無人兵器。

「ちょっと下がってて」


 目の前に大きな隔壁が現れ、開かないことを確認したアイが迷うことなくペイルハンマーを準備しながら少し後退する、慌てて三人とも一気にひとつ前までの通路まで退避した瞬間、轟音と振動が響く。隔壁には人が通れるほどの穴が空いていて、残骸の中心にいたアイがニッコリと笑いながら戻ってきた俺達を出迎えた。


「これで通れるようになったで」

「…いつもこんな感じなの?」

「ワーオ、クレイジー!!」

 呆れたように言うアメリアさんと、面白がって笑うアニーさん。


「残念ながらいつもこんな感じです、うちは」

「あー、会社単位なのね、把握したわ」

 呆れると同時に感心したような反応をしてアイとアニーさんに続いてアメリアさんも穴を潜っていく。


「会社単位ってわけでは…いえ、会社単位でした」

「否定できなかったのね、心中察するわ」


 さすがに会社単位と言われてフォローをしようとはした、したんだけど特攻癖のあるイチゴさんにロマン兵器に理解があるどころか今回自分で作ってきたクガさんに、どこかズレているヤタさんを考えたら一切フォローの言葉が出てこなかった。


「俺だけかも知れません、マトモなの」

「いや、あなたも大概よ」

 自分がくぐる時にレーヴァテインが引っかかったので、一度先にレーヴァテインを穴に通してから、改めて通過したのを見てアメリアさんが呆れるように言ってきた。


「えっと、これは誤解なんです」

「大丈夫よ、別にけなしてるつもりはないわ、褒めてるの」

 褒めてくれるのは嬉しいけれど、違うんです、そういう事じゃないんです。


 隔壁を超えた場所は表層部の司令室が近い通路に出る。

「敵の数がわかったわよ、50m先に5機で確定」

「50m先っていうと…司令室ですか?」

「えぇ、正確には司令室前ね、多分司令室に基地の人間が立て籠もってるんじゃないかしら」

「ほな、そっからが勝負やな」


 アイが両手のショットガンに弾を込め直す、対Arche用の威力と貫通力が高い弾にしているのだろう。


「基地の人が心配デース、早く行きたいデスね」

「えぇ、でも慎重に進むわよ」

「よっしゃ、了解やで」

 早速、アイが次の通路を確認し、曲がり角を曲がろうとする。


「ダメデス!」

 続けてアニーさんが曲がり角から顔を出した瞬間、アニーさんがアイを掴んで通路にクイックブーストを使って引き戻す。


「んなっ!?」

 アイが思わず声を上げると同時に、アイがいた場所に赤い光線が走っていき地面を小さい円形に溶かす、大きさは五百円玉ぐらいのサイズだが、通路の分厚い鋼鉄が指が一本入りそうなぐらい深く溶けていて、貫通力はArcheを貫くのに十分そうだ。


「うっわ…ありがとアニーさん」

「オーライ、無事でよかったデース」

「なんでわかったん?」

「通路を見た時…なんとなく変な気がしたからでーす」


 理由はともかく、アニーさんのお陰でアイが助かって感謝する、ただ問題はどうやってこの通路を突破するかだ。


「多分やけど、この監視カメラっぽい奴が撃ってきたんやと思う」

 アイが自分のヘルメットに記録されている映像を巻き戻して、通路の光景をスクショして皆に送る、通路の様子は一見普通の通路にしか見えないが、立方体型の監視カメラをよく見ると確かに本来は映像を撮影する部分にレンズがない。


「一瞬見えた弾道的にもこれで間違いないと思います」

 こういう工学的にターゲットを見つけて自動で敵を迎撃する兵器をセントリーガンと呼ぶ、今回は監視カメラに偽装したセントリーガンだ、よくよく見ればこのセントリーガンは今まで点在していた監視カメラと形が全く違う、多分コレをアニーさんが見て違和感を感じたからアイを引っ張ったのだ。


「それじゃあコレを壊せばいいのね、アニー出来るわよね」

「余裕でーす」

 アニーさんは目を閉じて集中し始める。


「いけるん?」

「アイちゃんが撃たれるまで1秒以上あったわよね、そんなに時間がかかるならアニーには長すぎるぐらいよ」

「行きマス!」


 アニーさんがクイックブーストで通路に出て瞬間、腰にあったホルスターから拳銃を取り出すと同時に銃弾を発射していた、空気を伝って拳銃とは思えないほどの音と、マズルフラッシュ(弾を撃った時に銃口からでる光)が出て聞こえて驚く。


