとも失敬!」
そう言いながらヤタさんの浮き輪をビート板代わりにした比和子は、バタ足でヤタさんを沖の方へと運んでいく。
「普通逆やない?」
「…本人達が楽しそうだし」
沖まで行くとヤタさんが比和子を浮き輪の上に持ち上げてイチャイチャし始めた。
「イチャイチャしてんなぁ…」
「はたから見たら俺らもそんなもんじゃない?」
「アッコまでくっついてへんって」
「五十歩百歩だって」
アイはハイハイ、と言いながら軽くあしらうように手を振ってから、背中からもたれ掛かって見上げてくる。
「…だいぶ耐性ついてきたよね」
前までのアイなら、赤面でもして動けなくなったのに。
「なんかなー、あんま自覚ないんやけど、あの二人見てたらもうええかなって思ってきたんよね…ちょっとやそっとぐらいやと」
「あー…」
確かにあの二人のイチャつきっぷりは一切人の目を気にしない、両方とも頭のネジが一本ぐらい抜けてるからフルスロットルで関係が進んでいく。
「何処まで行ったんだろ、あの二人」
「どこまでって?」
「そりゃあ…大人の関係がさ」
「……大人のって……!?」
急にバシャン! という音がして振り返るとアイがいなくなっている。
「アイ…!? どこにいった…!? 足でもつった!?」
「………」
慌てて水中を見ようとしたら、その前にアイが水中から顔半分だけを出して、ブクブクと呼吸の泡を出しながら睨んできた。
「アイ…?」
「………」
「ダメじゃん」
ブクブクと泡を出したまま表情を変えず見つめてくる、どうやら顔が赤くなっていて、久しぶりに赤面状態になっているだけだとわかって安心する。
とりあえずアイを引き上げて抱きかかえる、俗に言うお姫様抱っこなのだけどアイの抵抗はなくて済んだのが幸いだ、パンゲアの宇宙船でからかわれた時のように、攻撃してこなくなったのもまた、成長だろうか。
「おかえり~」
抱きかかえたままパラソルに戻るとクガさんとイチゴさんがサングラスをかけた状態でパラソルの下、まだビーチチェアの上で寝転がっていた、というかクガさんに至っては寝ている。
「クガさん寝てるじゃないですか」
「あはは~、いいのいいの疲れてるから」
イチゴさんも苦笑いしながら、自身も寝転がったまま休んでいる。
「アイちゃんも固まってるじゃん」
「いつものことなんで」
アイを抱えたまま自分もビーチチェアの上に寝転がり、固まってるのをいいことにアイを体の上に載せて休む、柔らかい人肌…いやそこまで柔らかくないよねアイって、見た目よりも筋肉ついてるし、小さいし。
しばらくすると、微動だにしていないヤタさんが、全力のバタ足で泳ぐ比和子さんに沖から浮き輪ごと砂浜に打ち上げられた。
「戻りました!」
ヤタさんと二人でそのまま浮き輪の空気を抜いて戻ってきたので、十分ビーチを満喫したのだろう。その頃にはアイも元に戻っていたので、隣のビーチチェアに移動されていた。
「じゃ~、一回ホテル戻る?」
それぞれが頷いて肯定したのでイチゴさんはクガさんを揺り起こし、ホテルに向かう、ビーチパラソルとチェアのセットは三日間レンタルの最後に返せばよく、このまま置いといて明日も使ってOKだそうだ。
6人で水着のまま更衣室に入り、着替えをしてホテルロビーに集合する。
「おつかれ~」
ホテルのロビーはリゾートエリアに隣接していて、ホテルから直接ビーチに出れるのでロビーには水着で行動してる人もチラホラ見受けられた。
「はい、これホテルキー、
とヤタさんと自分にホテルキーをイチゴさんは渡してくる。
「…あれ、そう言えば三部屋でしたっけ」
「うん、さすがにそんなに空き部屋ないし、高いし」
よく考えてみればアイと二人部屋になるのは当然の流れだ、イチゴさんはクガさんと一緒の部屋だし、ヤタさんは当然比和子と、となるとアイと一緒の部屋になる。
「あれ? よく一緒に寝てたからいいかなって」
確かに酔っ払った時限定で一緒に寝ることはあった、ただ本当にただ添い寝をしただけで関係性は全く進歩してない、なんならキスだってまだで、シラフでは一度も一緒に寝たことはない。
「あー、うん大丈夫やで」
アイは自分から鍵をひったくると、指先で鍵を回しながらエレベーターを呼ぶ。
「じゃあオッケーだね、各自解散で」
比和子とヤタさんはロビーの方に歩いていく、先にあるのはジムなので二人らしいなと思いながら見送る。クガさんとイチゴさんは売店に向かっていった。
「来たでエレベーター」
「うん…なんで強がったのさ」
「あっこでワガママ言うんもアカンし…」
「言うならあそこしかなかったと思うよ?」
「でもなぁ…スノウは一緒の部屋嫌なん?」
「…嫌じゃないけど」
「ウチもやから」
「…じゃあ断れないや」
「せやろ」
エレベーターは10F建て、コレ以上はコロニーの性質上遠心力に依る重力が低く
なりすぎるので、このぐらいの高さが限界らしい。本来は短いエレベーターの昇り時間も今はとても長く感じられ、振動がうるさいぐらいに強く脈打っていた。
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