特攻野郎PMC。
視点は戻って、オモイカネ所属ワダツミ艦内。
「嘘じゃん! 長期戦って!」
「ま、そうだろうな」
「わかってたの!?」
イチゴさんとクガさんが言い争っている、まあ痴話喧嘩の範疇だけど。
「あの会議の時なんとなくだよ、確証も何もないカン」
「カンでも離して欲しかったな~って」
「余計な事言って混乱させるのもな…ってごめんて」
むくれるイチゴさんにクガさんが頭を撫でて機嫌を取っている…あの、今そういう場合じゃないんじゃないですかね?
「そんでどないするん?」
「待ってね~、こう見えても今考えてるから」
レーダーではコロニーがパンゲアの一番艦から特大放射攻撃を受け、第二艦隊の戦車がコロニー側のシールドを突破しようとしているところだ。
「……とりあえず微速前進、パイロットは出撃準備して」
イチゴさんが考えながら指示をだす。
「「了解」」
格納庫に向かう途中で個室から出てきたヤタさんと合流し、Archeを装備しながら次の指示を待つことになった。
「…勝負に出るにしても出ないにしても、ここまでは必須行動」
「勝負に出るからには、ここでこの戦い自体を終わらしたい…」
短期決戦に切り替わる以上どこかで勝負に出るのは必須だろう、リヒトさんが言っていた、スキがあれば勝負に出てくださいという事自体も嘘ではないはずだ。
「ねぇ皆、終戦条件って何かわかる?」
終戦条件、それはコロニー全体ではなく魚座と地球側との間での話だ。
「そりゃー降伏させるとか、講和条約を結ぶことやないんです?」
講和条約は平和条約とも言い、戦争や武力紛争の公式な合意するものであり和平交渉をして、賠償やその後を決めたりする。
一方で降伏は条件付降伏と無条件降伏と二種類あるが、どちらも敵の戦力に敗北を認め敵の権力に屈服することになる。
「地球側がやりたいのは降伏させること、実は降伏条件は傭兵でも現地で取引ができるように地球側が宣告してるものはあるんだよね」
戦争を委譲している以上、地球側も停戦や終戦に対しての準備をPMC側だけで仮締結させるような仕組みは作ってある、仮締結した後は地球と本格的に交渉して条約は結ばれることになるんだけど、これはまだ前例がない。
「じゃあどうやって、降伏させる?」
「どうやってって…心をへし折ってまうとか?」
「うん、問題はどうやってへし折るかだよね」
どうやって心を折るか、それはコロニーの民意もあるし政治としての判断もあるだろう、最後の一人まで戦ってやるという意識を持たれていたらどこまで戦えばいいのかわからない。
「最悪、宇宙に浮かぶコロニーなんだから壊してしまえば戦争は終わるよ?」
「それは…」
それはすなわち、皆殺しを意味している。
「それはアカンと思う」
「そうだね、やっちゃったら今後のコロニーの抵抗が激しくなるし反発も凄い」
流石に民間人含めて皆殺し…民族浄化をしてしまえば国際社会や世論が、『なんてPMCは野蛮なんだ!』となり反戦運動や反PMCが盛んになり、最悪違う戦争に突入しかねない。
「まあ、だからちゃんと降伏させなきゃいけないよねって」
「じゃあ敵エースの殲滅とか鹵獲ですか?」
「それはアリだと思う、有名人とか英雄が亡くなるとショックって大きいし」
イチゴさんがヘルメットにベッグさんとレーヴァテインが戦っている様子を見せる、その映像を見るとレーヴァテインは取り囲まれて、ベッグさんが戦車を押し込んでいるところで、かなり切迫している状況なのがわかる。
「そこで考えてるのが、まずこのレーヴァテインを堕とす事」
直感的にそれはかなり難しいと感じる、相手はエースでこっちのエースは極端な性能をしているアイと初心者の自分と、ヤタさんだ。
「やっぱ難しいって顔してるね~、三人とも」
「そりゃ…ヤレ言われたら行くんやけど…誰か死ぬで?」
その誰かの候補者筆頭が自分です。
「うん、だからコレは努力目標、程度離れてる『霹靂』って方のエースも怖いし」
「じゃあ目標は?」
そう考えてイチゴさんは再び頭を悩ませる。
「そこなんだよね、作戦自体はあるんだけど確証がなくて」
「確証ですか? 今まで見てる作戦って確証あってやってたんです?」
「む~、確かにその通りなんだけど今回はソッチの意味じゃないんだよ?」
今までのイチゴさんの戦法を思い出してみよう、レオニダスに特攻して水瓶座にも特攻、それにアイに聞いたやつも特攻だ、このPMC戦艦で特攻しかしてないな?