「オッケーでーす、壊しましたー!」

 アニーさんが喜びながらアメリアさんに抱きつき、「ハイハイ」と軽くあしらいながらアメリアさんがアニーさんの背中をたたいてから離れる。


「凄い早撃ちですね」

「ファストショットは得意分野ーです」

 アニーさんは大口径の拳銃をヘルメットに当てて、自慢気な笑顔を向ける。

「それ…45口径ですか?」

「ノー、50口径でーす」


 ま、まあ確かに撃ち抜く対象の殆どは金属なのでそのぐらい威力がないとたりなさそうな気もする、とは言えこんな銃を生身で殆ど構えずに早撃ちすれば身体のほうがダメージを受ける、けれどダメージなしで撃てるのはArcheのおかげ。


「あ、安心してくださーい、これArcheは壊せませーん」

 アニーさんはホルスターに安全装置を付けて収納する。


「場所を取らないから趣味として付けてるのよ、アニーは…でもこうしてたまーに活躍しちゃうから困ったものよね」

「ええやん、使えるんやったらロマンやろうが実用武器や」

 アイがアニーさんに理解を示しながら先に進み始める、今度は監視カメラも確認しながら。


「ザッツラーイ! いいこと言いまーす」

「はいはい」

 アニーさんとアメリアさんも進んでから自分も変わらず最後を歩く。


 ここから曲がり角の度に、監視カメラに偽装したセントリーガンがあり、その度にアニーさんが早撃ちにて仕留めていく。


「ふー…多分これが最後ですネ」

 敵のすぐ手前の曲がり角には3つ設置されてあり、これもアニーさんは難なく撃たせる前に破壊して戻ってくる。


「んで、こっからどうするん?」

「敵の数は五機で間違いなんですよね」

「えぇ、でもどうしようかしら」


 相手と曲がり角を二つ挟んで向こう側に敵がいる、この曲がり角にはセントリーガンは設置されていない、多分誤射を恐れてのことだろう。


「やっぱウチが飛び込んで囮になるんは?」

「ダメ、危険すぎる」

 このアイの提案は満場一致で却下された、囮になるにしても真正面からは危険すぎるし、結局全員通路に飛びさなきゃいけ無いのでリスクしかない。


「手榴弾でもアレばいいんですけど…」

「ないわよ、下にいるケーム達なら持ってるかも知れないけど」

 さすがに今から貰ってくるんじゃ遅すぎる、そもそも突入する準備をしてきた上での潜入じゃないから準備不足は仕方ないのだ。


「おー…影に隠れて!」

 アニーさんが何かに気づいたように、アメリアとアイを掴んでクイックブーストを使って一番後ろにいたコッチにくる、自分も反射的に後ろにクイックブーストを使って退避しながら、ソレが見えた


「手榴弾………っ!」

「イエス!」

 当然最初から潜入する予定なんだから、相手は持っていて当然だ。

「っく!」


 投げられた手榴弾が自分達がさっきまで居たところの壁にゆっくりとぶつかろうとしてるのがわかる、相手は手首だけだしてふんわりと投げたのが無重力で流れてきているので、壁にぶつかるのが遅かったのが救いだ。


「間に合え……っ!」

 クイックブーストで自分がひとつ前の通路の壁にぶつかるのと、相手の手榴弾が壁にぶつかるのがほぼ同時、音速を超えて超えてくる弾が迫ってくる、角の先に逃げ込むが小さい弾がArcheの足の装甲を叩く音が聞こえた。


「大丈夫ですかー、みなさん」

「はい、こっちは異常なしです」

「うちも、お陰で」

「私も平気よ」


 幸いなことに全員無事で済んだ、そもそも手榴弾はゼロ距離で爆発でもしなければ、Archeを破壊することができないし、ブースト等の脆弱部に当たっても、金属製なので問題が起きることはない。


 じゃあ何が問題かと言うとその爆発した弾の小ささだ、爆発した大量の弾はRKSシールドのムラを見つけて通り抜ける、先程も足のパーツにいくつか被弾自体はしたのはそのせいだ。そしてその弾は小ささゆえ、関節などの隙間を通って宇宙服を破壊し、生身を直接攻撃するのだ。


 つまりこのArche戦に置いて手榴弾は敵のArcheを傷つけずに、中のパイロットだけを傷つける凶悪な兵器へと変貌している。

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