静かの海。(2)
観念して、腰を痛めた経緯を話すことにした、つまりはあの大失敗をこの関西弁女子に話すことであって、笑いの種の大提供にほかならない、それは凄い屈辱であり、後で笑い話になるさと言われたクガさんの言葉を、たった2時間足らずで回収することになるとは思わなかった。
「っく…っ…アーアッハッハハハハハハハハハハハ!」
案の定、目の前の少女は大爆笑してる、膝をバンバン叩いてきてる、痛いって、叩くな、その笑いの種の腰に響くから!
「あー、ごめんごめん、つい…つ……っ! アハハハハ」
ぶり返しの爆笑の第二はが来てる、今度は自分のお腹を抱えてる、叩かれなかっただけいい、うん、いや良くなかった。
「その、笑いすぎだって」
「いやー、ほんとゴメンって……あー、ふー、ふー、ふー…」
二回目の謝罪の後、深呼吸して息を整えようとしてる、笑いすぎて涙目になってるし、そんなにだったか? まったく。
「あー、まったくところでなんやどさー、どこ所属なん?」
「オモイカネ所属、ワダツミのクルーだよ」
「あー、あっこかー」
その口ぶりからすると、どうやら知ってるらしい。
「知ってるんだ」
「噂だけはね、『異常者集団』とか『狂人集合体』やとか」
「酷い言われようだ…」
散々な言われように思わず苦笑いする。
「少数精鋭ってことの嫉妬なのもあるんやけど、兵士が一人しかおらんのに、で傭兵団のスコアボードの上位にしれっといるし、なによりちょっと前の戦い方がぶっ飛んでたんやけど」
そう言いながらもその表情は、侮蔑というよりも、憧れとか、面白いものをみたような高揚感を感じさせる。
「なにかしでかしたんですか?」
「しでかすも何もな、工作用の自立兵器が不意打ちでバーって飛んできたんよ、で、完全に裏をかかれてたし、これ通すとかなりヤバイー! って状況になったんやけど、戦艦ごとツッコんで破壊したんよ」
なにかおかしい事を聞いた気がする。
「ちなみにその自力兵器に護衛は?」
「そりゃあくっついてたで、Arche部隊が直接捕まってた」
「…それを単騎で?」
「報告によるとなんやけどさ、手持ちのArcheがいる前線にな、後衛やからまだ近づきやすかったんはわかるんやけど、ツッコんで回収するやん?」
「はい」
「そのまま最大出力で戦艦で自力兵器に向かうやん?」
「まあ、想像できます」
ここまではわからくもない、問題は戦力的にどうなんだって話だけど、後衛一人しかいないんだけど。
「んで小型艦やから最高速までの加速ってめっちゃ早いし旋回もしやすいやん?」
「…確かに」
「自力兵器に直進してな、直前でドリフトしおって、戦艦の背面をバーニア点火した状態でぶつけて、自力兵器とArcheの半分をこんがり焼いてから上で待機してたArcheが戦艦の上から乱射した」
「うわぁ……」
ドン引きだ、戦艦をアクション映画のスポーツカーかなんかと勘違いしてるの?
「そんで、生き残りが混乱しててな、反撃してこないスキを見て爆弾仕掛けて離脱、そんでボカーンってやっちゃったらしいんやって」
開いた口が塞がらない、というか前回の戦闘ってことは遠隔で面接を受けて採用されるちょっと前じゃないか、なにやってんだあの人達。
「あんた、知らんと入ったん…?」
「はい、少数精鋭ってだけ聞いて…」
「そっかそっか、そりゃあなんや、ご愁傷様やね」
「い、いやソレはそれで良いじゃないですか、なんというか…刺激的だし」
「そういうのはもうちょっと自信持って言いなや、まー気持ちはわかるんやけども」
この少女は多分、そういうめちゃくちゃな戦法とか、派手な戦いが好きなんだろう、話してる声がイキイキしてて楽しそうだ。
「アイさんはどうなんですか?」
「ウチもArche使って戦ってるよ」
「なら、アイさんはどこの所属?」
「あー、うち? うちは無所属」
「え?」
無所属? どういうことだろうか?
