違和感。
静かの基地に帰る途中だった、最初に異変に気づいたのは。
「艦長、なんか人多くありません?」
「多いよね」
「…なんか聞いてなかったんです?」
「えっとね~、そう言えばやたら入港時間とか、今日は入港するのかとか毎日聞かれてるな~とは思ってはいたけど…」
「ソレですよね、原因」
滑走路に降り立った時、フェンスの向こうで大勢の旗を振っている人が見えた、恐らく…というか確実にこの艦をひと目見に来た人だろう。
「なんというか…ニュースで言われてるより恥ずかしいですね」
「実際目にするのとは違うからね~」
流石に基地の内部にまで見に来た観光客は居なくて助かったが、代わりにちょくちょく他の傭兵の人間が指を差したりと見に来ているのがわかる。
「すっかり有名人だよね~この艦」
イチゴさんと一緒に談話室へ行くと他のメンバーが談笑している。
「セレモニーの参加は明日セレモニー自体は15時からだけで、会場入りは13時からでスピーチは私がやるから~、一応勲章を受け取った時の挨拶も…『ありがとうございます』とか喜びの言葉ぐらいだけでいっか、参加するのはアイとスノウとヤタね」
クガさんがガッツポーズしてる、そんなに出るのが嫌だったのか。
「よし、俺はもう遠くで見てるから」
清々しい程の笑顔で行ってくる、どんだけ嫌だったんだ。
「なあ、俺は大して活躍してない、だから出なくても良い、いいな?」
ヤタさんが真顔でイチゴさんの肩を掴みながら言ってる、必死だ。
「…確かにヤタは欠席でも問題ない…かも?」
「よし、俺は欠席する」
「は~い」
ヤタさんは途端に笑顔になって既に明日出なくていいのが確定しているクガさんとお酒を乾杯し始める、なんなんだこの責任者達。
「なぁ~…イチゴさん?」
「アイとスノウはダメだよ、絶対出席、なんなら衣装も用意してあるから」
「はい」
わかってた、さすがに若手でのエースとコロニーの決め手になった女は逃げれない、というか逃げるつもりは無かったんだけど。
イチゴさんはそう言うとため息をつきながらシャワー室に入っていった。
「あ~、もうウチああいうかたっ苦しいとこ嫌なんやけど」
「俺も嫌だけど、まあしょうがないだろうなって」
「せやな~」
苦笑いしながらアイが用意してくれた宇宙食を二人で食べ始める、今日の宇宙食は焼きそばで、結構もちもち食感でおいしい。
「ところでなんやけど、牧場コロニーの話してええ?」
「いいよ、でもどうして」
「ちょっと気になったんや」
牧場コロニーで気になる話とはなんだろうか、と思考を巡らせる。
「ほら、牧場コロニー守った時の話やねんけど…その、どうやったん?」
「どうって、シャトルに掴まって行ったのはビックリしたけど…」
「いや、そこやない」
そこじゃないなら、どの部分の話をしたらいいのだろう?
「えーっと、じゃあ輸送艦を射撃一発で落としたとこ?」
「そう、そこやねん、ちょっと変やなって」
「変って?」
コックピットを狙って、俺は確かに輸送艦の操作部を破壊した、操作部を破壊したことで緊急停止装置が働いて、相手の輸送艦は動きを停止した、ソコに変なところなんてあるのかな?
