チャプター11。

 ―――時間は少し巻き戻る。


 仕込みは難しかった、相手にこちらの手の内を悟らせてはいけない、だけどある程度味方陣営に落としに行くとも作戦も伝えないといけない、なので味方には

『コロニーを墜としに行く』

『波状攻撃をする』

『敵エースは任せろ』


 と具体的なことはできるだけ隠しつつ信用して貰う必要があった、これはスパイ対策をしているためであり、味方と共有する作戦は敵方に筒抜けである前提で動く事をリヒトは信条としているためだ。


「何が波状攻撃をする…だか」

「嘘はいってないよ、不可能だと判断したら波状攻撃は仕掛けるつもりでしたし」

 金色の髪をした、胸の大きい目付きが悪い髪の長い金髪の女性が、葉巻を吸いながら上司である筈のリヒトに対して呆れながらものを言う。


「では艦長、侵攻開始を」

「あぁ、総員に次ぐ、コレより当艦は侵攻を開始する、持ち場についてないアホはいないと思うが、各員緊張を絶やすな!」

 艦長と呼ばれた女性は総員にまず連絡を、次いで操舵手に指示をする。


「進路前へ、目標エロースコロニー、両舷強速!」

了解アインフェアシュタンデン!」


 タイミングは、第二艦隊がエース二人と交戦を開始した直後であり、こちらもドローン戦車を3両だし囮にした、案の定こちらにも二人のエースが出てきたので、第三艦隊に待機してもらっていた二人のエースパイロットを当てる。後はどこまでこの作戦がバレないか…であるがここまで来ればバレても然程問題はない、どの道かなりギャンブル性の高い戦いなのだから。


「第三艦隊の右舷まで来ました」

「了解、本当にやるんだなリヒト?」

 艦長の女性が、呆れたような表情でリヒトに最終確認を行う。

「えぇ、お願いしますレベッカ」

 レベッカ艦長は、そう言われると少し笑みを浮かべると命令を開始する。


「両舷出力停止、これより慣性のみで直進する」

 ブースターが炎を出すのを止め大型艦は慣性のみで進み始める、慣性のみと言っても宇宙空間では減速せずにそのままのスピードで進んでいく。


「RKS以外のエネルギー供給停止、特殊砲ティフォンにエネルギーを集中しろ」

「艦長、ティフォンとは…?」

「ったく、艦内の設備ぐらい全部正式名称で覚えてろ! 『破産砲』だ!」

 特殊砲ティフォン、通称破産砲という採算度外視の兵器だ。


 何故『破産』などという破壊とは違う意味で物騒な名前が付いているのか? 簡単だ、売ったら破産するという冗談から生まれたからで、それほどまでに一発撃つだけのコストが悪い、そのコストは一発でコロニーの半年分の燃料消費やおおむね800万人以上の人口を持つ都市半年分の電力消費量に匹敵する。


「機関部から通信、エネルギー量が足りないそうです」

「問題ない、武器用の名目で積んであるコンテナがある、アレは全部燃料タンクだ」

 コロニー側にバレないように内部にまで秘密で積み込んである、しばらくして機関部から燃料の備蓄が足りそうだと連絡が返ってくる。


「これで落とせなきゃ本当に破産だぞ、リヒト」

「落とすので問題ありませんよ」

「ったく、馬鹿者が」

「でもこういうのレベッカも嫌いじゃないでしょう?」

「…まあ、そうね」


 二人は表情を真面目に保とうとしているが、どうしても口元が緩む。

 この兵器は未だ試射すらまともにしたことはない、最低出力で発射確認をしたことがある程度で、それだけでもその月は大赤字を叩き出した、最初こそこんなものを積んである戦艦にコロニー側も警戒をしていたのだが、次第に撃てない事がわかったのか無視されるようになった。


「機関部から、エネルギー重点開始、放射熱溜まります、発射口の開放許可を」

「発射口の開放を認める」

 パンゲアの旗艦ヨルズは全長337m、幅78m、高さは約76mもある巨大戦艦…構造は丈夫に広いカタパルトがあるので空母の方に近いのだが、その正面側、カタパルトの下部から底1mまでの高さもある砲が開き、砲身が姿を表す。


