調整。(2)

「調子、どうだ?」

 ヤタさんがアイが休憩するのと入れ替わりに上がってくる。


「お疲れ様です、動きに慣れたところです」

「そうか、なら模擬戦でもやるか?」

「いいんですか?」

「あぁ、練習銃も持ってきてある」

 光線をを発射するタイプの練習銃だ、ダメージはないが弾道だけはでるし、ヒット判定をArcheが勝手にやってくれる。


「近接武器は?」

「俺達は両方射撃型だ、必要か?」

「……いらないですね」

「だが持っておけ」

 模擬専用のライフル型練習銃を受け取る、バッテリー式のようで機体と接続する必要も無さそうだ、近接武器の方は…ただの木刀じゃん、これ。


「ルールは?」

「3先でいいか?」

 3先とは三本先取の略で、簡単に言えば3回先に当てた方の勝ちというシンプルなルールだ、今回はシールドは着けずに始めるし武器はお互いにライフル銃を使う。


「いいですよ、範囲は?」

「制限なしだ」

「了解です」


 制限なしと言っても遮蔽物はこの戦艦ぐらいしか無い、ブースター切っているので戦艦の背後に回っても事故で焼け死ぬことはないが、そもそもArcheの機動力を考えるとお互いに余り遮蔽物がない戦いになるだろう。


「そこからでいいのか?」

 ヤタさんは戦艦のブリッジ側に移動してこちらから身を隠す、大丈夫、レーダーにはヤタさんの位置が映っている。


「いいか?」

「はい…開始は?」

「ほな、ウチが合図するで」

 戦艦の上で様子を見持ってるアイが申し出てくる。


「頼む」

「おっけーほないくよ」

 呼吸を整え、レーダーのヤタさんの位置を確認する。


「開始!」

 アイの掛け声と同時に、スグさまレーダー頼りに撃ってやろうと影から飛び出る。

「なっ!?」


 が、レーダーからヤタさんの姿が消える、どういう事だ? 俺のって最新式のレーダーが初期搭載されている筈、そのレーダーから姿を消したってどういう原理なんだ。


 戸惑って辺りを必死に探す、一気にレーダー範囲から出たのかとレーダー範囲を拡大してみても見当たらない………当然だ、ヤタさんの機動力で、いやどんな機体でもレーダー範囲外に出るなんてよく考えれば不可能。


 ビーーーーーーッ!


 ブザーと共にヒットされたという表示が出る…反応は…背後からだ。


「スノウ聞こえるか?」

「ヤタさんっ! どうやって…!」

「レーダーの仕組みは知ってるか?」

 レーダーの仕組みはRKSの反応と金属探知、それと熱源探知で成り立っている。


「…はい」

「RKS《シールド》の電源を完全に切った、それだけだ」

「えっ」


 スグに自分のを確認してみると、シールドバリアであるRKSは非起動状態でもArcheが起動状態にあるならば、アイドリング状態で起動待機している。

「なるほど…」


 なんとなくわかってきた、つまりアイドリング状態のRKSを頼りにレーダーは認知してるけど、ソレがない場合金属探知と熱源探知は戦艦という大きな金属と熱源に隠れた場合見失ってしまうんだ。

「勉強になります」

 自分もRKSを完全に切って、戦艦に着陸する。


「RKSを完全に切る時の注意点は、デブリに気をつけろ」

「はい」


 不意打ちを食らいはしたけど、一度攻撃されてから理解するまで次の攻撃は停止してくれている、いい勉強代になったなと納得する。

「再開するぞ」

「はい」


 さて、お互いレーダーに映っていないこの状況だけどどうしようか、どこかで待つか、慎重に動いてみるか…?

「……つっても遮蔽物はこの戦艦ぐらいしかないし」

 動いてみることにする、戦艦の1サイドで待っていても上下左右どこから来るか解らない以上運任せになってしまうと判断したからだ。


「いない」

 ブリッジ側から両サイドをチラ見して確認して、上部に出てカタパルトを通過する、そうしてカタパルトから船尾、つまり戦艦の真後ろを見下ろすかのように見てみるけどソコにもヤタさんの影はなかった。


「一体どこに…」

 そう言いながら船尾を通り過ぎ、船の底を確認しようとした時だった。


 ビーーーーーーッ!