「………どう思ったん?」
「どうって………え?」
―――どう思ったのか。
確か、あの時は発進されるから止めろと言われて、自分は一番止めるのに狙いやすくて、破壊しやすいコックピットを狙った、少し焦りながらではあったけど味方の戦力も高い分安心して落ち着いていたから、無我夢中というわけでもなかったと思う。
「えっと………?」
自分でも困惑してるのがわかる、何故なら動いてる輸送艦のコックピットを躊躇なく狙ったということは、自分は『
「確かに変だ」
「せやろ!?」
アイが両手を掴みながらじっと目を見つめてくる。
「それがウチがあん時感じた不安なんや」
「………っ!」
確かにコレは不安になる、レーヴァテインを倒した時確かに自分は罪悪感とやるせなさを感じていたし、暫く後味の悪さを噛み締めていた、なのに今回はどうだ? まだ一ヶ月も経っていないのに人を殺すのに何の躊躇いも感じていなかったし、言われるまで気づいてすらいなかった。
「………やばい、手が震えてきた」
「わかるで、ウチもずっと悩んでたし、それで実はな、しばらく出撃…断っててん」
「それで…」
牧場コロニーのとき、アイが出撃しなかった理由はそういう理由だったのか。
「なんでやと思う? 原因は?」
「原因って…」
「わからへんやろ、ウチも色々考えてみてん、Archeとか、なにかされたかとか」
涙目になっているアイが必死になりながら訴えてくる、アイの手も震えていた。
「Arche…に細工は…ないよね?」
「多分無理やと思う」
Archeは神経接続をしていない、殆どの操作は腕やヘルメットにあるボタン等で操作するし、脳波を読み取ったり逆に送るなんて超技術は搭載してない。
だったらヘルメットにUIやレーダーが映る機能に細工…例えばがあるかと考えてみても、意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えて効果を与えるサブリミナル効果を使い、映像にも聴覚にもそういう細工をしたとしても、殺人の無感覚化なんて強い効果を与えることなんて出来ない。
「Archeの訓練の時?」
「せやったら、レーヴァテインの時にもう罪悪感とかなかったと思うんや」
「…確かに」
もやもやとする、なにか大事な事が欠けてないか、欠けさせられてないか?
「ヤタさん…ヤタさんはどうやったん?」
「殺人の罪悪感か?」
「うん」
アイが今度はヤタさんに疑問を投げかける。
「俺は、最初から覚悟を決めてた、だから気にしなかった」
ヤタさんは酒を飲みながらも真剣な表情で返してくれる。
「言っとくが、俺は細工はしてない」
クガさんもキッパリという、確かに技術部門で何かしたならば一番怪しい位置にいるのはクガさんなんだけど、クガさんの性格的にそういう事をするとも思えない。
「本当に、慣れた…?」
「でもこんな急に?」
戦争の必死さはここまで急に人を変えるものなのだろうか。
「………」
ゆっくりアイを抱きしめ、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。
「いい、これでアイが守れるんなら受け入れてやる」
「………スノウ?」
正直、何が起こってるのかわからないのは怖いところがある、でもトリガーを引くのを恐れるようになって躊躇って、それで仲間が死んだら意味がない。
「躊躇って殺されるよりいい」
「うちは…ううん、せやな」
胸の中でアイも呟く、どうやら震えは止まってきてる。
「うん、わかる、言いたいんは、わかる」
アイがボソボソと呟いて自分に言い聞かせてる。
「無理しなくていいよ、アイ」
背中を優しく撫でながら様子を見守っていると、深く深呼吸し始めた。
「うん、もう大丈夫」
「ほんとに」
「不安なんは変わらへんけど、足手まといになるんはもっと嫌やし」
頭を上げて見上げてくる表情は、先程までの不安そうな表情と違って、決意に溢れた目をしている。
「それに…や、うちがおらんかったらスノウがいつ死んでもおかしないやん?」
「ん…いうなこいつ」
それから意地悪そうな表情でニカッと笑ってみせる、本当にもう大丈夫そうだとわかり、ホッと一安心する。
「やっぱ不安なんは変わらへんけど、まだ割り切れたで」
「さすがアイ」
頭を撫でると嬉しそうに胸に顔を埋めてくる、いつもは絶対こういう反応は返って来ない辺り、本当に不安は拭いきれて無いとは思うけど、正直このアイはこのアイで可愛いし約得だと思うので思う存分甘えてもらおう。
「………なんか凄い勢いで甘えてる!?」
それもこのツッコミの間までだったけど。
シャワー室から戻ってくるイチゴさんが、いつもと違うアイの様子に驚いて声を上げるとアイは勢いよく顔を上げて椅子にピン、と姿勢を正して座ってしまった、ついでに顔を上げた時にアイの頭が俺の顎を打ち上げたのでメチャクチャ痛い、舌噛まなくてよかった…。
「あ、あれ、ごめん」
悶絶してる俺に向かってイチゴさんが心配そうに顔を覗いてくる。
「大丈夫やで、スノウやから」
「スノウなら大丈夫か~」
いや、大丈夫じゃないんですけど。
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