山羊座戦線異常しかなし。

 改めて望遠モードで戦艦と比較してみると、大きさが際立つな、アレ。

「作戦はどないするん?」

「とりあえずデカブツは大手に任せちゃって、ドローン破壊に専念しよっか、小銭稼ぎだよ~」

「了解」


 短く答えたヤタさんが、後方から散らばっているドローンを破壊し始める。

「…特攻させられへんってなかなか新鮮やな」

「それがまず、おかしいんだってば~」

「お前が言えるのか?」

 ヤタさんが静かに、というか呆れ混じりに聞いた?


「え~、言えるんじゃないかな~」

「ダウト」

 即答だ! これ前に特攻に近いこと…そういやあったわ、戦艦ごと特攻してたの。


「データはこっちで集めちゃうから、適当に小銭稼ぎをお願い! こっちまでドローン通しちゃダメだよっ!」

「わかった」

「ほなスノウ付いてきて! 周りの撃っていってな!」

 アイがクイックブーストを使い、ドローンの密集地へと接近していく。

「っ! だったら着いてこれるようにしろよ!」


 急な発進に必死に食らいつこうと追い上げる、クイックブースターを多用するその動きは無茶苦茶で、アレに当てるのは確かに骨が折れると思う。

「着いてこれてるやんっ!」


 嬉しそうに言いやがる、こっちは進行方向予測して最短距離で詰めるのが精一杯だって言うのに、…あれ、どんだけGかかってるんだよ。


 ドローンが、高速接近するアイに反応し迎撃しようと銃弾を発射する、それをアイ自体はジグザグ起動でくぐり抜け、至近距離でショットガンをぶっ放してる、ありゃオートロックで予想射撃が出来ないようなドローンじゃ無理だろう。


「若いな…」

 アイが撃ち漏らしたものを、ヤタさんがフォローする様に狙撃する、1000m近い距離の連続狙撃ってヤタさんはヤタさんで狂った事してないか?

「っ…この!」


 僕…いや俺にできることと言えば、アイやヤタさんの攻撃を受けて破壊しきれなかった個体の止めを刺す作業だけだ。

「アイ! そろそろダメだよ」

 どんどんと戦線を前に進むアイを、イチゴさんが引き止めた。

「ソレ以上はアレの射程内っぽい」

「ここで!? ほんまか……」


 この地点で、あのデカブツとの距離は1000mほど、デカブツの周囲は中~小型艦の残骸が散らばっていて、激戦の…いや一方的な蹂躙の後が見られる。

「単純に出力が高いから、そこからでも十分射撃圏内だよ、狙いは荒っぽいけど」

「ひえー…」


 近づかないような距離で、アイさんはデカブツの方からくるドローンを迎撃する方針に切り替えたようだ、曲芸飛行は続けたままだけど。


「ちなみにやねんけど、結果は見えてる通りです?」

「そうだね~、多分そこから見えてるより悪いと思う」

 え、今見える範囲だけでも大損害なんですけど? 戦艦5・6ぐらい沈んでない?


「えっとね~、戦艦の損失、小型7,中型3,大型1」

「大型落とされてるんは痛すぎひん?」

 大型は戦艦はそれだけで一個師団に匹敵すると言われている、大手ギルドの旗艦になってることも多くて、大規模になればなるほど、大型艦の数を張り合うようになる、それでも最大手で6艦も所有してなかったはずだ。


「どこのだ?」

「パンゲア、エースも一人死亡してるって」

 死亡と聞いて背筋が凍る、戦争だ、人が、しかも自分より圧倒的に強いであろう人が死んだらしい。


 ガン!


 強い衝撃で突き飛ばされる、振り向くとドローンが目の前で爆発している。

「ボーッとしない! 顔すら知らんヤっちゃやろ!」

「あぁ、そうだ…そうだよな」


 確かにそうだ、顔も知らない、なんだったら戦艦が沢山沈んでるんだからそれで死者も大量にいる、ただ何故だろう? 今一人死んだと聞かされるまで、

 まるで


「ごめん、もう大丈夫だ」

 必死に頭を切り替える、今やらなきゃいけないのはドローン退治だ。

「って、あれ? ドローンは?」

「あらかた終わったで、さっきので終いや」

 あぁ、そうか、最後に撃ち漏らしたのが僕に来てたんだな。


「そんでどうする? 撤退?」

「あぁ、無駄に消耗することもない、うちにはお前らしか居ないんだからな」

 クガさんが帰投指示をだす、反省することしかないけど、仕方ない。

「その前に、一個試してみたいんやけど、いいです?」

 アイが、背面パックから例のレールガンを取り出した…っておいおいマジ?


「これ、頭に一発ぶち込んでみたいんやけど…」

「いやいや、正気であらせられます?」

 ついつい、変な口調になってしまったけど、俺は悪くない。

「どんな口調やねん、それ」


 折りたたんであったそれは、約2mもの全長と1mの2本のレールを持ち、高出力で強力な電磁場を、Archeアーチと接続しただけのアイドリング状態で既に発生させている。


「…狙われるだけだぞ」

「あ~、でもな~……う~ん」

 警告をクガさんが、何やら悩み始めてるのがイチゴさん、もしかして本気で撃つメリットがあるの?


