ヴァイキング。

「アメリアさん!」


 うずくまるアメリアさんを急いで隔壁の後ろに引っ張り込み傷口を確認する、被害があるのは関節部のみ、咄嗟に蹲ったお陰で比較的軽傷と言える部類だが治療が必要そうなのは間違いない。


「っ…私は大丈夫、敵に集中して」

 そうだ敵は待ってくれない、今はアニーさんとアイが隔壁の破片越しに銃で牽制してくれているが、いつ無理やり突破してきてもおかしくない。


「アイツどうするんだよ!」

「知らへん! あそこまで防御特化されてると弾丸が通らへんもん」


 敵はアメリアさんよりも近距離で手榴弾を受けている、だが全く痛がる様子も見せないのはフルメイルタイプだからだ、本来視界が悪くなるので付けたがる人がいない兜型のヘルメットは、目の部分しか強化プラスチック部品がなく、関節部分も高速戦闘が主流になってからは動きが鈍くなるので敬遠されがちなのに、追加の金属装甲で覆われていてスキがない。


「んー…それに気になってることがありマース」

 アニーさんの声のトーンが低い、アメリアさんを心配しているのもあるが何か他のことも気にしている様子で、目線の先は通路の真ん中にある司令室への扉だ。


「まったく亀みてぇに籠もりやがって…何しに来てんだぁ! もっと来いよ」

「行くのは構いませーん…ですが質問していいでしょーか?」

「ほう、敵に質問か? まっとく…まあ聞いてやる」

「あの扉の向こう、何をしまシタ?」

 その一言を聞いて男は『ほおーう』と感心する素振りを見て扉の方を見る。


「この扉の向こうが気になるか! なんなら見てみるか待ってやるぞ?」

「いいえ、貴方を倒すまで遠慮しときまーす」

「ふん、わざわざ聞くって事は察してんだろ? パンゲアさんよぉ」

 アニーさんはその返答を聞くと小さく歯ぎしりする。


「…扉になにかあるんですか?」

「スノウ、あなたサーモは搭載してますか?」

 サーモとはサーモグラフィーカメラの事で、赤外線越しにし熱分布を可視化させることができるカメラの機能のひとつだ、古い型ならついてないことが多いが、新しい機種なら基本的に搭載されている。


「搭載してます」

「おーけー、ではー、それで扉を」

 少し歯切れが悪く、扉をサーモで見ることを促してくる。


「あぁ……」

 ―――扉の表示が白い。

 温度表示は低いほど青くなり一番下は黒色をしている、逆に高温だと赤くなっていきある一定以上の温度を超えると白くなる、カメラは扉全体を真っ白に映し出している、なのにコチラ側には火災跡はもちろん、火炎放射器を当てた形跡もない、あるのは精々アイが壁をぶち抜いた時の破片がぶつかった汚れぐらいだ。


「……っ…クソ」

 どうやら基地の人間は間に合わなかったらしい、中を確認するのも危険だ、部屋の中はかなり高温になっており不完全燃焼が起こってる可能性が高い、そんな状態の扉を急に開ければ熱された一酸化炭素がコチラ側の酸素と急速に反応してバックドラフト現象、つまり爆発と一緒に火炎が吹き出してきてかなり危険だ。


「あんた…どこまでやれば気が済むんや………!」

 アイが静かに怒りを滲ませる、拳を強く握り今にも飛び出しそうなのをグッと堪えながら様子を伺いながらも、Arche越しでさえ身体が震えてるのがわかる。


「あん? なあにヌルいこと言ってんだアイ、こいつぁ戦争でビジネスだ、殺すほど金が貰えて、壊すほど金が増える、だったら効率的にやるのに何の問題があるってんだ? 聞かせて欲しいもんだぜ」


「裏切ったんやから地球からの給料はなしやで」

「心配いらねぇ、コロニーからもっとたんまり戴けるからな!」

「外道が………」


 悔しいが男の言うことも間違っては居ない、傭兵家業ではどんだけ綺麗事を並べても結局は戦争でお金を稼ぐことには変わらない、どれだけ戦争を終わらせたいという志があっても、戦果を上げてお金が入るシステムだけは共通だ。


