吹っ切れた。
嵌められた、というか誘導尋問だったんだと思う。
「ふ~、ふ~ん~ふ~ん~ふ~ふふふふ~♪」
アイは上機嫌で鼻歌を歌いながらArcheを取り外して口角は上がりっぱなしだ。
「ヤタさ…」
ヤタさんは既に居ない、早いなおい。
「ね~、スノウ」
「な、なに?」
早速弄りに来たようでアイの表情は笑みが浮かんでいるし、上目使いもしてくる。
「うちのこと好きなんか~そっか~」
嬉しそうにしてるだけマシではある…いや嬉しそうにしてるって事は脈アリって事でいいんだよな、いいんだけど茶化す事ができるから……って考えはひねくれ過ぎだよな。
「………そうだけど」
もういっそ肯定してやる、茶化されたら茶化されたらでもうそれでいいよ。
「へ、へ~、そっか~」
前、セントラルタワーの時に思ったけど多分アイって自分が攻められると弱いよね。
「やったらセントラルタワーの時も実はキスされてたり」
「そうだけど」
「………~~~~っ!」
あ、顔が真っ赤になった。
「そっかー、あーせやっ! この後一旦宇宙ステーション行って、ちょっと観光やったり情報収集してからの帰還やし、ウチちょっと今日の訓練疲れ気味やから自室で休憩してくるわ~」
人差し指を立てながら物凄い早口で一方的にまくしたてると、アイは猛ダッシュで格納庫を出ていった、よし勝ったぞ、良かった、よくない。
「まいったなぁ…」
やりすぎた、これじゃあ返事聞けてないじゃん、不可抗力とは言え告白したようなもんなのに…いやダメだな今度もう一回キチンと伝えよう、一旦こうなったからには結構吹っ切れた気がする、うんなんか清々しいわ。
「さて、お腹空いたな」
ブリッジに戻って食事を取ることにする、あれから結構月面のフードストリートにある変わり種宇宙食屋にある宇宙食にハマっている、今日は名古屋コーチンの味噌煮で母国の日本食ではあるけど出身地域ではない場所のもので初めて食べる、作り方は談話室に設置してある加温機で温めて食べるだけ、ご飯と一緒にいただこう。
「…今日は何食ってんだ…?」
「お疲れさまですクガさん、名古屋コーチンです」
「名古屋コーチンかー…そんなのあるのか」
「美味しいですよ」
名古屋コーチン自体は鶏肉の名前である、これはその鶏肉をコンニャクとゴボウを一緒に味噌で炊き上げたものでご飯と合う、やっぱ個人的には味噌には米だよ米。
「今度俺も買ってみるわ」
そういうとクガさんはたこ焼きを食べ始めてる、それも結構変わり種の部類になるんじゃないだろうか、と思うけど宇宙であっても食はバリエーションがあった方がいいに決まってる、ちなみに一応この談話室で食べる宇宙食にはルールが有る、一部の人間がダメなので昆虫とか飛び抜けてゲテモノ系はNGになてちる、ちなみに爬虫類とかジビエまではOKらしい、でも一応爬虫類食べる時があったら配慮しとこう。
「で、聞いたぞさっきの告白」
「やっぱり全員に聞こえてますよね」
「そりゃな」
クガさんはたこ焼きを二袋目用意している、8個入りなので合計16個食べるって思ったら相変わらず食べる量が多い。
「んで、付き合うのか?」
「からかってきたんで開き直ったら逃げられちゃいました」
「っふ、ハハッ!」
大声で笑われた、まあしょうがないと思うよ。
「相変わらずだなお前らって」
そう言うと9個目のたこ焼きを食べ始める、宇宙用マヨネーズをつけて。
「相変わらずってなんですか」
「っ……あー、まあ相変わらずっていやあ、相変わらずだって事だよ」
誤魔化してきたけど、こういう時に深く追求すると墓穴を掘ったりとロクな目に合わないから引き下がっておこう。
「そうそう、社内恋愛は自由だから」
「了解です」
そもそも今回って、社内恋愛煽られた側だし。
「そもそも引き抜きの話って先に相談あったんだよ、アイから」
なんですと…?
