ドローンファランクス。
ブースターの取り換え、調整、そして休憩全て終わらした1/19日、ここまで山羊座にも獅子座にも動きは無かった。
今日で山羊が一番近いシーズンが終わる、他の傭兵団も徐々に離脱していく期限日で端的に言うと今日がラストチャンスだ、どうせこんな作戦二回目はないから問題なんてない。
「そちらの準備は」
「OKです」
ここにリヒトはいない、彼は水瓶座の所有する小惑星基地の攻略に出ていて、来れる状況でも距離でもない、だからもう一つの残ったパンゲアの大型艦艦長と連携を図ることに鳴る。
「では始めます」
通信の後、パンゲアと関係のあるPMCで一斉射撃が始まる、コロニーに向かっての一斉砲撃であり、コロニー自体にも防壁があるので余り効果はないが挑発にはなるだろう、実際大量のドローンが展開されていく。
「すごい数だね~」
その数は前回の倍近くいる、本格的に突き破ってくるという意思を感じるぐらいだ、現在俺たちパイロット三人は格納庫で待機している、ヤタさんは追加のバックパックを装着し、アイは最初からレールガンを充填している、戦況は戦艦のメインモニターと共通のものがヘルメットに中継されている。
「『レオニダス』は?」
「まだ出てきてない、オープンチャンネルでパンゲアが挑発してる」
「聞いてるんですかね、相手」
「レオニダスのパイロット、初日に名乗りあげてたから開いてると思うよ」
なるほど、確かにそれなら聞いてそうだけど。
オープンチャンネルを開いてみると、『獅子が羊の膝枕でねんねか?』『羊毛布団で永眠してんのか?』『ママのミルクはおいちいでちゅか?』『羊と獅子の逆転シチュとか萌えますね』などただの悪口が多い、というかココぞとばかりに言いたい放題言ってる。
「…なんというか、なんか」
「だね~、鬱憤が溜まってたんだろうね、ところで逆転シチュってどうなのよ」
「ソコ掘り下げんな」
クガさんが、イチゴさんを速攻で諌める、待機してる待ち時間の話題としてもどう返して良いかわかんないから助かる。
「うちは、攻めてみたいし逆転シチュもアリやと思うんですけど」
「なるほど~、確かにそう言われると」
おいソコの女子二人、無視して話題を広げるんじゃない、ヤタさんがすっごい表情になってるから。
「そこまでだ、動きがあったぞ」
二度目のクガさんの話題カット、ほんとありがとうございます。
「どれどれ? あ、出てきたねレオニダス」
大型の巨体が出てくる、モニター越しにも左腕は肩から取り外されていて、代わりに50mほどの大きな盾がくっついている。
「メカニックから見てどう思う?」
「
「どっから持ってきたんだろ~ね?」
「さあな」
コロニーから出撃してきたレオニダスは、こちらの布陣を確認する素振りを見せる、そりゃあんだけ挑発してきたんだから、挑発元叩きたくのは当然だよなー、とそう思っていたのだが、真っ先にしてきた行動はコチラへの突撃だった。
「ちょっとパンゲアさんヘイト管理足りてないよ!?」
パンゲアもレオニダスへの集中砲火を開始しているが、目立った効果はない、やはり大型艦の主砲が命中しても多少装甲に傷が付く程度だ。
「あーあー、こちらオモイカネ! 私達挑発してないよ~?」
何の好奇心か、イチゴさんがレオニダスのパイロットに話しかけてみる。
「うるせぇ!! 腕を飛ばしたお前らからだ! あの口うるせぇバカどもはその後で
「あちゃ~、バレてたや」
ズシン、という音とGと共に当艦が直進を始める。
「ちょっと予定より早いけど作戦開始するよ!」
加速し始めたオモイカネは、真っ直ぐに全速力で最短距離を突き進む
「な!? 神風かよ!?」
それに慌てたのはレオニダスのパイロットだ、さすがにこの奇行に対して急停止して突進をやめる。
「進行停止、距離6000!」
更に加速し続ける、対Gスーツを着てなければ間違いなく
「敵ドローン展開してるぞ!」
進行上にドローンが並びRKSを同時展開してるのが見える、100×100
で整列して一斉に盾を構えて進行を阻止する陣形だ、本来は主要兵器や基地をRKSの相互作用を使い防ぐ鉄壁の陣形、古代の密集陣形から付けられた名前はファランクス。
