弔い酒。(1)
勝った、初陣の時はショックの方が大きかったけど、実際に今度は少しは役に立てたと思う、その達成感と同時に疲労感と恐怖が襲ってくる。
「…生きとるかー?」
「うん、ダメそうやな?」
アイが試しに胸の方に俺の頭を引き寄せてくる、正直反応しにくい。
「これでどうやー?」
「…肋骨があたってる」
どすん!
アイに思いっきり頭を床に叩きつけられた、しかもすごい勢いで。
「なっ!」
ヘルメットじゃなかった死んでたぞ?
「もっと言うことあるやろ!」
いやまあ、そうだったんだろうけど正直気力がわかなかった、というかタイミングが悪いと思います。
「ひどいなぁ…」
バウンドして跳ね上がりながら、ボソッと呟く。
「あんたなぁ…もっと言うことあるやろ?」
「あー…そうだな………吐きそう」
途端に、真下にいるアイの表情が凍りつく。
「吐くなや!? ぜっっったいに吐かんといてや!?」
アイは俺の足を掴んで引っ張り出し、俺のヘルメットを脱がす。
「ストレス!? 疲労!? どっちもやな!?」
「大丈夫、ほんとに吐きはしない……とおもう」
「お、驚かせなや…とりあえずArche外すで」
アイが代わりにロボットアームを作動させて、装備を解除してくれた、ヘルメットも収納棚に入れてくれる、こういう時は親切なんだけどな。
「まあ、ゆっくりと休んどき、多分これから順番に、維持兵力だけ残して撤退すると思うから」
ゆっくりとまるで荷物でも運ばれるかのように脇に抱えられ、談話室に運ばれる、正直情けない姿だと思うけど精神的、肉体的両方で限界に達していた疲労のせいで反抗する事はできない。
「おつかれさ…わ~」
イチゴさんが、その光景をみてぎょっとする。
「なんていうかさ、逆じゃない普通?」
「うちもそうやと思います、けどスノウがこんななので」
バフ、っと雑にソファーに投げられる。重力なんてないので反動で浮き上がっていくのだが、イチゴさんがソファーに押さえつけてくれる。
「で、シャワー浴びさせたいんやけどウチがやったらさすがにアウト?」
「ん~、アウト…かなぁ?」
なにを真剣に話し合ってるんだろう、ほっといていいのに。
「とりあえず、ウチは先にシャワー浴びてきます」
「は~い」
そうして、イチゴさんと俺が取り残される。
「今ね、もう自動操縦で月に向かってるの」
いつの間に…。
「今回功労者だからって結構早い順番で許可が降りたからね、本当は勝手に撤退したらダメなんだけど、緊急時でも」
「……けど、あの時逃げた組織多かったですよね」
「うん、あれも本当はダメ、でも罰金ぐらいしかないから命と天秤にかけて撤退を選ぶのも正直仕方ないと思う」
金もなにも命を失えば意味がないから、仕方ない部分はあるのだろう。
「ただ、結果が全てだからね~、ほら今回どうにかなったじゃん?」
上は…というか地球は結果しか見ない。もしこれで壊滅になったら撤退も正しい判断だったとされてお咎めは少ないだろう、でも結果はなんとかなったので、上は臆病にも逃げたとだけ判断しやすくなってしまう。
「これも、リスク・リターンの計算だよ、ただ…実際被害も少なくなかったから、評価値も名声も逃げた人達でもそんなには落ちないと思う、多分それがわかってて逃げてるのかな」
その辺、どれだけ利益を取れるかというのは変わってくるのだろう。
「だから、今回倒して勝てたのは凄く大きいの、ありがとう」
ポンポン、と二回頭を軽く撫でられる、ここの女子達は俺を子供扱いしすぎじゃないかな。
「あはは不満そうだね…」
いたずらっ子のようにイチゴさんが笑ってるのに文句の一つでも言ってやりたいが、指一本動かせないので言われたい放題されるしかない。
「とりあえず、シャワーでも浴びたらマシになるよ、汗臭いし」
「………はい」