「スノウ、離脱準備、アイを抱えれるようにな」

「えっ?」

「準備しろ」

「こういう時のイチゴは、大抵許可する」

 マジですヤタさん、本気で仰言ってます?


「今後撃破しなきゃいけない可能性を考慮して、データ取得のため許可します」

 30秒ほど考えて、イチゴさんが許可を出した、狂気であらせられます?


「おっしゃ! そうこな!」

 レールガンにArcheから、本格的にエネルギーを供給し始めた。

「接続チェックOK、逆噴射装置同期開始、電磁気力ローレンツフォース充填」

 銃身が電流を流し始める、銃身が赤色に光る、それは黄色に色を変えていく。

「実際、あれ戦艦の主砲と比べてどうなんだ?」


「大型艦の方が上だと思う、実弾で300、レーザ兵器で250ってところだし」

「レールガンは?」

「200MJメガジュールかな?」

「…それ、この艦の主砲よりは高いよな?」

「高いよ~」


 通信越しに聞こえてくる情報によるなら、戦艦の主砲を撃とうとしてる様なもんなのか…、普通に戦艦だって落とせるんじゃないか?

「可能性はどのくらいあるんだ?」

「さっき集中砲火されてた時に、RKSの出力をかなり消費してると思うの、戦艦とArcheの同時攻撃だったから」


 つまり、シールドは削れてると。

「その上で威力は劣るけど貫通力のあるレールガンなら通る可能性がある、レールガン自体が余り検証されてないけどRKSと相性がいいし」

 なんとなく、行ける可能性があるのだけは伝わった気がする。


「とにかく、傷がつくかどうかが大事だよ、そうだ、狙いは頭じゃなくて肩にして」

「了解、あの青いパーツでええ?」

「うん、まさにアレを破壊して欲しい」


 現在、相手は体中の機銃を使って、地球側のArcheとドローンを撃ち落としてる、動きは遅く見えるし、レールガンの速度なら狙える、余裕からか辺りをロクに索敵してないし、こちらに気付いていないのも追い風だ。


「エネルギー充填完了したで、いつでもOKや」

「了解、現場のタイミングでどうぞ」


 アイは、遠くにいるヤタさん、そして俺を見る、

「ほな、スリーカウントでいくで」

「あぁ」

「了解」


「3…2…1……」

 稲妻のような轟音がヘルメットから聞こえる、稲妻のよな光がまっすぐ宇宙空間を突き進んでいく、ほんの刹那の間に、電気を帯びた弾丸が、あの巨体の肩へと到達する。


 RKSシールドと反応し、真っ白な閃光が真っ暗な宇宙空間を白に染め上げる。

「どうや…?」

 全身から排熱しながら、アイのブースターが全部オーバーヒートして排熱し始め、電力不足から最低限の生命維持を残してシステムダウンする。

「システム再起動まで5分やて」

 宇宙空間に漂いかねないアイを支えながら、気になるのは巨大Arche、どうなった…?


「着弾確認…損傷…してるよ!」

 急いで望遠レンズを起動して、敵の肩にある青い球体部品を確認する…確かにヒビが…いや、貫通してる!


「戦艦用RKSを貫通…しかも発生装置の片方を! 大戦果だよ!」

 通信からイチゴさんの喜ぶ声が聞こえてくる…だが。

「まだだ! その場から早く逃げろ!」

 クガさんの声でハッとして敵の全体を確認する、明らかにこっちを見ている。


「来るぞ!」

 ヤタさんの声がする、そうじゃなくても冷や汗が止まらない。


 壊れたはずの左腕をコチラに向け、貫通された筈のパーツがショートしながら光っている、明らかにまずい。

「離脱や! はよ!」

「あぁ!」

 今は出力を絞ってる暇はない、推力を100%使い全力で離れる。


「左腕に高威力エネルギー反応っ! あいつ腕を捨てる気だ!」

 瞬間、大きな光が迫ってくるのを感じた、直撃すれば必ず死ぬ、そういった光だ。


「っ…!」

「いや…っ!」


 その光は、ほんの直前までいた場所を通り過ぎていく、スグ足元を掠めるように通過して、俺の右足に焼くような痛みが走る。


「うああああああああああああっ!」

 バランスを崩して、二人で錐揉み回転をしながら宇宙空間に吹き飛ばされる。


「おい! しっかりしろ!」

 数秒吹き飛んだ後、止めてくれたのはヤタさんだ、止めてくれなきゃ永遠に錐揉みしながら彷徨ってたところだ。

「……っ」

「ありがと…」


 足を確認したら、余波でブースターが破裂していた、内蔵していたジェルが破損箇所を埋め、肉体が宇宙空間に晒されるのを防いでいる、ついでにヒンヤリしたジェルの感覚は、恐らく火傷したであろう足に気持ちよかった。


「敵は…」

「コロニーへ向かった、もう大丈夫だ」

望遠レンズで確認すると、相手の左肩から抉れるように崩れている。

「…アレと痛み分けなら十分な戦果だよ、帰投して」

「了解、ヤタ帰投する」


ヤタさんが、俺とアイを抱えながら、ゆっくりと帰投を始める。

「あはは…成功でええんやろかな?」

「……良いと思うよ、多分」

「ほな…よかった」


Arche越しに、強くアイに抱きしめられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る