少女アイ。(1)

「あなた正気でいらっしゃる?」

「失礼な、てか自分の所属してる組織に応募して正気を疑うってどういうこっちゃ」

「ほら、散々狂ってるみたいな事言ってたし」

「でも嫌いって一言も言うてへんもーん」


 確かにそうだ、むしろ好きそうな空気すら感じてたよちくせう。


「まあ、ほら、もう応募したし履歴書も送ってもうたし」

「…うわぁ」

「うわぁってなんやねん、うわぁって」


 過ぎたことはしょうがない、まだ採用されるかもわからないのだから。


 Prrrrrrr、Prrrrrrr。


 スマホの着メロがなる、相手は自分の組織の汎用ダイヤルからだ。


「もしもし、スノウです」

「よう、どうだ調子は?」

「食事が終わったところです」


「そうか、やること無いならちょっと来てみるか? 面白い人材から今募集が入ったんで面接をしようかと思ってるんだ、なんせいつ面接ができるかと聞いたら1時間以内に来れるらしいんだよ」

「あー、なるほど凄くフットワークの軽いお方なんでしょうね」


 目の前にいるし、そのフットワークの軽さを今見せつけられたところだ。


「うん、戦歴も名前も聞いたことはあるし面白いと思ってた相手でな、一回会いたいと思ってたし、スノウ、お前にもいい刺激になる」

「へー、それは興味深いですねー」


 実際いい刺激にはなりました。


「てことで来る?」

「…行きます」


 こうなったらもう、とことんまで見ていこう、実際仲間になったら楽しいだろうし、本当に採用されるかまだ決まったわけではないし大丈夫……いや大丈夫なのか?


「どこで集合でしますか?」

「うちの艦で直接、談話室でやるよ、タクシー代で来い、降り場に迎えに行く」

「了解です」

「じゃ、また後で」


 電話が切れ、アイの方を振り向くとすっごく笑顔でコッチを見てる。


「嬉しそうですね」

「そりゃあ面接決まったのもあるし、タクシー代浮くってわかったし」

「一緒に乗ってく気ですか!?」

「その方が安くつくし合理的やし、わざわざ別にする必要ある?」

「………なるほど」


 納得してしまったけど、そもそもそこの社員と一緒に面接される人間が一緒に出社するってどういう状況だよ、普通に就活マナー的にダメなんじゃないか?


「ほら、気にしたら負けやって」

「わかったよ」


 就職しようとする本人が気にしてないなら言うことはないか。


 近くの黄色いタクシーに乗り込み、行き先を告げる、運転手も慣れっこのようで静かの海基地と、停泊してるエリアを伝えるだけでどの降り場が一番近いかスグに理解してくれる。


「いやー、なんかほんと今日はラッキーかも知れへんね」

「そう?」

「うん、せやで」


 ウキウキで向かう間、カ普段着を一応整えている、普段着な時点で多分手遅れだと思うんだけどどうだろうか?


「ま、気にしててもしゃあないか」

 あ、開き直った。


 ちなみに、月面や宇宙空間ではロングスカートは見ることは有ってもミニスカートを見ることは殆どない、なぜなら跳ねるように移動することが多いので、ミニだとどう中で支えても常時パンチラ状態になりやすい、なんなら軽いジャンプだけでも重力は地球の1/6だから、3mのようなジャンプはしなくても、1mぐらいは飛び上がることもよくあるので丸見えになる、通称スーパーパンツタイム。


 一方でロングスカートになれば、多少膝の高さでガーターベルトの如く固定されていたり、こしからワイヤーを貼ることで、大ジャンプでもしないかぎり見えることはないし捲れない、この場合座るたびにワイヤーを調整しなきゃいけないけれど。

 ちなみにアイは普通にズボンっぽいやつだ。


 タクシー降り場には思ったより早く着きそうで、15分しかかからなかった、病院に行った時は30分ぐらいかけた気がするのに、それよりも離れたフードトラックエリアからもっと早く付いたってことは、病院に行く体感時間がかなり憂鬱だったんだなぁ、俺。


 到着する前に、思ったより早くなったのでギリギリだったけどクガさんにメールを入れておいた、正直直前にしたのはさすがに上司にいきなり合うのも可愛そうと思ったので、アイを逃がす為なのもあったんだけど。