汗臭いのは事実だろう、艦に戻ってから一気に冷や汗がでたし、戦闘中もずっと手に汗を握りっぱなしだったし、背中も暑かった。
「そうそう、月に帰ったらパーティーやるって、パンゲアの人が」
「パーティーですか…?」
今回多大な犠牲も出たのに、パーティーをするのか、と疑問に思う。
「あそこは多国籍なのもあるけど、結構盛大に送り出すんだって」
「なるほど」
そう言えば戦争映画とかでよく見た気がする。
「てことで、しっかり疲れ癒やしてね、スノウだって主役の一人だから」
「おれ…っボクが?」
「そうそう、大物をぶっ飛ばした功労者でしょ?」
「…入るんですか?」
「エースキルのステッカーは貰えないよ? そっちはアイにあげる」
当然だ、最後の引き金を一緒に引いたとは言え、アイの武装でアイの発案でアイが削ったのだから。
「でも、キルアシストのステッカーは貰えるから」
「そっか…ありがとうございます」
ステッカーとは、キルマークのことで、Archeにつけることができる勲章のことだ、これがArcheについて居れば一目置かれると共に警戒される、数が多ければエースの証とも見なされる。
「アイは…これでエースって呼ばれるんじゃないかな?」
アイの戦績は
エース
通常の兵士のキル、6
戦艦のキルマーク、1
エースアシストが2だ
このエースアシストは撃退、つまり半壊させて撤退させたことも含まれる。
「…よく考えたら凄い戦績ですよね」
「だよね、ほんと無茶してきたんだと思う」
アイは、俺と同じくらいの年齢だから、長くても1年はまだ経っていない、なのにこの戦績を持っているのはかなり無茶をしてきた証拠だ。
「傭兵だし、かなり無茶させられたんだろうね」
「自分でその方が儲けれるから敢えてそういうとこに言ったって口ぶりでした」
「そっか…じゃあ離さないようにしないとね」
アイが傭兵気質ならいつか離れていってしまうかも知れない、それだけはこのPMCとしても、個人的な感情としても嫌だ。
「何の話ー?」
アイがシャワーを浴びて出てきたようだ。
「ん~、アイが抜けたらヤだな~ってはな…うぇぇぇ!?」
おい、なあにがあった
「アイちゃん、服着なさい、ここ男多いんだよ?」
「あ~堪忍、持ってき忘れてん」
おい、どういうことだ。
「大丈夫やって、タオルあるし、スグ着替えくるから」
「あ~もう、シャワー室にいてて」
ドタバタとイチゴさんが談話室から出てく。
「もー、そんな気にしてへんしいいやんな?」
ちょっと遠くから声が聞こえてくけど、絶対ソレ嘘だろ、ここでもし起き上がって姿でも見てたら絶対殴ってきただろ?
「まー、そんなこと…っと」
「お疲れ様、安定航路に出たぞ……ってどうした?」
クガさんが、ブリッジから出てきてなにか妙な雰囲気を感じ取ってかこっちに移動してくる。
「それが……アイがシャワー室で」
「シャワー室で?」
うーん、どう言えばいいだろう、全裸で出てこようとしてたというのも実際見てないから語弊があるきがする、タオルぐらい巻いてたと思うし。
「着替え忘れたみたいで」
「あー…なるほ……んっ!?」
こっちを見下ろしてたクガさんの顔が青ざめたのがわかる。
その瞬間、談話室の扉が開き、勢いよくイチゴさんが飛び出てくる。
「クガああああああっ! 見ちゃダメーーーーーー!」
「あっ」
ソファーから見上げる俺の視界で、クガさんがイチゴさんに無重力ドロップキックを受けていった、アレは痛いやつだ。
「みせてへんでー……」
申し訳な無さそうに、アイの声がシャワー室から聞こえてくる。
「まったくこのロリコンは!」
あ、クガさんロリコンなんだ。
「みせてへんでー……?」
「免罪だ…」
「…免罪でもダメです」
めちゃくちゃだな、と少し思った。
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