「やりたいことは主動力源の破壊、前線が戦車でかなり上がってるからコロニーまでこの艦で突き進んで運ぶことは十分可能だって思ってる」
やっぱり今回も特攻じゃないか。
「…特攻するんは、もう今更なんでええんやけど…確証がないってなんなん?」
「良い質問だね~アイちゃん、確証は目標物がソコにあるかって確証」
「目標物は?」
「コロニーの旗艦部、動力源かな?」
ここでイチゴさんの望む目的が自分にも理解できた、コロニーの動力源を破壊しライフラインを握ることで降伏を促す方向に持っていきたいんだ。
「動力源を破壊して降伏勧告ですか?」
「そうだね~、降伏勧告出すにはパンゲアがやってくれないとダメだけど、問題なくやってくれると思うよ」
コロニーの動力源を破壊するとどうなるか?
一番視覚的にわかり易いのは電力が喪失するという事だ、宇宙空間での電力の喪失は地上よりも致命的になるだろう。特にヤバイのは酸素だ、スペースコロニーでは酸素は機械によって循環とリサイクルをされているのだが装置は当然電力で動いている、予備電力は勿論あるのだが、ソレでもメイン動力がなければ一ヶ月持つかどうかわからなくなる。
「魚座は片方の動力が壊れても、もう片方の動力があれば電力はギリギリ賄えるから降伏はしないと思う、でも二つとも壊れちゃえば無理だよね」
つまり酸素を人質に降伏を迫るという訳だ、これもかなり人道的にギリギリに思えるけれど戦争なんだから仕方ない部分はあるだろう。
「図面自体は地球がコロニーを作ったわけだから手元にあるんだよね」
イチゴさんがモニターにコロニーの図面を表示する、そこには動力部もハッキリ映っており、既に動力部が破壊されたエロースのコロニーの破壊箇所とも一致する。
「…エロース側の動力部の位置が変わってないならアフロディーテ側も変わってないんじゃないですか?」
「たぶんね」
「ええやん、なかったらなかったで…そん時はそん時に考えたら」
「いやいや、アイそんな適当にいかないから悩んでるんじゃないか」
イチゴさんはコッチの命とリスクを天秤に掛けて真剣に考えてるんだぞ?
「確かに、どうせ動かなきゃいけないしやってから考えるか」
「えっ!?」
「せやせや、現場で見てみないとどっち道わからへんねんやし」
おい、誰かこの無茶苦茶な女子共を止めて、ねえクガさん。
「ま、現場がいいなら反対はしないよ」
あっ、ダメだクガさんが認めちゃったよ。
「よぉし! 全速前進! 目標に向かってGO!」
結局また特攻だよこのPMC!
「いいんです? 毎回こういう作戦でパイロットとして」
諦めつつもダメ元で、ヤタさんに意見を求めてみる。
「むしろいつも通りの作戦で安心する」
ヤタさんはクスクスと笑いながら答える、ダメだこの人ももう毒されてる。
「やっぱオモイカネって言ったらコレやな」
さすが特攻チームってわかってて加入したヤツは違うな、肝が座ってる。
まともなのは俺だけか?
いや、もう覚悟ができてる辺り自分も、まともじゃない気がした。
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