急襲。

 さて、手榴弾によって三つ向こうの角まで追いやれてしまった、何とも厄介な自体だと三人で頭を抱える、残り一人はというと、アイがちょっと考えがあるとのことで近くの部屋に入っていった。


「どうします?」

「んー、死にはしませんけど、死ぬほど痛いのは嫌デース」

「私もよ」

「とりあえずどうにかしないと」


 三人でいい案が思い浮かばず悩んでいると何度か背後から轟音が鳴り響く、アイは何をしているんだと気にしていたら、思ったより早くアイが戻ってくる。


「アイ、どこにいって…」

 アイが持ってきたのはさっき穴をあけた隔壁の破片だ、それを見て三人とも何をしてたか理解して納得した、これを壁にして進めばい。


「なるほどね、アンタ達ホントさすがよね…」

「前にコロニーに突入したんやけど、これ結構使えるねん」

 かなりゴリ押しな解決方法だと思ったが実は前科…もとい実績があるらしい。


「これでさっきの角までは戻れるんやけど、どうするん?」

「そうね…とりあえず振り出しに戻れるだけなのよね」

「そこでやっぱウチが囮になればええんよ」

「いやいや、だからそれはダメって」

「まあまあ、ここは一回ウチの話し聞いてもろてやな」


 そこでした作戦は中々面白いものでアニーさんは賛成して、アメリアさんは悩んでいる、自分としてはアイが危険なのには変わりないが、理屈ではこれが一番ヤレそうで困っている。

「そもそもや、コロニーとか屋内戦経験した人間っておらんやろ?」


 それを言われてしまえば全員首を横にふるしか無い、そもそも小惑星基地の攻防戦は大抵が地球軍がやっているし、パンゲアは殆どコロニー戦が主流、この前の牧場コロニー攻防戦だってコロニー内で戦ったが、屋内戦をしたわけじゃない、恐らくパンゲアの中でも屋内戦を実戦でやったものはごく少数なのではないだろうか。

「せやから、ここはウチに任せといてええねんって」


「でも、アイちゃんだって一回じゃない」

「一回でも経験しんやったら、無経験とエライ差があるもんや」

「確かにアイのその理屈は正しいと思うけど、この作戦は経験ないだろ」

「あるで? コロニー突入した時行きあたりばったりやったけど成功したで」

 あるんだ、しかもこの作戦にも過去成功したという実績があるらしい。


「いや、一人でどうやったのよ」

「ん、引き付けてからドサクサに紛れて周り込んでん」

「あぁ、もうわかった、いいわその作戦で行きましょ」

 とうとうアメリアさんが折れたことで、アイの提案した作戦に決定した、ただ正直レールガンを撃ったときよりも全然行けそうだから困る。


「決まりやな、せやけどコレって移動を誤魔化せればええけど、急ぐしか無いんかな…? なんかええ方法とかある?」

「それならいい手があるわよ、貴方がちょっと危険だけど今更よね」

「どんな手や?」


 そこでアメリアさんが提示した方法に自分は反射的に反対したが、既にやると決めた三人相手に押し切られてしまう、感情的に反対しただけだったので、冷静に言われるとそれが有効なのが解ってしまうので、反論もできない。

「ほないくで」


 それからスグに準備が整いアイが通信越しに連絡してくる、行動開始の合図だ。

 まず初手で敵がいたスグ横の壁が爆発する、位置もバッチリでひとり吹き飛んだ破片をもろに受けてしまっているのがわかる、壁にもたれ掛かっていたせいで衝撃をもろに受け、ヘルメットに映るシルエットがもうソイツはまともに戦えなさそうなのがわかる。


 壁をぶち破ったのは当然アイのペイルハンマーだが、なぜ壁の向こうに敵が来ているのに敵が警戒していなかったのには理由がある。


 初手でまず、アイはRKSを完全に停止した、この基地は全部金属でできていて金属感知のレーダーはほぼ機能しておらず、ArcheはRKS反応を頼りに索敵する、ただ急に敵の反応がひとつ消えてしまえばソレはソレで警戒されてしまうので誤魔化す必要があった。


