試験運転。(1)
急に目の前で裸になったので、クガさんはおいおいと目線をそらした、思い切りが良すぎたかなと思ったけど気にしないことにする、宇宙服自体はかなりピッチリとしたものだ、タイツのようなラバー素材だけど、素材は二重構造になっていて液体が中に入っているのがわかる、これ思ったより高級品じゃないかな?
ファスナーを上げてチャックを締め、手首にあるボタンを押すとプシューっという音とともに空気が抜けてピッチリとフィットする、少し下半身が気になるけれど、それがフィットした証だ。
「これもな」
ヘルメットも渡される、丸形で当然だけどフルフェイスだ、コレもつけると服との間が自動で密着して隙間が埋められる。
「……………」
あれ? なにかクガさんが言ってるけど何も聞こえないや。
クガさんが耳をトントンとするジェスチャーをしてるが聞き取れない、暫くして諦めた表情のクガさんは俺のヘルメットのサイドを触る。
「あーあー、聞こえるな?」
「あ、はい」
「そのヘルメットは耳の部分に通信機のオンオフボタンがあるから、着用したら真っ先につけるようにな」
「わかりました」
「宇宙空間でナビがなきゃ最悪死ぬからな、遭難して」
「うへぇ」
「そうなりたくなきゃ、通信はよく聞くこと」
「はい」
「そのヘルメットはお前専用のものだから出撃時は自分で取ってくれ、訓練終了後にはヘルメットの予備とスーツの予備も渡す、使い終わったパイロットスーツはスグにそこのシュートに放り込め、洗ってないのを使おうとするなよ、ここが臭くなる」
かなりピッチリとしたスーツだから、使用後はかなり蒸れるのは想像に難くない、放置していればまるで剣道着の防具のように匂いが出るだろう。
「んじゃ、お前のオーダメイド品だな…こりゃまた奮発したもんだ」
自分が選んだものはハイエンド品だ、カスタム性が高く武装の装備範囲も広く、一つ一つ、丁寧にパーツを見定めて、ドックに設置していく。
「その代わり、武装とカスタマイズは最低限か、まあ後から増やせばいいしな」
「ふむ…カスタマイズが姿勢制御装置だけなのは、割と好印象だぞ」
「そうですか?」
「あぁ、初心者は高出力武装だったり、ブースターを増設しがちだけど、リソースが足りなくてスグガス欠したり、ブースターに振り回されてまともに動けなくなってな、スグカスタマイズを外す羽目になる」
「そうなるんだろうって思って、先に安定装置からつけました」
「それがいい、ハイエンド品だから元々の出力も十分あるが、運転が難しい、それを補える選択をしたのは流石だよ」
「ありがとうございます」
各種パーツをドックにある装着装置に設置完了し、クガさんが電子データで各部位に不具合がないかチェックをしていく。
「OK、ちなみに名前は?」
「まだ決めてません」
「じゃあ型番のままで一旦呼称するな」
「はい」
「5番ドック、
【
機械音声が復唱し、油圧バルブがプシューという音をならす。
「立ち位置はそこの台座の上、真ん中に居れば自動スキャンしてくれる」
「はい」
壁際に6つ並んで設置されている円形の台座に、丁寧に足跡マークがついている、それに足を重ねれば緑色の光が自分に照らされていくのがわかる。
「オーダーメイド品はサイズ調整しなくていいから助かるな、試着は?」
「地上で一回、支えありでサイズ合わせ程度だけです」
「ま、そりゃそうか」
二の腕のパーツ一つとっても片腕40kgある、到底地上で全身着けれるような重さじゃないし、なんなら月面上でさえかなり動きが制限されるような代物だ、暫くしてスキャンが終わったらしく、装置は沈黙した。
「…あ、
装置が沈黙して、二人で数秒黙った後、クガさんが苦笑いしつつで指示を出す、 微妙な空気が二人の間を流れるけど、気にしてもしょうがない。
「あ、わかりました…
音声認識と共に、ロボットアームが自動で各部Archeのパーツを装着させていく。
最初は胸部、そしてヘルメットをノズルで繋げて呼吸ラインを確保する。
次に背面のブースターと酸素装置
そこから肩から両腕にかけてのパーツと股間から足先までの装甲
最後に少し浮かされて足裏のパーツをはめ込められると武器が取りやすい位置に運ばれてくる。
「今回の武器はただのレーザー照射装置だ、光るだけのな」
「わかりました」
「この周辺は宇宙船の密集地帯だから、カタパルトでの発進も試射も禁止だからな、ちなみになんかあったら最悪逮捕か漂流だから気をつけるように」
