調整。(1)
それから三週間、特にやることはなかった、テロの時に受けた傷は本当に掠り傷だったし、その後に受けた検査はアイと共に何もなかった、パンゲアのベッグに何度か一緒に食事を誘われて情報を交換したりもした。
アイとはこの三週間一切進展はなかった。
正直あの時とは、吊り橋効果とか疲労感とか、それにセントラルタワーのムードにかなり引っ張られていたのは実感としてある、だからソレを自覚してしまうとかなり恥ずかしいものがある、アイはアイでその後かなり不機嫌というかムクれていたので、イチゴさんに相談してみたら、安易に手を出されてもアレだけど、何もされなかったのはソレはソレで腹が立つんだそうだ、女心って難しい。
ちなみにアイについてはもう一つ、鉄砲玉という二つ名が定着してしまっているようでソレについてもかなりご立腹だ、原因はエースをキルした時の状況が広まったのと、タワーのテロリスト相手に殴り込みに行った事、特にタワーの監視カメラの映像がハッキリと映っていたのが思いっきり拡散されてしまっていた、まあ助かったから何とも言いづらいんだけど。
さて、今日はアイのArcheがカスタマイズされて帰ってくる日だ、自分のカスタマイズは一週目で終わって調整だけは済んでいるが、宇宙空間での試運転はまだ済ませていない、宇宙空間での試運転をするなら戦艦を離陸させなければいけず、宇宙ステーションの基地ならともかく、月面からの発進なら相当量のエネルギーを消費する、そのコストも結構馬鹿にならないので、やるならばアイやヤタさんと一緒にやった方がいいということだ。
その代わり、ビーム兵器の試射やカスタマイズした銃の試射はかなりやった、特にビーム兵器はやっておいて正解だった、結構特殊な構造をしていてトリガーを引いてる間はチャージして、離した瞬間に発射される方式だったので事前にアイドリングしておく必要があるが、溜めすぎるとオーバーヒートが近づく、トリガーを引いた状態からのキャンセルや排熱を学ぶのに三週間の余裕があったのはかなり助かる。
格納庫にてArcheのメンテをする、クガさんもやってくれてるんだけどメンテナンスのチェックリストは自分でも念の為しておくのが常識だ、何故なら人間はミスをするから、二重三重のチェックリストはしておいて問題ないし少しでも違和感がアレば報告する義務もある、宇宙空間で不具合なんか起こったら即死だよ即死。
「あ、スノウおったんや」
チェックリストを確認してくるとアイが入ってくる、あれからアイが素っ気ない。
「チェックリスト、アイは?」
「ウチはほら、じゃーん」
「お、キルマーク」
「そそ、届いたって聞いて貼りに来てん!」
エースじゃないArcheのキルマークを付ける人もいるが、やはりエースマークの付いたキルマークは赤色か金色にする決まりがある、アイのArcheは真っ赤なので自然と金色のキルマークを付けることになった。
「やっぱ目立つね!」
肩口にアイはキルマークを丁寧に貼り付けるとご満悦だ、その上には戦艦のものを示す白色のキルマークまである。
「確かに、金色のキルマークは派手だなぁ…」
「せやろっ!」
本当は戦場で目立つっていうのもダメなんだけど、まあArcheはどうしても
「今日はこっから訓練やろ?」
「あー、そうだね」
「またヘマしたらアカンで?」
耳が痛い、前回やった最初の訓練では思いっきりヘマをしたから。
「あれいつ聞いても面白いし、映像みても笑えるんやで」
「…おい、みたのかよ」
「うん、教育映像になるってイチゴさんに」
「人の羞恥映像を勝手に訓練映像に使わないでくれよ…」
「アハハ、でもその話題のおかげでウチここに入ったようなもんやん」
確かに言われてみるとそうなんだけど、なんか納得がいかないしこれを怪我の功名って言いたくない、そんな苦い思いをしながら何も言えずアイを見つめる。
「なんや~? なんか言いたいけど言葉が見つからんっちゅー顔やね」
「………ぐう」
「ぐうの音も出ないって時に本当に、ぐうって言うやつ始めた見たわ」
アイは盛大に笑いながらお腹を抱えて笑い始める、まあ機嫌が治ってくれるなら良かったって言っていい…のかこの状況?