「えっと、どういう事ですか?」
「ん、普通に『ヘッドハンティングされたんやけどー』ってアイからな」
「それで…?」
「相談を受けて、待遇とか調べて…まあ普通に残ってくれるって話だった」
「いつの話だったりします…それ?」
「昨日」
昨日、つまり移籍話は昨日既に解決していたと、ほうほう。
「って事はアイにカマかけられたんですよね、僕」
「そういう事になるかな?」
うん、まあそこはアイに直接文句を言いに行くとして、クガさんとイチゴさんが知ってて黙ってたのも、まあ人の恋愛駆け引きには要らない口を挟まないってだけな気もするし置いておく。
「ヤタさんもコレ、知ってたんですよね」
「当然、その場に居たからな」
居たんですね、居たんですねヤタさん!
「………ふー、なるほど」
言葉を、言葉を選べ俺、相手は目上の存在ですよ?
「言いたいことはなんとなく察するがまず聞いて欲しい」
「何でしょう」
「これを提案したのアイだ」
「なんとなく察しはつきます」
「で、アイの依頼自体はスノウに打ち明けるから、それとなーく、スノウの思いを聞いて欲しいって感じだったんだ」
「なるほど…それで?」
「それだけだ」
「…つかぬことをお伺いしても」
「よろしい」
「別に告白させろとか、あそこまで突っ込んで聞いてくれなんかは」
「あれはヤタの独断だよ」
そっかー、ヤタさんの独断だったかー。
「ヤタさん!?」
「まあ叫びたい気持ちはわかる、あいつはそういう事する」
なんかクガさんも腕を組んで遠い目をしだしたんだけど………もしかしてクガさんも何か被害にあったのか?
「そういう事するって」
「あー、こいつら相思相愛だろ、めんどいからくっつけよって感じで」
「うわぁ」
余計なお世話じゃございませんか? 控えめに言って無神経ではございませんか?
「まあ実際アレで進展させれるから凄いと言うか…むう」
クガさんも両腕を組み続けてうねってる。
「今なら笑い話だけどやっぱムカつくな」
クガさんの出した結論、ムカつく
「あはは、やっぱりですか」
「うん、一度アイツの恋愛にも仕返してやりてぇんだが…そういう空気ないからな、アイツは」
「クガさんも被害者ですか」
「あぁ」
ここにヤタ被害者の会が結成された気がする、気がするだけ。
「ね~ね~、何の話~?」
あ、恋バナが好きそうな人が入ってきた。
「ヤタさんの恋愛相談について話してました」
「…私は、ヤタに恋愛相談しようとしたのは止めたからね!」
バタンと音を立ててブリッジに帰っていった、イチゴさんも被害者か、多いな被害者ってこの艦全員ヤタさんの恋愛被害者じゃないかー、アッハッハ。
「アレっすね、ヤタさんって怖い」
「わからんでもない」
クガさんはたこ焼きを食べ終えて、お茶を飲み始めてる。
そこにヤタさんがシャワー室から出てくる、その表情は清々しいほどサッパリしてる、なんか勝手にいやーいい仕事したなって空気出してらっしゃる。
「お疲れ」
「はい、お疲れさまです」
そのままヤタさんも食事の準備を始める。
「ヤタさん…」
「付き合ったか?」
「逃げられましたけど!?」
「そうか…まあ大丈夫だ」
何がだろうか、いやまあ確かに多分大丈夫ではあるんだろうけど。
「まったく…お陰様で吹っ切れましたけど」
「なに、恋愛相談なら何時でも乗るし悩んで動けなくなるのも困る」
「あはは」
凄いなこの人のメンタル、鋼か?
「それとクガ、これ報告書」
「了解、読んでおく」
クガにヤタはUSBデータ報告書を纏めたのを渡す。
「………ふむ」
「なんのデータなんですか?」
「スノウのデータ」
自分のデータを目の前でやり取りされるのもなんかこっ恥ずかしいものがある。
「まあ、今回ので解ったことがある」
「…なんですか?」
「約束通り、お前を強くするサポートはする」
腰に手を当てながら、ヤタさんは食事を作る待ち時間を利用して次の段階の話を切り出す、アイへの告白のために誘導されたとは言え、その道中の強くなるという話もちゃんと聞いてくれてはいたのだとわかる、少し過程に納得は行かないが。
「度胸はあるけど近接が弱すぎる、シールドが硬く遠距離が通りにくい環境だからスノウには対策して貰う」
「はい」
近接対策、これがヤタさんが考えた強くなるための最初の訓練だった。
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