愛の女神と恋の神。(2)

 戦車の爆風からレーヴァテインのパイロットは立て直し最後の車両へと全速力で向かおうとする、が。

「…クソッ! 退けよっ!」

 戦車を護衛していたArche三機が同時にレーヴァテインを大盾を使って抑え込む。


「この…雑魚どもがぁぁっ!」

 その間にも戦車はコロニーへ接近する。

「ちっくしょおおおおおおおおおおっ!」


 とうとう戦車はコロニーのシールド圏内に到着した、強い閃光と共に戦車とコロニーのRKSシールドが激突し、電磁反応を起こしながらゆっくりと侵入していく……。


「ん……? おい、遅いぞどうした!」

「すいません! 出力が………!」

 レーヴァテインを追いかけ、やっと追い付いたベッグも異変に気付く、想定よりもRKSへの侵入速度が遅い…いや、遅いどころか


「…なんだ……まだあるじゃねぇかよ!」

 レーヴァテインのパイロットもソレに気付きどうにかこの方位を打ち破る手段を模索し始め、ベッグはそのまま戦車に突っ込んでいく。

「…っぐ…!」


 ベッグは大盾で戦車のブーストに構わず、Archeをフルスロットルで加速させ戦車を後ろからコロニーへと押し込んでいく、その効果は徐々にだが戦車はコロニーの放つ強力なRKSシールド内部へと進んでいる。一方で、レーヴァテインのパイロットもただ闇雲にもがいていたわけではない、周囲をレーダーで見渡し逆転の手を考えている。


「このザコども……!」

 レーヴァテインを抑える三人のArcheも他に武装を持ってはいる、しかし両手で盾を使い相手を押さえ込んでいるので片手を離して武器を使えばバランスを崩し抜けられる恐れがあるので下手に動けない。


「どかないと後悔するぞ!」

「バカ言うな、ここで抑え込まなきゃならないんだッ!」

「そうか、じゃあ後悔しなぁ!」


 レーヴァテインのパイロットが行った行動は実に単純な手だった、近くにパンゲアや他のPMCが通してしまった自爆型ドローンを見つけたのだ、その自動操作をオフにして権限を自分に移し、今自分を否定したパンゲアの一般兵のザコに向かって叩きつけてやることだ。


 宇宙空間でなければドゴンッ! という大きな音と衝撃波が伝わってくるの近距離の爆発も皮肉なことに、目の前の兵士の大盾のお陰で防ぎきれる、他の二人も盾の裏側じゃあ怪我は免れずダメージを負ったことで包囲は緩んだ。ベッグは戦車の8割を押し込んでいるが、今ならまだ間に合う。


「よぉし! 覚悟しやが…ぬあっ!?」

 突破した、そう確信したパイロットを再び止めたのは、ドローンの爆発をじかに受けたはずの目の前の一般兵だ。彼は最後の力を振り絞りながら、半壊しているArcheの推力を限界まで使い、盾をレーヴァテインに押し付けて妨害した。

「しつこいんだよこのッ!」


 当然半壊して下がった出力では大した妨害にならずスグに蹴り飛ばされたあと、頭を捕まれそのままコロニーの放つ強力なRKSシールドへ直接叩きつけられる、既にその機体の機能は壊れきっていて、シールドに対する防御性能も相殺性能もなく、ただ生身で強力な電磁波シールドに直様宇宙服が焼かれ、宇宙空間に生身で晒された男は、動かなくなる。


「ちぃっ…手間取らせやがって!」

 今度こそベッグに背後に斬りかけるものの、レーヴァテインの一撃は振り返ったベッグの大盾に防がれる………その奥では戦車が既にコロニーのRKSシールド範囲に入りきってしまっている。


「しぶとかったろ…俺の部下は」

「クソが…!」


 戦車の砲撃が開始される、その砲撃は瞬く間に的確にコロニーに備え付けられた防衛装置を破壊していき、それに合わせ艦隊が進軍を開始する。

「全員一度下がれ! 戦艦の護衛にまわるんだ!」


 パンゲアと協力しているPMCが一度戦線を引き上げていき、目の前ではコロニーのRKSシールドのせいであの戦車を壊せない状況に、レーヴァテインのパイロットは歯ぎしりをし、悔しさを滲ませる。


「っち、ザコにも骨がある奴がいるって、覚えておいてやるよ」

「そりゃどうも」


 ここで継続して戦闘すればあの戦車により被害は拡大していくだろう、もう一人のエースも手を離せる状況じゃない、かと言って内側に周り込むならコロニーの端っこまで一度周り込む必要がある、そこで小さな範囲だけシールドを一時的に解除してもらうのだが、どう考えても間に合わない。


「どうするんだ、まだやるか」

「っち、ぶち殺してやりてぇところだがな」

 警戒を解かず身構え続けるできればザックはここで引いて貰いたいと考えていた、なにせ武器の大盾は戦車から長時間バーニアを受け続けていて耐久力が既に心許ない、エネルギー残量は少ないしそもそも大盾自体が壊れかけている。


「っち、うちのリーダーは何してやがる」

「知らないのか?」

「あ゛?」

 ザッグはコロニー側のリーダー機『アルレシャ』がどこにいるか通信で把握していた、一方でレーヴァテインのパイロットはこの一連の攻防に集中し過ぎたために聞き逃している。


「………ったくよー」

 お互い見合ったまま、警戒を解かない状態でレーヴァテインのパイロットは舌打ちをしつつ戦況の情報を冷静に取得し始める。


「…あ?」

 取得し始めた情報にレーヴァテインのパイロットは驚愕させられる。

「…なんだ…おい、なんだこれ!?」

 レーヴァテインのレーダーそして通信ログは一つの事実を映している、それはコロニー側には最悪であり、地球側には最高の状況だとも思える。


「エロースが…っ…!」

「あぁ、そうだエロースはもうすぐ堕とす」


 事実、レーダーに映ってるのはエロースのRKSまで破壊され、エロース側のエース一機と、リーダーである『アルレシャ』が交戦中なこと、そしてパンゲアの一番艦であり旗艦であるもある『ヨルズ』がなんと最前線にいるのだ。


「イカれてんのかテメェら!」

「俺もそう思うが、最近どっかの誰かに触発されちまってな」

 こうなってしまっては戦車をいち早く止めて被害を食い止めた上で、エロースの援護かそれともこの第二艦隊を追い払うか決めなければならないと判断し、RKS内に入るためにコロニーを地球側からみて左側に行く。


「やれやれ、助かったな…」

 ベッグは一息つくとそのままダメージを負った二人を連れて第二艦隊へ帰投を始める、戦車は置いていって構わない、操作は戦艦からやっている無人機だからだ、一方のレーヴァテインは時間をかけて無人機まで辿り着き戦車をようやく破壊する。


 本来ならここでレーヴァテインは一度補給を挟むべきだ、じゃないとどう考えてももう一方のコロニーへ援護しにいくにも、ここで戦い続けるにも燃料が足りない。だが地球側もそんな好機を逃す訳にもいかない。

「っち、まだ何か来るのかよ!」

 思わず叫びながら確認するレーダーには小型艦が一隻、突撃してくるのが見える。

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