すき焼き。
コロニーに戻って基礎トレーニングだけしてから、VIPラウンジで卓上コンロを使う許可を貰い、食材も買ってすき焼きの準備をクガさんと始める、和食の料理人さんが作りましょうかと申し出てくれたが敢えて遠慮することにした、こういうものは目の前で自分達で作るのが楽しいのだから。
「すき焼きはな、文字通り焼くんだ」
とはクガさんの弁、協議の結果割り下ではなく関西の作り方で作ることになり牛肉から焼いていき調味料などで味を整えつつ作るやり方で作り始め、出来上がる頃には人が集まってくる。
「お~、今日すき焼きじゃん」
イチゴさんが嬉しそうに座りもう卵を溶き始めてる、気が早いな。
「へぇ、これがすき焼きか…生卵で食うの? マジか」
次いでベッグさんとアニーさんの二人が来て、興味津々に食べ方を教わっている。
「あ、すき焼きやんしかも関西風やし…って誰か関西圏やったん?」
「俺が関西だよ」
「そうやったんや…」
クガさん関西だと答えると目を丸くしながらアイも座り卵を溶き始める、だから気が早いって女子二人、ちなみにヤタさんは作り始めた頃から座って日本酒を飲んで待ってる、この人が一番気が早いな。
「よし、できたぞ、好きに食え」
「いただきま~す」
イチゴさんが真っ先に手を伸ばしたのを皮切りに各々食事の前の挨拶をして食べ始める、やっぱりこういう適当な感じで食べるのも気楽でいいな。
「ところで、ちょっとうちで話題になってる話があるんだが」
「なになに~、内部情報?」
「普通に噂程度だ」
「聞かせて~」
白滝が卵と絡んで美味しいと思ってたら気になる話題を始めたな。
「最近の軍のセキュリティ…というか立て続けに起きた奇襲事件でな」
「あ~、最近多いよね、それで?」
「レーダー感知に引っかからなかった仕組みについては尋問中」
「ま~、そこは絶対なにかあるよね」
「それと同時にだ、気になるのタワーの連続テロだ」
水瓶座が襲撃してきた時の事だ、静かの海と雨の海以外にも他にも数箇所、タワーのテロ未遂などが同時に起きていたのはあの後ニュースでやっていた。
「どうにもおかしいだろ? 全部の都市に同時に侵入できるって」
「…確かにね~」
「だからまあ、潜伏がいるのはわかるとして、どこからだっていうのに噂がある」
「どんな噂?」
「月面に隠し通路があるって噂だ」
「隠し通路…できるの?」
「そこだ、俺も出来ないし眉唾と思ってたんだがな」
隠し通路を掘るには横穴が必須になる…が月の地層は金属も含まれており非常に硬い、そもそも使えるような深さにトンネルを掘ってバレないのはかなり難しい。
「元々あった通路なら可能じゃねかって噂が出てる」
「元々あったって…えっ、嘘でしょ」
「お、察しが付いたか?」
「………どっち道無理じゃない?」
イチゴさんは察しが付いたようだけど自分には何のことがわからない。
「あ、お肉貰うね~」
「ん、じゃあ追加の分作るか、待ってろ」
あらかた一度お肉と野菜が食べられたのでクガさんが追加の分を投入し始める。
「なんの話ですか?」
クガさんが追加のすき焼きを作ってる間、手持ちぶたさになったタイミングを見計らって聞いてみる、このまま何の事かわからないとモヤモヤするし。
「さっきの話か?」
「隠し通路の話」
「それね~、私が思いついたのは
月の水、実は人類が到着されるまでに月に水は存在していた、それも地表と地下にそれぞれ大量に、地表の部分はクレーターなどで永久に影になっている部分にあり、地下のはそれよりも遥かに多く、水の地層が約1mぐらいの地層があったという。
「確か月の都市の水分と空気を作る時に使ったんでしたっけ」
「そうそう、かなりの量組み上げたから天然の洞窟ができてるかも知れない」
「なるほど…でも無理だって言ってましたよね」