 また撃たれた、どこからだって、うわ。

「そこってありなんですか?」

「実戦だとリスクしかないな」


 ヤタさんが居たのはだ、電源を落とし影になっているブースターに真っ暗な機体は更に保護色になっている、ただでさえ宇宙空間で保護色になってるし、そもそも危険だからブースターの中に入っているなんて意識していなかった。


「真似するなよ」

「しませんよ…」

 ヤタさんは一発撃つと今度はカタパルト方向に移動していく、あーもう、ここの人達はああいう変な作戦を取るって解ってたのに……けれどこれで2回、いよいよ後がなくなってきた。


「…せめて一本ぐらい」

 そう決意して、今度はカタパルトの方に行ったヤタさんを追いかけようとする、頭だけ水平に出して一度確認してから高速で移動すれば移動中のヤタさんの不意を付けるかも知れない…アイの前でこれ以上無様を晒したくないし。

「…よし、って…足?」


 頭だけ軽くカタパルト上に覗かせてみれば目の前には足があった、その瞬間ヘルメットに衝撃と『ビーーーーーーッ!』というブザー音が鳴り響く。


「注意力が散漫で、判断が遅い」

 出待ちされていた、必ず覗いてくると読まれていて木刀を構えて待っていたのだ。


「次行くぞ」

「はい…」

 すかさずヤタさんが次の三先の開始を伝えてくる、今度こそ勝ってやる…。


 という意気込みも虚しく、10回やって勝てた回数は0回、一戦につき1回当てられれば良いという散々たる結果だ。


「どうしたた、なにか悩みか?」

 11回目の戦闘中、ヤタさんに疑問を投げかけられる。


「…少し」

「話してみろ」

「いや…それが」

「話せ、死なれても困る」

「はい…」


 そうして、アイの移籍話を相談することになった、戦闘中に。移籍話もそうなんだがソレに対してどうして良いかわからない。


「で、結局お前はどうなりたい?」

「どうって」

「お前自身の目標だ」


 自分自身の目標、そういえばArcheの乗ること自体が目的だったと思う、生き残りたいだけなら地球に帰ればいい、戦果をあげるのならどこまでを目標にすればいいのだろう。


「…強くなりたい」

「強くか、どのぐらいだ、エースか?」

「エースになって」

 エースになってからどうする? 何がしたいのだろう…そう思って最初に浮かんだ顔がアイだった。


「アイと一緒に戦いたい、守れるようになりたい」

「そうかそりゃあ難儀だ」

 その瞬間、レーダーに背後から迫るヤタさんの機影が映り切り込まれる。


 カン!


 ヘルメットから設定されていた効果音がなり、ヤタさんの不意打ちを受け止める。

「今の反応は悪くない」

「ありがとうございますっ」

 嘘つきだ、射撃だったら今のタイミングなら絶対被弾させられていた。


「じゃあなんでアイだ?」

「それは……」

「好きだからか?」

「っ!」

 剣先が鈍って一発腰にいいのを当てられる。


「まあ好きなら好きでいい、別に止めないし恋愛話も今更だからな」

「それは…えっと」

「けど、そのアイも移籍したら夢は叶ない」

 再び間合いを詰めてきて連続で木刀を撃ち込んでくる、こっちは致命判定を受けないように守るので精一杯だ。


「いいの? それで」

「…よくないです」

良くない、やっぱり自分の感情としてはアイにどこにも行ってほしくない。


「じゃあ伝えればいい」

「伝えるって、それじゃタダのワガママじゃ」

「我儘だっていい、なんならココでキャリアアップなり養ってやるなりの男気ぐらい見せてもいいんじゃないか?」


「…っ!」

そうだよ、ここでだって頑張ればアイの戦績だって上げてられるし、守れる。


「仲間のための行動なら、全面的に応援する、このPMCの為になるなら」

「…守りたいです、アイをそしてこの艦を」

「アイは好きか?」

「好きです!」

「よし、よく言った」


というお褒めの言葉と同時に頭を思いっきり木刀で叩かれる、これで三本目を取られて、11戦目も敗北が決定した。

「今日はここまで、もうちょっと接近戦も練習することだな」

「はい…」


とぼとぼとカタパルトの方にゆっくり戻ると、そこにはアイがいた。

アイが居た!?

「あー、お、おつかれー」

「あ、ありがと」

そう言えば通信って繋がりっぱなしだった。


「まー、せやな、うん合格って事にしといてあげるわ」

なんの合格だよ。

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