「どっこも所属してないんよ」
「それ、どうやって活動してるのさ…」
「傭兵の傭兵で、派遣社員みたいなもんやってるんよ、鉄砲玉みたいに扱われるか雑用か極端なんやけど、当たりも結構多いんやで?」
「当たりって?」
「鉄砲玉、めっちゃリスキーやけどスコアは稼げるねん」
「それって良いんですか?」
「名前売るには一番やろ?」
なるほど、確かに個人スコアが良ければ就職に有利だろう。
「なるほど、なら今は就活中か」
「あー、せやねんけどなー、なっかなかイイとこ見つからんねん」
「スコアが良くても?」
「まー、最初はうちの量産型使って見習いしてくれーとか、大手はエース埋まってるし、足並み揃え無さそうなのは厳しいとか、そもそも面接がウチが気に入らへんかったり」
「あー、苦労してそう」
「やっぱ、それやったら個人が良いんやな、って思っても今度はスコア高いからウチでは賄いきれないだとかサポートしきれへんって言われる甲斐性なしばっかで」
「甲斐性なしって」
「その辺、スノウはええとこ見つけたと思うで? 最初からオーダーメイドであんなミス…ミス…」
思い出して笑いそうになり、頬が膨らんでるのを口で抑え始める、いっそ笑えよ。
「はー、いやいやゴメンな? 悪気は無かったんやって、ほんまに」
「いや、良いですよ」
「ふー、堪忍なーって、そんでまあ結構面倒見もいいし、正直それでその程度の怪我で済んでるってかなり技術力も高いんやと思うわ」
「………確かに」
吸着が強すぎると今度はもっと大変な事になってた可能性がある、反発が強すぎたりタイミングをミスれば命綱は間違いなく切れている、あの短い時間でとっさに起動したのも尋常じゃない反射能力だと思う。
「無茶を通したって実績も、偶然だけやないってウチは思うんよ」
急に落ち着いた口調で、空を見上げながら語り始める。
「無茶を無謀にやってできたなら、それは運もあるかも知れないけど、そもそもやってのける度胸と技術があったから」
無茶をするには勇気がいる、しかも命がかかってるから尚更。
「逆に一見無茶に見えるものを計算し尽くしてやってみせたんなら、それは無茶って言わへんと思う、無茶って言ってるのは他人の勝手になる」
「実際どっちかなんて、部外者にはわからへんねんけどな」
最後にコッチを見てニカッと笑う、こうしてれば可愛いのにな、と思う。
「アイさんはどっちのタイプ?」
「ウチは前者かなー、理想は後者なんやけど、最初にがーってツッコんで、後は流れに任せて死なへんかったらいいやーって」
「勢い任せなのか」
「一応、どう動いたらいいかとか、どこまで出たら危ないかとかギリギリのラインはずーーーっと考えながら戦ってるんやけどね、多分一歩間違えてたら死んでたなーって時もあったし」
自分より年下に見えるのに、既に歴戦の戦士に見えてくる、実際キャリアはどのくらいなのだろうか? 名前が売れると言ってたし個人スコアランキングを漁ったらわかるのかな?
「結構修羅場くぐって来たんだ」
「せやねー、『鉄砲玉』とか、『ワン・ウェイ・チケット』やったり今の所いい感じの二つ名は付けられてへんけど…っていうか、そもそもこーんな
正直聞いてる話を聞くと、妥当な気がするけど本人はかなり不満らしい。
「あー! その目は『いや、妥当やろ』って思ってる顔や!」
「そ、ソンナコトナイヨ」
「バレバレかっ!!」
うん、どう答えてもバレバレになると思った。
「はぁ…もうちょーっと、マシな二つ名にならへんかなー、風評被害やってー」
風評被害と言う言葉の意味を調べてきたらどうだろうか。
「わりとこの二つ名のせいで就職断られてるとこもあるしなー」
思ったより風評被害を受けてるかも知れないと一瞬思ったけど、この場合自業自得の方が正解なんじゃなかろうか。
「あー、お金はまだ稼いだから余裕あるけど、もう派遣傭兵も嫌やし…どっか就職ないんやろか…」
そう言ってスマホを触って求人情報を漁っているようだ、わかりきってる問題児を抱えたがる傭兵団も少なそうだし、この先も苦労しそうだな、と少し同情するよ。
「あっ」
小さく、アイが声をあげる。
「良い求人でもありました?」
「おもろいとこなら有ったで」
そう言うとスマホの画面を見せてくる。
その画面には、こう表示されていた
求人募集(臨時)。
店員1名、求人期限月面にて2日、場所、静かの海に来れること。
給料・固定給+歩合制、入社祝い金有。
条件・戦闘可能型Archeの個人所有者、経験不問、覚悟のある方。
内容・傭兵として各地戦闘に参加するクルーを募集しています。
業種・PMC
民間傭兵法人、オモイカネ。
…おれのところやん。
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