「うん、できなくはないけどコストも高いし…色々難しいと思うんだよね」
「どのへんがです?」
「ほら、そもそもソレって1mぐらいの高さしか無いんだよ?」
「…数百キロも移動するには骨が折れますね」
月の一周は約1万0990km、都市と都市の間もかなり離れてることが多く、中腰や這って進む距離にしては長すぎる。
「じゃあその洞窟を加工すれば?」
「確かにソッチならまだイチから掘り進めるよりは簡単だよ?」
イチゴさんは追加の生卵を割り、かき混ぜながら目を瞑りながら続ける。
「どこから掘るのって問題があるよね」
「あー、拠点がないのか」
確かに、掘るにしても加工するにしても結局どこから掘り進めるかが問題になる、月の表面は常に戦艦が見回って監視しているし、どこかの都市から始めるにも、そもそもその都市に入るための工作であり、物資をどうやって確保するかという問題も出てくる。
「だから無理じゃないかなって思ったの」
「なるほど、確かに厳しそうだ…」
「ただな、一つ思うことがある」
無理だと考えたイチゴさんと自分に対して、ベッグさんが新しい仮設を提唱する。
「どこかの国の基地が裏切ってたら可能じゃないか?」
「…そうだけど、でもどこ?」
「そこなんだよな」
水瓶座が襲撃した時、ほとんどの月面ドーム都市が襲撃されタワーを破壊されかけた、もしこれが自分達がいる西側だった場合、自分やベッグさんがいなければ大損害になりすぎて、カモフラージュにしてはダメージを受けすぎる。
だったらライバルにある国や勢力かとも思ったが、それはそれであの時一番被害が大きかったのは戦艦やタワーを失ったあちら側で一切得がなかった。
「ん~、可能性は0じゃない都市もあるけど、証拠もないよね」
「あぁ、だからあくまで噂なんだよ」
あくまでも噂、現時点では都市伝説レベルの話だろう。
「ただソレが本当なら、えっと…ヴァンでしたっけアイツが入出国もなしに疾走した理由もできますね」
ほんのふと思ったただの思いつきだ、実際クビになった人間を危険を犯して誘うメリットは思いつかないが、ふと頭に過ぎったことを言ってみる。
「確かにな、ただコロニー側がアイツを欲しがるか?」
「さあ…実力は見たこと無いんでなんとも」
「無いと思うんだがな、俺は」
ベッグさんは苦笑いしながらビールを飲み干す。
「よし、おかわりできたぞ」
クガさんがおかわりのすき焼きを作り終え再び皆で箸を進ませる、パンゲアのお二人はフォークだけど。
締めは雑炊派とうどん派に別れたが、協議の結果雑炊になった理由は関西で作ったのと関西の二人が両方とも雑炊を推したから、ねっとりとした感じの雑炊になったが関西の二人が言うには、雑炊じゃなくて『おじや』だそうで「一緒じゃないの?」と聞いてみたら、「違うんや」とハッキリと断言されたので違うのだろう。
調理器具はレンタル品だったけど、ラウンジで洗い物などはしてくれルトのことで、お言葉に甘えて食後はラウンジでまったりしつつ、ゆっくりと時間を過ごせた。
月面洞窟利用説とでもいうべきトンデモ仮説、正直ロマンだらけで嫌いではないとは思う、でも好きと嫌いと出来る出来ないは別の話でやはり自分も噂レベルで終わる話だと思う。
「ふいー、お腹いっぱいやー」
隣で体重を預けてくるアイの頭を撫でながらテレビを見ると今日のニュースをやっている、自分の姿もニュースに映っているが、最初は恥ずかしかったが今はだいぶ慣れてきた。
「やってんなー、侵入経路もんだい…」
ニュースでも話題はどうやって月に敵が近づいてきたかという話で持ち切りだし、当分この話題は世間を賑やかしそうだ。
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