レオニダス。

 このまま、動いてくれなければ、動けないのであれば楽だったと思う。

「来るぞ…」


 半壊した片腕を裏拳のように振り回しながら、コッチへ向いてくる。

 その裏拳の範囲からはとっくに離れていたのだが、改めてレオニダスと向き合うことになって思う…でかい。


 頭のサイズだけで俺がすっぽり入るサイズに、獅子と古代ギリシャの様なデザイン、幸いなのは既に手で持つタイプの武器は使用不可能なところだ。


「よくも……! よくもよくもよくも!!!」


 オープンチャンネルから怨嗟の叫びが聞こえてくる。

「任せたで」

 アイは敢えてシステムをスリープモードにして、呼吸器と通信装置以外の機能を停止させている、他に起動しているものの発熱で排熱が遅くなるからだ。


 正直、ここまでは相手の手の内や行動パターンから予測できていた、けどここから先の敵の動きはわからない、武装自体も防衛用に全身に数箇所取り付けられている対宙機銃しかわかっていない、でも!


「ココまでくれば、新兵のスノウでも避けるだけなら問題ないと思う」

 と、イチゴさんは判断した。


「任された」

 補給ケーブルの長さは30m、宇宙空間では短いけど、よっぽど無茶な動きをしなければヤタさんが合わせてくれる。


 レオニダスが次にしてきた行動は対宙機銃の展開、そしておでこに当たる部分からのガトリングガン、口径は恐らく30mmでとんでもない連射数で襲いかかってくる。

「それぐらい俺でも!」

 それを、相手の頭を中心に旋回しながら避ける、恐ろしい武装だけど、これで事前にクガさんが予想していた事が確信に変わっていく。


「おそらくあの大きさでArcheアーチを狙うことは余り想定してないんじゃないかな、体感的な速度差は人間とハチぐらいの差があるはずだ、装甲も平均的なArcheから頭一つ抜けてるぐらいの火力じゃ貫けやしない程ある」


 その予想を証明するように、近づけないようにする機銃の弾幕はともかく、ガトリングガンの旋回速度も遅く、追いつけてない、後ろにピッタリとくっついているヤタさんにすらカスリもしないレベルだ。


「じゃあ何を狙うかと言うと、アレは最初から対戦艦や対基地攻撃をメインにしてる、事実アレの武装はほぼ人間サイズの的を破壊するには過剰火力過ぎる」


 戦艦と真っ向から殴り合うためのArcheだから、防御面も戦艦が装備しているものを重点的に防げるように作ってあった、なので大型艦ですら落とされた。


「ほんと、ロマン兵装の一つや二つぐらい持っとくもんやろ?」

 回避に余裕があると感じてアイが軽口を言ってくる。

「一つぐらいで十分だと思うけど」

「せやろか…? って来てるで!」


 当然、レオニダスだけで対処できないとなると出てくるのはドローン軍団だ、今度はドローンの機銃をRKSを展開しつつ回避していく、いくらRKSでも弾が反応すればエネルギーを消費するし、逸しきれないド真ん中なら威力の軽減はあっても装甲のダメージが0になるわけじゃない。


 アイを両腕で抱えて、アイの見様見真似でクイックブーストを何度も使う。

「…っ!」

 一体、自爆型が目の前に迫ってきていたのをヤタさんが迎撃する。

「ありがとうございます」

「後でいい」

 ヤタさんは2丁拳銃を使って、とにかく数を落とすことに専念している。


「アイ! 後何秒!?」

「27秒!」

 これでようやく半分を切ったところか…!


「あとスノウ、こっからやと頭の方過ぎて下っ腹を狙えへん!」

「…っ注文が多いな!」

「しゃあないやろ!」

 ドローンを掻い潜りながらタイミングを見つけ、一気に相手から見て下降する。


 背後から大量のドローンが追従してくるのを、ヤタさんがシールドで庇いながら続々と撃墜していく………けど、いくつか漏れ始めてる。


「全く、パンゲアはどないしんねん!」

 レーダーを見る限り、パンゲアや他のPMCも頑張ってはいるただ山羊座がドローンを惜しみなく放出してるせいで上手く行っていない、正直撤退した奴らが残っていれば余裕だったんだろうけど。


 アイが張り付きそうになった自爆型を蹴っ飛ばし、必死に身を捩って弾丸をかわす…だけど、自爆型が自分の頭の真横…ほんの30cmぐらいのところにきた…やべ…これやられる………!


 一瞬、血の気が引いて、頭が冷たくなるような気がした、けどレールガンに光が付き始める。


「OK! 終わった!」


 自爆する寸前、アイがレールガンで自爆型を殴り飛ばす!