「アイ、それにパンゲアのも、おめぇらがどんだけ戦争を終わらしてコロニーを降伏させたっつっても結局は金もらってんだから一緒だろ? 俺となぁ」

 思わずアイが飛び出しそうになったのを腕を引っ張って止める。


「挑発に乗っちゃダメ、わかってて煽ってきてるだけだ」

「………ごめん」

 アイはじっとコッチを見ながら息を荒くしていたが、すぐにツバを飲み込んで再び隔壁を抑えて牽制に戻る、まだ冷静になれるだけ理性が残っててくれて良かった。


「一緒なんだよおめぇもよ、どうした? ちげぇならなんか言ってみろ!」

 男が、乱暴に隔壁を蹴ってくるが、三人で支えているのでビクともしない。

「一緒じゃないわよ、全然」

 アメリアさんが痛みから回復して…いや回復したわけでも治療したわけでもない、ただ痛みに慣れたフリをして強がっているだけだ。


「アンタは結局、金が目的なんでしょ」

「あぁそうさ! それに名誉だって手に入る!」

「名誉? アンタはどう考えても悪役ヒールよ」


「地球から見たらそうだろうなぁ? だがよ、コロニーから見たら地球を裏切って味方についてくれた英雄様だ!」

「そうかしら、次はまたどっかに裏切るんじゃないかって思われて永遠に信用なんてされないわよどうせ、次は火星にでも行く?」


「フンッ、金が貰えりゃどこでも同じだ、オメェらだって金のためにコロニーを墜としたんだろ?」

「違うわ、あんたはお金が最終目的、私達にとってお金は手段よ」

「あん? 結局金もらってんだろうが! 人殺しの汚い金をよぉ!」


 男は思いっきり隔壁を切り取って作った盾の真ん中に、その手に持ったデカイ斧を振り下ろす、当然スグには切断されはしないが斧纏うエネルギーでできたやいばが少しずつ、盾を溶断していく。


「別に、戦いで手にしたお金を汚くないなんて…言うつもりはないわよ」

 隔壁を中央から両断して斧が振り下ろされる、男は両断した隔壁にそれぞれ今度は隠れると予想していたのだろう、だが実際はアメリアさんが正面に立っていた。


「でもね、お金は評価の結果であって、戦う手段なのよ」

 振り下ろした斧を、今度は振り上げようとするよりも早く、溶断してる最中から構えていたライフルを一歩踏み込んでから、相手の腹部に向けてフルバーストさせる、アメリアさんのライフルは中央ヨーロッパの会社が作った、射程距離が狙撃銃並にあるアサルトライフルだ。


「ぐうううううううっ!!」

 RKS《シールド》の内側からもろに分厚いアーマーに弾丸が叩きつけられる、流石に衝撃で後ろに下がっていきシールドの外側になると威力が減衰していくのがわかるが、それでも距離を開けることには成功した。


「お金は責任なのよ、戦争を終わらせる為に動いた対価」

「ちぃっ!」


 男は咄嗟に手榴弾に手を伸ばす、だがアニーさんが早撃ちで手のひらを狙い撃って妨害する、装甲を貫きはしないが思いっきり衝撃で腕が後ろに弾かれる。


「あんたはソレを裏切ったんや」

 アイが飛び出して男の腹に向かって思いっきり飛び蹴りをいれる、足の裏が男の腹に直撃し電流が流れ、男はたまらずアイに斧を振りかざすが、アイは男の腹を踏み台にして下がったために空振りする。


「…ビジネスだぜ、金払いが良い方に付くのは当然だろぉが」

 吐き捨てる様に男は距離をとる、ここで撃ってもいいがあの分厚い装甲の前に動きを止めるぐらいしか効果がないので、チャージしたまま様子をみる。


「かも知れへん…でもな、裏切ったらそれなりに代償ってもんはは高く付く、取り立ててやるさかい覚悟しときぃや」

「ッハ、いっちょ前に甘ちゃんがビジネスの話か? 笑い話にもならねぇなぁ!」

 ボルトアクションライフルをアイに放ち、アイが少し衝撃で下がる。


「………っち」

 ここで最初のように手榴弾を投げようとしたが、アニーさんがホルスターに手を当てていつでも早撃ちで防げるように構えてるのに気づいて舌打ちをして止まる。


「ったくなんでそこまでやるかねぇ、割りに合わんだろ?」

「そんなんもわからへんの? お金とかんなもん、今はどうでもええねん」

「じゃあ何のためだ? 名誉か? 地位か?」

「仇や、あんたに着いてったせいで裏切られて殺された、ウチの友人達の仇や」


「ふん…人的資源とかよく言うだろ? 使わなくなった資源を廃棄してなぁにが悪いんだ、ほっといたらコロニーの害になるんだ、処分して当然じゃねぇか」

 アイが深く息を吐きながら男を睨みつける、怒りが再燃してきているようで、ふつふつと湧き上がる慟哭を、胸を抑え耐えている。


「ほんっと解ってたけど、ド外道やな…」

 ペイルハンマーを装填し、左手にショットガンを握りしめる、相手も不用意には動いてこず、両者睨み合うが、ソレも長くは続かない。


「ここで終わらしたるから…覚悟せぇ! ノルド!」


アイが叫びながら突撃した事で、戦闘は動き出す。

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