ノルド。

 エッダ所属エース・ノルド。


 最古参のエースであり、民間傭兵会社エッダの重役で現場で一番偉い人間、確かにこんな大物が少数を率いてこんな最前線に居るのは驚く他ない、だからコイツの姿を確認したパンゲアの二人がお前がなんでここに居るんだと、たじろいでいた理由がよくわかる、というかこんな大物だと知らなかった自分が大概なんだろうけど。


「気をつけて、四人いると言っても、あの機体Archeは狭い空間に特化してるわ………あんな鈍い機体こういう時でもないと使えないのによく用意したものね」

「ホンマやな、あんな動きいつもの宇宙空間やったら相手にもならんのに」


 室内戦特化の機体と武器を用意しているということは、それだけ相手の準備は万全だったという事に他ならない、手榴弾だって宇宙空間では拡散しすぎるのと至近距離で爆発させるのが難しいのとでかなり使い勝手が悪い。


 特にさっきみたいな何かにぶつかってから爆発するタイプの着発信管は、宇宙空間ではデブリが多すぎたり、そもそも地面や壁がない空間が広がってる為使い物にならないし、時限式だって手榴弾を投擲した頃にはかなり移動されてるから当てにくい、そもそも遮蔽物がないので手榴弾を投げたら一番被害に合いそうなのはあんな極端なフルメイルタイプの機体でも無い限り自爆するのが関の山だ。


「室内戦専用装備って訳ですよね」

「そうね、外で戦うなら一人でも余裕よこんな相手」

「おいおい、そんなバカじゃねぇこんな機体で外で戦う訳ねぇだ……ろ!」


 ボルトアクションライフルをノルドはアニーさんに向けて放つが、アイさんが身を持って盾になって防ぐ、装甲に傷はつかないとは言っても、ある程度衝撃は受けるので中身の肉体にダメージが無いわけでもないが、アイ以外が受けるともっとダメージが大きい。


俺とアメリアさんは隔壁に身を隠して機会を伺う事ができるので庇ってもらう必要はないけれど、手榴弾を早撃ちでケアしなければいけないアニーさんは隠れる訳にいかず、それを守るためにアイが前に出ている。


「ったく仲間思いだな!」

「アンタとはちゃうねん!」


 今度はお互いライフルを撃ち合う、アイのライフルは水平二連ショットがんの下にライフルが切り替えれるもので、現在はライフルに切り替えて撃って二丁交互に撃っている、対して相手のボルトアクション式のライフルは装填数は一発ごとに弾薬の排出を挟むので連射力はアイに劣るが一発の威力が高く、元々のノルドの装甲の高さも相まってアイが一方的にダメージを受けてしまっている。


「コッチよ!」

 ここでアメリアさんがダミーを射出する、高速で目端を横切るレーダーに映る存在に一瞬だけノルドは意識を取られる。

「っち! ダミーか!」

 ノルドはダミーバルーンを煩わしく左手の斧で破壊する。


「ここだ!」

 ノルドの頭を狙ってチャージしきったエネルギーライフルを発射する。

「ぐお………!」

 それでも頭部の兜を破壊する事は叶わなかったが、相手の頭を衝撃で揺らす事には成功したようでノルドは少しよろめく。


「だああああああああ!」

 そこにアイがすかさず右足で相手の腰に回し蹴りを繰り出すが、ノルドは咄嗟に自身の左手に持っていたボルトアクションライフルで防ぐ。


「まだや!」

 クガさんに取り付けてあった、ふくらはぎのブーストをアイは作動させ一気にライフルを切断してノルドの腰に蹴りがクリーンヒットする。


「この!」

 腰に押し付けられた脚部ブレードを、ノルドはアイの足首を掴んで強引に引き剥がし、壁に叩きつけることでアイを引き離し、すかさず右手の斧を振りかぶる。


「させるか!」

 咄嗟にレーヴァテインを抜いて、ブーストを最大加速させノルドの脳天に向けて振りかぶる、叫び声をあげたのはアイから意識をそらしてコッチに対処させるため。


「ふん………っち、いい得物持ってんじゃねぇか!!」

 思い通りアイに振り下ろそうとした斧をコッチの攻撃を防ぐことに成功する、もしアイに斧が振り下ろされると同時に、レーヴァテインが当たっていればその場で勝てたかも知れない………だけど、それだとアイを失うことになる。


