山羊座ラインの守り。

 母艦に帰り、ドックの中で尻もちをついてしまう。

「っはあ…はぁ…はぁ……っ」

 安心したら足が痛んでくる。

「大丈夫ッ!?」

 同じく帰還したアイがArcheを取り外して駆け寄ってくる。


「あぁ…大丈夫」

 ロボットアームがのArcheを取り外していくが、脚部パーツの時痛みが更に走る。

「っ・・・!」

「大丈夫ちゃうやん!」

 アイが叫びながらジェルを外し、応急セットで治療し始める。


「おかえり! 怪我は!?」

 イチゴ艦長が飛び込んできた、まだ前線なのにブリッジはいいのか不安になる。

「コレ使って!」

「ハイッ!」

 ガーゼに軟膏、そして包帯を巻かれる、多少痛みもマシになってきた気がする。


度のやけど、一週間経てば治るし後も残らへんと思う」

「ありがと…」

「ごめんな、ウチのせいで…」

「いや、いいよこれぐらい」

 ため息が出る、俺は初陣からどれほど役に立てたのだろうか。


「ふ~、改めてお疲れ様どうだった?」

「足を引っ張ってばっからったかな…って」

「案外そうでもないで?」

 イチゴさんの質問に力なく答えると、アイが否定する。


「そりゃ~一回ボーッとしてたのはアカンけど」

 死亡を聞いたときのことを言ってるのはスグにわかった、確かにアレは本当にダメだったと自分でも思う、下手をしなくても死んでいた。


「新兵が出撃したんは良いけどガッチガチに緊張してもうたり、恐怖で動けんようになってるんって多いんよ、だから、アレだけやったんはまだマシな方や」


「マシって言い方は、悪かったって事は否定してない言い方だよ」

「ほら、そこは次に活かされへんと」

「……あぁ」


「でもな、スノウがいたからやった作戦でもあるんやけど、ウチの命を助けたんもスノウやねん、あのままオーバーヒートで動けなかったらウチは死んでたんやで」

「………だけど、この怪我……あっ!」

 自分の怪我を見ながらハッとする。


「そうだ! そっちの怪我は!」

「ない、スノウ…あんたあの時ウチを庇ったやろ」

「え………?」

 覚えがない、そんなつもりはない、離脱することに必死で何も考えてない。


「無意識? あん時、スノウはとっさに被さったで」

「覚えがないよ」

「覚えがなくても、やったんは事実やし」


「………………」

返す言葉が見つからない。

「だから、ありがとうな」

 ゆっくりと肩を叩かれながら腕を抱きしめられる。


「よし、イチャイチャしてるとこ悪いけど状況確認だよ」

「イチャイチャはしてへん!」

 バッと勢いよくアイが離れて抗議してる、まあ今のは言われるよ。

「はいはい、クガを呼んできて」

 その瞬間、シューという音とともに格納庫の扉が空いてクガが入ってくる。


「ヤタにブリッジ変わってもらった」

「さっすがヤタだねッ!」

 クガさんは真っ先にアイのArcheの状況を確認し、現状の確認をする。


「…よし、こっちはバッテリー切れだけだな」

「よかったー」

 改めて無傷と聞くと、ちゃんと任務は出来たんだなとホッとする。


「次、問題はコッチだよ」

 クガさんは俺のArcheのパーツを一つ一つもって確認する。

「っち……コレはもうだめだな」

「えっ」

 大破という言葉が脳によぎる。


「えっと…大破ですか?」

「いや、壊れたのは片足だけだ」

 片足、つまり俺の右足を焼いた攻撃のものだ。


「片足だけで済んだのは、あの攻撃から考えたら良いんだがブースターが破裂ヴァースとしてしまってる、交換が必要だな」

 交換か…自分の持ち込み部品にブースターの交換品はない、高くて買えなかった。


「最新式だからな、備品のストックもない、片足がないとバランサーの負担も速度も両方低下する…出撃はさせれない」

「………わかりました」

 残念だけど、さすがに置物になるわけにはいかないか。


「さて…後は今後の方針だね、どうしたい?」

「一応倒せる目処はあるんやんな」

「そうなる」


 イチゴさんの意思確認に、ブリッジのヤタさんとアイで館内放送を使っての話し合いが始まる、どうやらこっちの音声も聞こえているらし、監視カメラにマイクでもついてるのだろう。