「問題ない! RKSを前方に集中展開! 蹴散らして!」
「了解!」
その密集陣形を戦艦の質量と圧倒的な速度で突き破る、大きな衝撃が来るが殆ど減速もしない、むしろ再加速していく。
「損傷は?」
「軽微、工場一週間コース」
「上等ッ! 突き進めっ!!」
突き抜けた先で、今度はレオニダスが右腕をこちらへ向けている、その後にする攻撃のドローンファランクスは目くらましだったんだ。
「回避行動を取るよ!」
ガコンと、急に床が持ち上がってくる感覚とともに、一気に体が傾いてくる、それがバレルロールだと気付くのが一瞬遅れたせいで、バランスを崩して設備に激突してしまう。
「大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
幸いにも設備に故障がなく、ロボットアームが無理やり俺の身体を起こして固定してくる。
「聞いてたけど、無茶苦茶やな」
「うん…」
小型とは言え、戦艦でバレルロールするなんて無茶にも程がある、だけどそのおかげで敵の攻撃の回避には成功した。
「距離1000」
「そろそろ発進するよ!」
俺だけではなく、アイとヤタさんにもロボットアームが取り付く。
レオニダスは本当に突撃してくると思ったのか思わず肩腕で庇った、作戦通りだ。
敵のRKSの範囲は肩から下方向に力場が発生して、上方向に20m、下に100m、横幅30m、奥行きは最大で30mの歪んだ楕円形をしている。
そのスレスレを沿うように急上昇旋回し、戦艦の上部と相手が向き合う形になる、一瞬時間がゆっくりに感じられるレオニダスの腹から胸、首が徐々に開けてあったハッチから目視できた。
―――そして
頭が映った瞬間、ロボットアームによって三人とも勢いよくハッチから宇宙空間に放り投げられた。
実は、最初から格納庫の空気を抜いて、各ハッチを開けておいた。
出撃はせり上がる台座とロボットアームで投げ飛ばすという強引な手法で、レオニダスのRKSの範囲に強引に入り込みつつ、背後を取れる。
放り投げられた位置は絶妙で、そこはレオニダスの後頭部近くだ。
「スノウ!」
「わかってます!」
ヤタさんが声を出すより早く体は動いていた、クイックブーストを使い、アイに密着して自信のRKSで守る、アイは密着と同時に自分のRKSを解除してレールガンに全性能を集中させる、狙いはもう手動でつけていた。
「いっけえええええええええええええ!!」
レールガンが、出来得る限り最速で発射される。
RKSの内部で発射された弾丸は、殆ど威力減退を受けず、右肩の発生装置を貫いた。
発射と同時にヤタさんと二人でアイを抱えて爆風範囲から離脱する。
RKSとシールドがあるとは言え、こんな無茶な距離から戦艦級の爆発をまともに受ければ大破してしまう、本当はもう一発の為に近づいたままで痛いのだが、ここはしょうがない。
爆風は無重力ではほぼ減衰しないがそれでも中心部に要るよりはマシで、今回はヤタさんがもってきたシールドによって防ぎ切る。
それと同時に、ヤタさんからケーブルを手渡され、アイの臀部…尾骨のあたりにあるバッテリーの供給口に差し込む。
「はうあっ!」
身体に一瞬電流が走るので、アイは小さく悲鳴をあげる。
「…バッテリー充填中、クールダウンまで後一分」
エネルギー自体は事前充填もあって30%ぐらいしか消費していないが、それでも全身から排熱するため1分間は動けない。
だからここからは俺とヤタさんの仕事だ、アイを抱えた状態でケーブルが外れないようにしながら、向かってくるドローンとレオニダスの反撃を防がなければいけない。
ドローンはパンゲアが相手をしてくれている。
もし、ここで他の要素がなければ、パンゲアの大型艦からの主砲で撃破する可能性も作戦には入っていた、けれど。
「パンゲアの主砲はダメ、山羊座からエースが出てきてそれの相手をしてる!」
どうやらパンゲアに余裕はなさそうだ。
つまり、俺にしてみれば本当の本番はこれからなんだ。
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