山羊座戦線異常なし。

 翌朝、予定通りの時間に発進し予定通り航行を開始した、光が線上に見える宇宙空間でしかなし得ない超加速、さすがに亜空間航行・超空間跳躍とも呼ぶテレポーションはまだしも、超光速技術すら産み出されては居ない。

 弾丸よりも速い速度で進むこの船も、光のもつ時速約10億8000万kmには遠く及ばない。


 航行中は特にやることがなく暇であり、掃除だったり修理したArcheの調整をする以外は、談話室で過ごしたり、映画やパソコンを弄って過ごした、怪我はすっかりと治り、コルセットも外せて、軽く運動しても違和感はなかった。


 そして1/15

「総員、対Gスーツ着用の上集合」

 イチゴさんの艦内案内でブリッジに全員集合し、それぞれ席に着いてベルトを締める、モニターには100近い大船団と大量の味方識別信号、宇宙マップでその船団の向こうに山羊座コロニーと、無数の赤い敵識別信号がある。


「私達は後方位置に着くよ、大手PMCさんには盾になってもらお~」

「状況は?」

 ヤタさんの質問簡潔で、要点だけを聞きたがる。


「異常なし、だってさ~、特に獅子座の情報も掴んでないっぽいよ?」

「膠着状態か…ただ動いてくるなら今日だろ?」


 山羊座から水瓶座に最接近コロニーが変わるのは1/20、この2つのコロニーは仲が悪いのであまり協力したがらず、元々防衛意識の高い山羊座は手を出したがらない、水瓶座の方が少し早めに攻めてくるかどうかわからないが、それでもあまり自分のコロニーから戦力を離したがらないのであっても1/19ぐらいからだ。


「今日か明日からの、3から4日間かな~? 新兵器の実践テストならそれぐらいが妥当じゃないかな~」

「ほな、ウチらはどうするんです?」

「待機だな、大手PMCさんも何しに来た? って雰囲気だしてるし甘えてやろう」

 苦笑いしながら、腕を組んで前線を見守る。


「あ、ここ小競り合いが始まった」

 モニターで位置を確認し、その方向を全面ガラスで目視してみる、確かに兵器の放つ光がチラホラ点滅している。

「牽制か?」

「ううん、違うみたい、ほらコッチに大型反応」


 レーダーに、大型の物体を表す反応がその戦線に超高速で飛んできている、最初は敵の戦艦かと思ったけど、敵の識別反応の赤色も、味方識別信号の緑色も示さない白い光、何が飛んできているかわからない、もしかして小惑星?


「大きさ100m、減速開始…?」

 イチゴさんがデータを分析している

「えっ…これ、あれだ」

「「あれ?」」

 気になって声を出したのは、アイと俺の二人だ。

「…例の


 どうゆうこと?

 獅子座のコンテナがコロニーではなく、直接戦線に飛んできているの?

「座標指定ミスったとか?」

「赤外線誘導ついてるんだよ? ないない」

 ってことはに戦線に飛んできている。


「あ~、これしかも軌道上ってPMCの大戦艦じゃん、逃げて~」

 レーダーを見てみると、確かにコンテナの直線上には約340mの大型艦のアイコンがあり、気づいたのか少しずつ旋回しようとしている。


「これ…だめだ、大型じゃ加速が間に合わないかな~、気付くのが遅すぎたかな」

「注意をそらすための小競り合いだったな」

 なるほど、と感心してる間に、レーダー上で衝突する、ついで目視でも爆発しているのがわかる、遅れて爆音が聞こえてき…えっ!? 爆音!?


「爆音!?」

「それね、映像認識ソフト使って、サウンドエフェクトファイルから合いそうな音を自動で再生してくれるツールを入れてるの~」

「なるほど…」


「Archeにも入れとく? 結構便利だってさ」

「お願いします」

「ウチにもお願い」

「OK、今のうちにダウンロードさせとくよ」

 クガさんが目の前のキーボードをカタカタと操作し始める。


 爆発が激しく、まだ煙と残骸の中で何があるか見えない。

「来るかな、50機」

「………50もすし詰めしながら、コンテナで十数日輸送って、苦痛ってレベルじゃないだろ」

「だよね…オートマトン?」

 イチゴさんとクガさんが状況を予想している、二人とも兵器だとは思ってるみたいだ。


「コンテナ型の自動兵器やったりして」

「いい発想してるなアイ、確かに識別なくても違和感ないし面白い」

「えへへー」

 爆風の破片は戦艦のRKS対弾シールドで防げるので、いくつかの破片がシールドと反応する音を聞きながら状況を見守る、今は両陣営とも静かだ。


 ビーーーーッ!