 それがアメリアさんの言っていた『いい手』だ、アメリアさんのArcheにはデコイを生み出す装置が搭載されていた、使い捨てのバルーンを生成して1分ほどRKS発生すして敵レーダーを誤魔化す、その間にアイが普通に通路にある扉をつかって、敵のいる場所に面している部屋に入ったのだ、それからペイルハンマーを装填してRKSの再起動をした瞬間にペイルハンマーで壁をぶち破る。


 この作戦が危険なのは早すぎるとペイルハンマーの反動でRKSの無い機体は自壊してしまうし、遅すぎても相手に反応される恐れがある。


 急に一人倒され爆風に怯む中、今度はこっちの出番だ。

「GO!!」


 アニーさんの合図で三人同時に飛び出して、残る四人を狙ってそれぞれ射撃する。

 煙の中でもシルエットはヘルメットに表示されるので相手を狙うのに不都合はなく、自分が一人、アニーさんとアメリアさんも一人ずつ撃破する。


 残り二人は一度引き下がろうとするが、そこにアイがライフル二丁を発射し、そこで制圧は完了するはずだった。

「アカン! 防がれた!」


 煙の向こうのアイから通信が聞こえてくる、と同時に敵シルエットと同時にアイが吹き飛んでくるのがわかり、思わずアイを受け止める、一緒に飛んできた敵はもう動くことはなさそうなので強引に引き離してアイを確認する、損傷は見当たらないので吹き飛ばされただけのようだ。


「っつ…あっぶな、ごめんコイツ盾にされて当たらへんかった」

「嘘だろ」

 どうやら相手はアイの至近距離からのライフルを、まだ生きている仲間を盾にして防いだようだ。

「あー…ったく相変わらず仲間は盾かいな…胸クソわるなるで」


 アイが悪態をつきながら体制を立て直す、アイは元々エッダにいたのだ、知っている顔が相手でもおかしくないということに今更気づく。

「知り合い?」

「せや、元エッダやったら誰でも知ってる、元上司で…エースや」


 煙の中から出てくるシルエットは中世を思わせるような銀色にコーティングされた、全身鎧フルメイルを連想するような出で立ちで、右手には巨大な斧、左手にはボルトアクション式のライフルをを持っている。


「ちょっと、聞いてないわよあんたがココに居るとか」

 アメリアさんもその姿を見てたじろぐ様子が見て取れる。


「おーおー、パンゲアのアメリアにアニーか、んー、お前は見覚えが…あぁ要らん事して追放されたガキか、ったく素直に戻ってくりゃいいっつーのによぉ」

「戻らんで正解ヤッたやろ、アホ」

「んー、アイツとは違うぞ、お前はきちんと正式に雇用してやるつもりだったんだがなぁ、この恩知らずが」


 単発式のライフルをアイにぶっ放す、アイは思いっきり胸に銃弾を撃ち込まれて後ろにノックバックするが、近距離型のArcheのシールドを相手に向けて集中させているので装甲自体には傷一つない。


「誰がやねん、あんな職場で働かせて…しかもオッチャンらまで」

「あー、ったくよう面倒なガキだ、おめぇ金目当てじゃねぇのかよ…じゃあどっちみちあの船で酸欠行きだったな」


「やっぱりアンタか指示したんは!」

「ハーッハッハ! 俺以外誰がいるんだよ!」

「せやな…アンタ逃げれる思うなや、ここで殺したるからな!」


 アイは今にも飛びかかりそうな気配を見せているが、辛うじて理性が残っていて飛びかかりはしない。


「ったく、飛びかかってこりゃ楽なんだけどな…ほれ」

 そういうとあの男はバックパックから大量の手榴弾を取り出してゆっくりと放り投げてくる。


「みんな後ろに!」

 アイガ咄嗟にアンカーフックで隔壁の端っこを引っ掛けて引き寄せてその後ろに入ろうとする、がそれよりも早く手榴弾を男が撃ち抜いて爆発させる。


 俺とアニーさんは元々隔壁の欠片から近く、隠れるのが早くて助かった、アイも多少被弾自体はしたが関節部を守ることに成功した。


 しかし一番離れていたアメリアさんは避けきれずに手榴弾の弾を浴びてしまう、奇襲する時に撃ちやすいよう横に広がってしまったのが仇になったのだ。


「きゃああああぁあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」


アメリアさんの悲痛な叫びがヘルメットにこだました。

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