「は、はい」
「ま、大丈夫大丈夫命綱は着けて出てもらうし、銃はそももそ玩具だ」
確かにこの銃はかなり軽い、なんなら試しに引き金を引いてみたらヒーローものの音声まで流れてるのが微かにクガさんのマイクから聞こえてくる。
「で、動作は?」
「試してみます」
「狭いから軽い柔軟程度の動きでいい」
関節の動きや腰回り、屈伸をしてみる、変な摩擦や運動の阻害は感じられない。
「大丈夫みたいです」
「よし、じゃあ実際に船外に出て貰う」
クガさんがロボットアームを操作して、腰に太めの紐を装着する。
「命綱だ、バンジージャンプとかでも使われる素材を改良したもので、柔軟性があるし頑丈な上に限界距離まで行っても多少融通がきく」
「なるほど」
少し触ってみたけど、アーマー越しなので触感は感じられなかった。
「もしも~し、通信入ってるかな~? そろそろかな~?」
ここでイチゴさんから軽快な声で通信が入ってくる
「あぁ、通信もタイミングもバッチシだよ」
「こちらスノウ、聞こえます」
「りょうか~い、いや~ず~っとモニタリングしてたけど、問題無さそうでなによりなにより」
「着るだけだからな」
どうやらモニタリングしていて、声をかけるタイミングを伺っていたらしい。
………ん?
ずっとモニタリングしていた?
「あの…いつからモニタリングってしてました?」
「談話室出たとこぐらいからかな?」
最初からじゃないか、ということはココでのやり取りは全部見られていた事になる、つまり最初の着替えもだ。
「いや~、良い脱ぎっぷりだったね、うん」
「…やっぱり見られてたんですね」
「も~ね、モニタリングやめるわけにもいかないしガン見だよ」
コレには流石に羞恥心がわく、男性同士なのでプールや風呂での感覚と変わらないだろうと普通に脱いだのだが、まさか女性に監視されてる状況だと思わなかった。
「いやな、だから個室に行ったほうがって言ったんだけど、説明する前にもう脱いでたからな、もういいかって」
「なるほど………」
だから、あの時微妙そうな表情で目をそらしたのか、というか目をそらしたんじゃなくて監視カメラを見ていたのか…。
「カメラ、あそこなんですね」
先程脱いでいた時にクガさんが見ていた方向、そこによく見るとコンビネーション型と言われる、多機能監視カメラが設置されている、もう少し注意深く観察してみたら、他にも360度型とコンビネーション型が死角が出来ないように設置されていた。
「そうそう、個室には一応プライベート空間ってことで設置はしてないから安心してね」
「……はい」
「ま、気にするなアイツは多分男のモンなんて見ても対して気にしない」
「いやソレ私を何だと思ってるの」
「ははは、冗談だ」
和ませようとしてくれてるのはわかるけど、一切効果的じゃないですクガさん。
「コホン、まあスノウくんのを見ても気にしないのは確かなので、次に行くよ」
そこは冗談じゃなかったのか。
「船外に出る時は緊急時以外は、基本的に私の許可が必要です」
「はい」
「発進許可をパイロットが出してそれを私が受領、周囲の障害物を確認し、安全を判断して、カタパルトの方向を調整しながら許可を出します。」
「わかりました」
「じゃあ、発進許可から練習ね」
「了解です、こちらスノウ、発進許可願います」
「こちらアドミン、発進許可受諾、カタパルトの使用禁止、船外活動を許可します」
ここで自分の立ってる台座の下から、薄い透明のガラスが一瞬でせり上がってきて、自分の周囲を閉塞する。
「空気抽出開始、ここで真空化して終わったら、真上のハッチがあくよ」
真空化してる時に足首から下がロックされる、それから空気の抽出量がガラスに表示され、100%から0%へと表示が下がっていく。
酸素が0%になればそのまま台座がせり上がって戦艦上部、宇宙空間に出ることになる、足元の台座はカタパルトに直結しており、このまま発進できる仕組みだ。
後部のブースターは火を吐き出していない、動いてないので振動もない。
周りの星々と月の人工物、そして周りにある大量のシップが織りなす様々な光。
どこか幻想的にも感じられる光の煌めきと、完全なる無音。
これが初めて味わう、宇宙空間だった。
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