 自爆型の爆風がRKSと反応するけれど、ギリギリRKSの範囲中からの爆発じゃなくて助かった。


 長く感じた時間がようやく終わりを告げ、アイが両腕から離れる、ケーブルも外されて一気にレールガンが充電されていく。



 それに反応したドローンが一気に群がろうとするけどそうはさせない!

「この…どいてろっ!」

 両腕が自由になったので自分のライフルをようやく使えるし、アイの重量分下がった機動力も回復したのでもう十分戦える。

「ああは言ったけど…逃げ切れたんはパンゲア様々やな」


 実は、今つけている脚部ブースターは、最初に装備していたものより、ワンランク…いやツーランクは出力が大きいものだ、パンゲアから交換品として渡されたものなんだけど、片足で良かったのに全身分、要求してくれたものより上等のものを寄越してくれた、別の艦に保管してあった、亡くなったエースの為の予備パーツだったそうだ。


「あぁ…遺品なのに、感謝しないと」

「………せやな」


 少し感傷に浸りたい気分になるけれどそれどころではない、まだドローンは迫ってきている。


「チャージは!」

「充填中、後5!」

 3、2、1

 回避しながらアイは照準を合わせる、大丈夫、アイならやれる。


 光の一閃が、レオニダスの腹部装甲を貫き内部で誘爆していく、上半身と下半身が切り裂かれ全身に電流が走り、ショートしていくのが見て取れる。

「これで…しまいやな…」


 崩壊していくレオニダスに、レオニダスから遠隔操作を受け付けていたであろうドローンも次第に動かなくなっていく。


 二発目のレールガンを撃ち今度こそエネルギーが殆どなくなったアイのArcheを支え、崩壊していく様子を見守る、俺達は勝ったん「まだだ!」

 突如ヤタさんが大きな声をあげる、急いで振り向くと、ドローン達の電源が再び入っている。


「嘘だろ…?」

 レオニダスが胸から上を切り離し、背中から二つの作業用アームがマシンガンを装備しながら出てきている。


「どんだけしぶといねん、あれ」

 急いで回避行動に映る、だけど今度は相手が小さくなったせいか、人間サイズと余り変わらないロボットアームを使っているせいか小回りが聞いている。

「………っ!」

 ヤタさんの射撃が胸部に撃ち込まれるが、分厚い装甲は貫けない。


「どうします…」

「考えてる!」

 男二人で焦りながら回避をする、どうやってトドメをさせばいい?


「うちを頭まで運べるか?」

 突如、エネルギーが切れた筈のアイが俺に聞いてくる。

「手があるのか?」

「ある」

 ヤタさんの質問に、アイは短く答える。


「近くでいい、頭に貼り付ければなんとかなると思う」

「わかった」

 ここまで散々振り回されたんだ、ココまで来たら俺もその考えに乗っかる。

「これ、持ってろ」

 ヤタさんにシールドを手渡される、これで強行突撃しろってことだ。


「いくぞ!」

 全力でロールしながら、レオニダスにぶつかる勢いで突撃する。

 ヤタさんの援護射撃による撹乱と、ドローンもまだ反応し始めてない。

 だけど、頭部のガトリングが、俺たちを捉える。


「っ! このぉぉ!」

 シールドでとっさに防ぎながらブースターを最大出力で前進させる。

「このっ………進めよォッ!!」


 ガン!


 しかし、ガトリングの勢いのほうが強く、シールドごと弾き飛ばされる。

「………ダメだったか?」

「まだや!」

 アイの右手から、アンカーフックが、やつの顔面に突き刺さってる。

「これだけな、電力外付けで動いてんねん」


 高速でワイヤーが巻き取られ、二人で顔面に張り付くことに成功する。

「なんや、ソコに居たんか」

「あぁ、ここに居たらしい」

 顔面に付いている目のガラスパーツ、その奥に敵のパイロットがいた。


「スノウ、これウチだけやと作動しいひんから、スイッチお願い」

 レオニダスの眉間に、ペインバンカーがあてがわれている、そう言えばこれもアイの機体の基本装備だったな。

 武装用の電源ケーブルをアイと接続し、支える。


「ありがと、ほな…」

 言うことはあるか? そうオープンチャンネルでアイは聞いた、パンゲアの人の代わりにそう聞いた、ソレに対して返事は帰ってこなかったけどガラス越しに中指を立ててきたのが見えた。


「さよならや」

 二人でペインバンカーを作動し炸薬弾が直接撃ち込まれると、コックピットが爆発しレオニダスが今度こそ完全に内部から崩壊していく。

 再起動したドローンも、戦意を見せず一斉にコロニーへと引き上げていく。

 レーダーをみると他の場所のドローンやArche部隊も帰っていったようだ。


崩壊していくレオニダスを見ながら改めて、俺は初めて戦闘の勝利を実感した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る