「早いですね、クガさん」

「あぁ、暇だから連絡してからずっと降り場で待ってた」


 そう言いながら、降り場近くにあるベンチを指差す。


「いや、ぶっちゃけビックリしたのは俺の方なんだけど」

「自分もそう思います」


 目線の先には、ちょっと気まずそうに苦笑いしながら出てくるアイだ。


「まさかお前が女をひっかけてしかも同社に引き抜いてくるとは、すげぇナンパだなおい」

 怒ってるより、これは一周回って本気で感心してるような素振りだと思う。


「どうもー、お疲れ様ですー、えーっと、すいません着替えてきていいですか?」

 アイは切り替えが早いようで、既に姿勢を正してお伺いを立ててる。

「あ、いやそのまんまでいいよ、ぶっちゃけそういうの気にしないから」

「了解です」


 多少イントネーションの訛りは感じるけれど、さすがのアイも就職の時は標準語を使うんだと感心する、もっとそういう気遣いはタクシーに乗る前に使って。

 そのまま三人で母艦に向かう、道中会話は一切なかった。


「は~い、おっかえり~~~~!?」

 うん、さすがのイチゴさんもこの光景には理解が追いついてないようだ。


「あ~はいはいそういう事ね、理解できない、たまたま?」

「いや、スノウが一緒のタクシー乗ってきた、ナンパだ」

「なるほど~、スノウも立派になったね」

「待ってください、誤解です」


 本当に誤解なんです、嘘のようですけど信じてください。


「偶然相席になりまして、話してる時に募集したら偶然就活先のお人でして」

「いやー、すごい偶然でしたねー」


 よし、アイさんに口裏を合わせよう。

「へー、フードトラックで?」

「あ、やっぱりフードトラックだったんだ」

 しまった、罠だ、アイさんがすっごい目で見てくる!


「あのへんで食べるとこって言ったらフードトラックが一番近い好きそうだし」

「あ、あはははは」

 二日目にして食の趣向が見抜かれてる。

「多分それやで」

 アイが指差してる方向をみる、袋の中にはフードトラックのバラエティ宇宙食のお待ち帰り保存食が大量に入っているビニール袋があった、しまった、そりゃバレる。


「まあいい、気にしないし、クルー同士仲がいいのは結構だし恋愛も認める、破局しないでくれよ?」

「大丈夫です、付き合ってないですし、脈もまだないです」

 キッパリ言われるとそれはそれでズキっとくるな。


「うんわかった、とりあえず談話室に行こ」

 イチゴさんは理解が追いついてないなりに結論を出す、ぼくも賛成です。

「だな、着いてきてください」

 クガさんもようやく面接用に口調を切り替え始めた、あれで混乱してたのかな。


 談話室は対面形式で座ることになる、ソファーを挟んで2:2だ、おかしい、本来の予定だったら多分俺も面接側に小さいソファーをくっつけて座ってたはずだ、なんで俺はにいるんだろう。


「えーっと、当社に応募した理由は?」

「はい、応募をネットで見たのと、前評判や戦績を知っていたので、ここならば私の能力を活かせると思ったからです」


 うわ真面目だ、あの導入でよく切り替えられるな。


「で、だ、このランカーに入ってるアイ本人で間違いないな? 鉄砲玉の」

「鉄砲玉は不服ではありますが間違い有りません」

そこは拘るんだ。


「身分証は、証明できるか?」

「はい、こっちが身分証とパスポートで、スコアはスマホのマイアカウントをご覧いただければ」

さすが何度も就活をしてるだけあって慣れた手付きで身分証二種類と、スマホの画面をみせる、それをクガさんとイチゴさんで二人で確認して、互い頷きあっている。


「じゃ、採用で」

「はや!?」


思わず叫んでしまう。


「あぁ、ぶっちゃけ応募が来た時点で決めてたから」

「えっ」

「戦績とか戦法とか知ってたからな、別に問題ないって判断した、あとアイさん敬語じゃなくて大丈夫です」

「あ、わかりました」

「なんなら思いっきり砕けた関西弁でいいですよ」

「はい」


当のアイさんもあっさり過ぎてポカンとしてる様子だ。


「荷物があると思うから、個室割り当てるね」

「個室ッ!」

勢いよくアイさんが立ち上がる、よっぽど嬉しいのだろう。


「まだ一部屋空いてたからね、四番は欠番にしてあるから7号室」

「ありがとうございます!」

「出発は明後日ぐらいになると思うけど間に合う?」

「余裕です!」

「うん、さっすが傭兵慣れしてるね~、じゃ、今日は解散で、場所だけ教えるから着いてきね」

「ハイッ!」

ハイテンションでアイがイチゴさんに着いていって二人で取り残される。


「ふー………、珈琲でも飲むか?」

大きなため息を付き、クガさんが聞いてくる。


「………いただきます」

「エスプレッソにしとくか?」

「お願いします、ブラックで」

「あいよ」


思いっきり濃いのを、ブラックで飲みたい気分だった。

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