「うちな、実は他のPMCから結構誘われてんねん」
「………え?」
「ほら、ここやっぱ小規模やからね、結構エースパイロットが新しく任命とかされたら結構お声もかかるもんやねん」
言われてみると当然で、エースパイロットの移籍だったり大型契約等はかなり話題になったりもしてニュースを騒がせたりする。
「移籍するの…?」
「ちょっと考えてる」
「どこに?」
「エッダってヨーロッパ系のPMC」
エッダはランクとしては第二位のところで、かなりの脳筋で有名なPMCだ、確かにアイみたいな人材にはピッタリなのを頭では理解してしまう。
「っ…や…」
「なに? どうしたん?」
「っ………確かに、アイの戦い方にピッタリだとは思う…けど?」
「けど?」
行かないで欲しい、という言葉がどうしても出せない、感情論でアイの出世を止めていいのかという疑問と葛藤が頭を駆け巡る。
「…まー、あれやで、今決めるもんともちゃうから」
「あ、あぁ…」
気まづい、どう声をかけていいかわからない。
「もしもし~、こちら艦内放送、聞こえる?」
「はい聞こえるでー」
そこに、イチゴさんの艦内放送が入ってくる。
「そろそろテスト飛行に出発するよ~、ブリッジでも格納庫でもドッチでもいいけど、どこで待機しとく?」
「ウチは格納庫居ときます」
そういうとアイ、はArcheの装着装置にて、Archeを装着してロボットアームに身体を固定させて待機を始める。
「スノウはどうするのかな~」
「あっ、自分も格納庫で」
イチゴさんに促されて自分も慌ててArcheを装着して身体を固定する。
「おっけ~、じゃあ出発するよ」
エンジンが掛かりオモイカネが出航する、月の重力圏を簡単に脱出し地球側へと向かい、宇宙船の待機列の外側まで20分かけて移動する。
「訓練可能宙域まで出たよ~、前と違って普通にカタパルト発進もOK」
「了解です」
「状況はコッチでモニタリングするから自由に始めちゃっていいよ」
「はーい、ほなアイ、出ます」
「スノウ、出撃します」
二人で揃って宇宙空間に出撃する。
「とりあえず動作確認からだ、できそうか?」
通信越しにクガさんが指示し、その通りに基本動作を確認していく。
「動きには慣れそうか?」
「一気に早くなりましたけど…コレぐらいならなんとか」
バランサーが上手く作動してくれていて、多少無茶な動きをしてもバランスを取り戻せるし、銃口も固定できそうだから狙いもブレ無さそうだ。
「アイの方はどうだ?」
「うちは排熱機能メインやから動作自体はあんま変わらへんかな、ちょっと関節の動きはスムーズになってくれたんは助かるんやけど」
「一発撃ってテストするか?」
「ええん?」
「あぁ、角度は問題無さそうな角度を指定する」
「了解」
そう言ってアイにデータが送られ、アイはレールガンを一発ぶっ放す。
プシューッ!
ヘルメットに登録されていた効果音が立体音響として聞こえてくる、そう言えばやってくれると言っていたけど、確かにこの方がかなり臨場感を感じられていい。
「おー、凄いわまだ一応動けるで」
「そりゃ良かった」
とは言え、多少動ける程度であり出力自体はダウンしてる様子だ。
「基本機能は生きてるし…1分ぐらい出力落ちるんはまだしゃあないか」
「まあ普通戦艦の上で撃つかそもそも戦艦に搭載するようなもんだからな」
今更ながらそんなものを携帯してるのはオカシイと思うし、それを実用できるレベルまでカスタマイズと運用してるのはもっとオカシイ。
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