「だがよぉ! 出力不足だぁ!!」

 巨大な剣を斧で押し込んでくる、さすがに近接に寄ってる防御型のパワーに、バランス型の機体出力だけで勝てるわけがない、けれどコッチの武器は特別性だ。

「まだ…だ!」

「っ! お前もかよ!!」


 レーヴァテインの持ち手にあるスイッチを入れ、剣の備え着いてあるブースターの出力を最大にする、すると加速した剣は一気にアイからノルドを引き離し、通路の真ん中まで相手を機体ごと押し込む。


 片手だったノルドもこれには斧を両手で抑え、機体出力を最大にしてきたことで、お互いの出力が拮抗して押し合う。


「ったく、流行ってんのか?」

「さあね」

 レーヴァテインの出力を最大にして尚、最大出力のノルドにパワー負けしていて少しずつ床に近づいていき、床に足がつき押さえられ始める。


「今度参考にさせて貰うぜ?」

「今度がアレばね…」

 とは言いつつも冷や汗が出る、このままでは押し斬られてしまう。


 ガン!!


 そこに真横から金属が貫かれる音が聞こえてくる、目端で確認スレばそれは扉にアイのアンカーが突き刺さった音だ、いや待って、ソレをやったら俺巻き込まれるんですけど御正気でいらっしゃいますかアイさん?


「スノウ! クイックブースト!!」

「いや無理!」

 今自分からクイックブーストをして力を弱めたらそのまま斬り裂かれてしまう。


「出来るわけねぇよなぁ!?」

「いや、ホント俺もそう思いたいんですけど」

「おい?」

 ノルドが俺の様子を見て首を傾げ、兜で顔が見えないので全く表情はわからないが、少し思案した後困惑したような表情を見せる。


「いやいやいや、さっきまでのやり取りなんだったんだよ」

「俺もそう思う、でもアイならコラテラル・ダメージとか言い出しそう」

「おい! お前んとこの傭兵会社の教育どうなってんだ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ!!」


 かと言ってこの状況お互い力を緩めるわけにはいかない、緩めた瞬間に真っ二つだし、二人で同時に「せーの」で力を弱める約束をしても相手が心の底から信用できない、いやさすがにアイはここで俺ごとやるって事はしないと思うけどね、信じてるよアイ………信じてるからね!?


「せやったらスノウ、シールドを前に集中させてぇや」

「集中させても…炎は防げませんよ?」

 アイが誰にでも聞こえる共用チャンネルの通信じゃなく、会社内だけの暗号通信に切り替えて聞いてくる、こっちは暗号通信に切り替える余裕がないのでそのまま答えるが、アイは気にせずに続ける。


「ええから、言う通りにして、お願いや」

「………うん」


 アイに言われた通りRKSシールドをレーヴァテインの出力をできるだけ維持しながら剣を握る手を離さないよう注意しつつ親指だけで操作する、その際膝が曲がるほど強く押し込まれたが、なんとか切り替えることに成功した。


「やったよ」

「ありがと、そういう素直なとこ好きやで!」


 ガン!!!


 今度は俺の機体の背中部分からなんか金属が貫かれる音がする。

 音がした場所は自分の機体の腰の部分、追加武装を収納できるスペースと装甲だけの部分だけど、あと10cmズレていたら腰が血だらけになっていたような危ない箇所でもある。


「オイオイオイオイ、お前の会社も大概じゃねぇか?」

「俺もそう思う」


 次の瞬間、扉と俺はアイアンカーに高速で巻き取られ、急に敵対象が離脱した事によりノルドはバランスを崩す、それでもノルドはこっちへクイックブーストを使って回避と突撃を無理やりしようとしたが。


「サせません!」

「そこにいなさい!」

 アニーさんとアメリアさんが隔壁を盾に思いっきりノルドの進路を妨害する。


「ち…くしょおおおおおおがあああああ!!」


 次の瞬間、ノルドは自分が撒いた炎によって起こったバックドラフトによってその身を炎に包まれていった。

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