 突如として適性反応がコンテナのあった場所から発信され、警報がなる。

「警報!?」

「近くに敵性反応が急に出た時になるんだよ、スノウ!」

 答えてくれるけどいつもより早口だ。


「パイロットども、ベルトは外してるか?」

「ああ」

「はいっ!」

「あっ」

 静かに答えたのがヤタ、元気よく肯定したのがアイ、そして今からやるのが俺。


 目視では一斉に各戦艦やその周りからの集中砲火が、その反応に向かって放たれている。


「100m級…随分とデカブツが入ってたな、中型間…違うな」

「こりゃあ…中型どころかだね~」

 同時に大量の小型反応、ドローンだ。

「これのテストかな~、敵さんも思い切ったね」

「お前が言うかよ…」

 二人はドローンには一切目もくれない。


「映像解析完了、モニターに出すよ」

 イチゴさんがモニターのレーダーを端っこの方に移動させ、大きく一体のArcheを表示させる。

「Arche…やんね?」

「どうやらそうらしい」


 見た目はフルアーマータイプの重装甲、重兵装タイプのArcheでかなり装甲と武装に特化させているタイプに見える、機動力は低そうだ、関節まで装甲で埋め尽くされて…というか関節は機械関節になっている…どこに人間が入っているんだ?


「えーっと、オートマタ?」

 最初、自立型機械人形かと思った。

「いや、どうやら有人らしい、共通の通信チャンネルの電波で高らかに名乗りをあげてるよ」

 有人…?


 じゃあどうやって人が乗ってるのだろうと思って、モニターおデータを見て愕然とした、表記が101mってある、嘘でしょ?

「コンテナより、でかくないですかね」

「屈んで入ってたりしたんだろうなぁ…」

 あーそっか、そりゃ人型だから簡単にできるなぁ。


「で、どうする?」

「まだ遠いけど、ドローンは飛んでくるよ、戦闘準備に」

「「「了解」」」

 イチゴさんが合図すると、三人でブリッジを離れる、ベルトを外すのが間に合ってよかった。


「スノウ、あれどう思う?」

「どうって…異常だよ」

「やんなー…どう破壊すんねん、あれ、戦艦用のRKSシールド付いてたで」

「ほら、アイは落としたことあるんでしょ?」

「あの時も中型艦やったけど…結構たまたまやったし」


 いつもはノリと勢いがいいアイも、流石に自信が無さそうに伏せ目をしながらヘルメット被る。

「たまたま出来たなら、今度は狙ってやるだけだ」

 ヤタさんがいち早くArcheを装着し、カタパルトに出る、ここでヤタさんのArcheも黒色なのに気付く、関節は金色だけど色が被ってる、今度変えよう。


「…せやな、そのとおりや」

 次にアイが、カタパルトは二つなので出撃を待つ。

「アイ、出るで」

「ヤタ、出撃する」

 二人共発進して今度は自分がカタパルトにでる、カタパルトの角度は45度だ。


「スノウ、出ます」

 全力でブーストをかけ、旋回するように発進して前の二人に追いつく。

 ヤタさんは狙撃ができる射撃手なので、既に徐々にスピードを落としながら進んでいたので、追い抜かし少し遅めの巡航速度で進んでいたアイの後ろにつける。


「来たね、んじゃ加速するで」

「オーケー!」

 合流を確認してから二人で加速して進む、特に打ち合わせをしてなかったけれど、なんとなく息が合う気はしていた、後は実践だ。


「スノウ、初めての実戦だから無理はするな、二人共フォローを頼むぞ」

「はいな!」

「あぁ」


 クガさんの通信と誘導を受けながら前線に向かう、そう言えばクガさんメカニックをしながらオペレーターもやってるんだな。

 陣形は5m先にアイ、500m後方をヤタさんが維持している。

 500mは遠い気がするけど、宇宙空間ならこんなものかもしれない、実際Archeで500mはほんの数秒しかかからないし。

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