 砲身はこの艦の三分の一を閉め、エネルギーチャージ中の熱量はその砲身自体と戦艦左右にある排熱装置から排出される。


 さすがにこの時点でコロニー側もこの異常事態に気付く、気付くのだが動く気配はない、何故ならここまでの行動は過去に何度もやってきている。


 前に出て破産砲のチャージだけして敵を引き寄せる、この一連の動作を一度のコロニー戦で1・2回ずつ、1年以上やってきた上にそのおびき寄せ作戦で戦果も上げている、そのおかげで最近はブラフだと決め込まれて反応されにくくなっていく。


 とはいえ、敵の旗艦が前に出ては来ているのでドローンぐらいは差し向けるのが、今回だと必ず止めなければいけない戦車が前に出てきている上に、スパイの情報では長期戦を想定している、あの特殊砲を撃てば長期戦などできなくなるので、尚の事その行動を戦車から戦力を分断させるためのブラフだと切り捨てられてしまった。


「オオカミ少年のようだな」

「これも積み重ねですよ」

 ドローンさえ向かってこないこの状況に二人は苦笑いしながら、距離100㎞。


「チャージ完了しました」

「了解、Arche客員に通達、撤退、もしくは射線上から離れろ!」


 これを聞いて前線に出ていたArcheはエースを含め撤退する。

 この出来事でコロニー側の幸いなところは一人はエースの追撃を試みたこと、彼は結果的に助かることになる。


 逆に不幸なところは、追撃よりも戦車の追撃に向かっていたことだ。

 コチラ側の戦車はコロニーの先端、魚座という星座にして見ると、口がある一番上部部分に向かっている。


「総員、衝撃と閃光に備えよ、繰り返す衝撃と閃光に備えよ」

「照準修正完了しました」

「安全装置解除、発射体制!」

「発射体制よし!」


「発射カウントダウン開始」

「発射カウントダウン開始します」

ドライツヴァイアインス…0《ヌル》!」

「特殊砲ティフォン…発射フォイアー!!」


 発射した瞬間一度全ての電源が落ち、三秒経って復帰する。

 発射されたエネルギー砲は全てを焼き尽くし、囮であった戦車を消滅させ、追いかけていたエースをもレーダーから消し去り、コロニーのシールドさえも容易く貫通した。


「コロニーに着弾確認、発車時間残り10秒!」

「機首下げ、8時方向」


 着弾した状態から機首をゆっくりと下げることでコロニーを焼いて…いや溶かしていく、エネルギー砲の放射を受けた部分は瞬く間に蒸発しコロニーを貫通していく。着弾部分から連鎖的に爆発が起こり、コロニー自体の電源が落ち、RKSシールドが消え去り、破壊された残骸が爆発により吹き飛んでいく様子が見える。


「敵エース消滅、コロニー動力部の破壊を確認、シールド反応なし」

「良い成果ですね」

「まったく…これでコロニーを落とせなけりゃ月面で破産法第11条チャプターイレブンの申請だな」

「大丈夫です、勝利は目前でしょう」


「降伏勧告を出すかい?」

「無駄でしょう、まだエースが落ちてない限り」

「そのようね」


 復旧したレーダーに敵のリーダー機が映し出され、まっすぐに第一艦ヨルズに向かってくるのがわかる、相手の目的は明白だ…まだ旗艦を落とせれば可能性がある。

「全エース出撃を、私も出ます」

「気をつけろよ、窮鼠猫を噛むって言うんだろ?」

「えぇ、なので手も打ってあります」


 本来、敵のエースには複数であたる、それを第二艦隊には敵エース二人をたった二人、一対一で対処して貰っている。

「そのためのこの采配ね…後でベッグに小言言われるわよ」

「わかってますよ」


 今回、ベッグとアメリアの二人にエースを任せたのはこの二人は防御に長けているからだ、生き残るだけならばエースと直接長時間戦っても生存確率が高い、その代わりこちらに残りのエース全員を、相手エースの撃墜に当てることができる。


 こちらのエースの数は一人失ったがまだ8人いる、残り6人で相手エースと戦えばいいし、相手は撤退が難しいほど追い込まれている。


 対コロニーの勝利条件をいくつか想定してあるが、敵全Archeの撃破はその中でも一番相手が降伏する可能性が高い、何故ならソレ以上の戦闘能力を失うに等しくなるからだ。


その勝利条件が目の前に近づいてた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る