「相手の損傷は左腕やろ? 出てくると思う?」

「五分五分…というより出てくるだろうな、総合力はまだ上の自信はあるだろう」

 こっちが片足のブースターが壊れただけで出撃停止なのに、相手はまだ出てくるのは結構理不尽に感じるが、モノがモノだけに文句が言えない。


「修理してくる可能性はどんぐらいあるん?」

「それは無いと思うよ~、さすがにコンテナに入ってなかったし、獅子座コロニーの近くだったらあり得たかもね」

「…RKSシールドは」


「片方が破壊されたけど、中型艦の主砲ぐらいなら防げると思う、けど、もう大手は大型艦を前に出したがらないよ」

 万が一を考えても採算が取れない、というよりも大手がこのまま損切りして撤退してしまう可能性すらあるだろう。


「パンゲアが撤退したら、コッチは問答無用で撤退するしかないから」

 正直大手の戦力無しで、大量のドローンを相手しつつアレを破壊するのは無理だろう、数の暴力と飛ぶ抜けた個の組み合わせなんて最悪にも程がある。


「そもそもそうなったら終わりだからね、そこはミーティングがあると思うからそこで交渉してみるんだけど、まず私達の意見を統一しとこ」

 意見の統一、つまり、戦うべきか逃げるべきか。


「戦う場合のメリットは倒したら報奨が美味しい、名声があがる」

 これは今後の活動において、かなりのメリットだ。

「デメリットは全部失うリスクが高い」

 失敗したら命ごと全部失うだろう、あの大型艦のように。

「実際、今回中規模ギルドが一つ消滅してるみたいなんだよね」


 中規模のギルドは事務所を持ってることが多いが、中型艦に事務所ごと内包しているケースもかなり多い、そういう所は戦艦が落ちた場合文字通り何もなくなる。


「で、どっちがいい?」

「…勝てる見込みは」

 ヤタさんが質問を始める。

「めちゃくちゃ低い、しかもアイちゃんの負担だけ凄く高い」


 手の内はバレている次は最初からアイを狙ってくる可能性も高いだろ、なんならアイがいるこの母艦ごとマークされてる可能性が高い。


「…スノウのブースターが用意できると仮定したら?」

「多少は勝率が上がると思う、カスタムパーツをスノウに支給することが前提でね」


「………スノウ、体は動くか?」

「…大丈夫です、戦えます」

「アイは?」

「ヤレって言われるんやったら、やります」

 質問が終わるとヤタさんからの通信は止み、暫く静寂に包まれる。


「イチゴ、クガと一緒に大手と交渉して、それ次第で戦うのはどうだ?」

 一分ぐらいたって、再びヤタさんからの通信。


「おいおい、大手からブースターの交換パーツをせびれと?」

「できるだろ」

「……五分五分だぞ」

「ならできる」


 クガさんが深い溜息をついた。

「やるだけやってみる、交渉材料は弱いけどな…ったくアイツがいればな…」


 それから一旦解散して、1時間後にヤタさん以外が談話室に集まる。

 さすがに敵襲がない、今敵襲が来たら逃亡するとの判断があったので、俺とアイの二人はパイロットスーツから着替えていたけど、ヤタさんだけは着用したままブリッジにいる。


「来るぞ」

 クガさんの言葉で姿勢を正す、自分達は勉強のための立ち会いだけなんだけど、緊張はするし一切喋る気はしない、喋りたくない。


「どうも、会議にご参加いただき有難うございます、パンゲアの代表リヒトです」

 スーツ姿の短髪に黒髪の身なりをキチンと整えた男性が、ホログラムに映る。


「この度はご苦労さまでした、つきましては今後の方針を決めたいと思います」

 他の会議に参加しているPMCは誰も話さず、ただパンゲアの話に耳を傾ける。

「今回、我がPMCは大きな痛手を負いました、正直看過できない状況です」

 実際、大型艦一隻の損失はあのデカブツを倒したぐらいの報奨金じゃ賄えない。


「そこで、皆さんに匿名でアンケートを取らせていただきたい、撤退か迎撃か」

 ホログラムにタッチ式のボタンが二つ現れる。

「どう思う?」

「使用ツール的に本当に匿名だな」

「じゃあ迎撃に入れるね」


 イチゴさんがマイクに音声が入らないように注意しながらクガさんと相談して、迎撃に一票入れる。


 暫くしてアンケートの結果が出る。

 迎撃35%:撤退65%

 圧倒的に撤退の支持派の方が多い。


「有難うございます、予想通りでしょう、実際は既に撤退してこの会議に参加していない者達も居ますので、更に多いと思われます」

 パンゲアの代表は淡々と語る。


「パンゲアの意思としては損切りの為の撤退論と、弔い合戦を兼ねた迎撃と分かれています、しかし大型兵器を積んでいた艦をロストしたため、決定打に欠けています」

 そりゃ、普通レールガンみたいな兵器なんて滅多に所持していない、対Arche同士の戦闘では過剰火力だし効率も悪い。


「もう一つお聞きしたい、今回レールガンを発射したのはオモイカネですが……他にレールガンを所持している会社……または組織はいますか?」


 誰も名乗りあげない、つまりこの戦場にアレを打破できるPMCは自社だけのようだった。


「了解しました、つきましては一度パンゲアとオモイカネで協議したいのですがよろしいですか?」

 このパンゲアの提案に異論が出なかったので、別の通信チャンネルが開かれることになる。


「…状況は悪くないな」

「こっからが本番だね」


 二人が気合を入れ直すのがわかった。

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