最初の日。(2)
仮眠室から起きて、歯を磨き寝癖を治す、時間を見れば10時間も寝てしまっていた、思ったより移動疲れしてたみたいだ、これからも移動が続くんだけど。
宇宙の生活は殆どが移動だと聞いている、広大な宇宙空間、火星までの距離しか無いと言え、一つ一つの戦場の距離は地球一周よりも遥かに遠い、一応長期睡眠装置もあるらしいけど、誰かしらは不測の事態に備えて起きてないといけないし、少人数ならそれを負担する割合も多くなる。
まだ新入りだから一人で起きてろって事にはならないけど、むしろそのうち一人でも大丈夫になるように暫くは教育されるだろうし。
仮眠室から出てテラスに入ると二人がテーブルゲームをしていた、ボードには磁石が仕込んであるので無重力でも問題なくプレイできる物だ。
「おはようございます」
「おはよ」
「おっはよ~」
クガさんがかなり悩んでる様子で、劣勢なのがわかる。
「ダメだな、手は読めてるけど対処法がないわ」
「は~い、じゃあ私の勝ちね!」
「結局負け越しか」
「ざんねんでした~!」
ため息をつきつつ、クガさんは荷物をしまい込む。
「忘れ物はないな?」
「スマホしか持ってきてないよ」
「自分も荷物は全部コンテナ預かりです」
「…じゃあ大丈夫か」
どうやら手荷物があったのはクガさんだけらしく、自分とイチゴさんは殆ど手ぶらの状態だった。
「一応着いたら俺がコンテナを搬入して、それから出発でいいな?」
「うん、その予定、その間に艦内案内はパパっと終わらしとくから、広くないし」
「了解」
間もなくしてアナウンスと一緒にゲートが開き、エレベーターが到着した事を告げる、所々にある移動用のポールを伝い静止衛星の中を移動していく、静止衛星内の通路は綺麗だけど、ポスターも人もまばらにしかいないし、テナントも殆どが閉まっている。
一旦エレベーターから降り、観光用の外周通路を進んで上階への入り口に進む、無重力であることが前提の作りなので、階段はなく円形の扉があり、真ん中に伝っていく用のポールが一本通っている。
「静かですね」
「ま、戦時中でここが賑やかって事はかなりピンチって事になるからな」
「どういう事ですか?」
「ここまで攻め込まれちゃってたらヤバイでしょ~? 正規軍が一番力入れてるのも地球周辺なんだし」
「なるほど」
「地球周辺、大体月までの距離が第一次防衛ラインで、その中間地点が第二次防衛ライン、大体ここの戦力だけで正規軍の戦力は大半を使っちまってるんだってさ」
「お偉方は地球に住む人の安全が第一だからね~、身の安全も含まれるし」
「つっても軌道エレベーターが破壊されたら地球が潰れされて負けるのも間違ってないけどな」
注意深く見てみると、まばらにいる人の殆どが軍人で観光客や民間人らしき人が少なく、閑散としていうるのがわかる。
「ま、動きやすいから私としては良いんだけどね~」
「観光とかテナントとか多いのは月の方だな、あそこは拠点になってるし人も多い」
円形ホールをくぐると、そこはドックエリアだ。
一時的に色々な大きさのドックをそれぞれでレンタルし、駐泊させている。
「まあ気にしても仕方ない部分だし? ほらもうすぐ私達の船だよ」
そう言ってイチゴさんはICカード式のレンタルキーをドックドアの横に差し込み、ドアを開ける。
「人が多い時は大抵、定期便で行くドック専用の衛星に行くんだけど、今は見ての通りガッラガラだから扉近くの場所借りれたんだ」
機嫌がいいイチゴさんと一緒に扉が開ききるのを待ち、クリーンルームを通って先に進むと。目の前には白に青のライン塗装がされた戦艦が現れる。
自分達の戦艦はそんなに大きいものではない、全長は62m全高は18m全幅21m。
武装も二基の主砲と機関銃だと聞いている。
艦内には操舵室、機関室の他に乗組員用の個室が6つ、食堂と入浴室に談話室、そして格納庫とカタパルトがある、更に外付けのコンテナが二基搭載でき、ここに物資を詰め込んでいるらしい。
100m以下は小型船の部類だ、メインの役割を考えたら輸送艦の部類なんじゃないか? と思ってたところイチゴさんはハッキリと戦艦だよ、と答えた。
そう言い張ってるだけの可能性もあるんじゃないかな、とちょっと思う。
ここでクガさんはクレーンを使っての搬入作業に移るので、先にイチゴさんと二人で艦内に入る。今日はコンテナ2つをついでに月へ輸送する任務も請け負うとのことらしい。やっぱり小型輸送艦じゃないか?
「小型だけど出力は結構高いんだよ、あのぐらいのコンテナならあと4つは引っ張れる、遅くなるけど」
「結構出るもんなんですね」
「私達って少数の傭兵団だからさ、小さい方が色々都合がいいの」
「と、ここがスノウの部屋ね」
「ありがとうございます」
中を開けてみると思ったより広い、ワンルームぐらいの居住空間はあるし十分だ、収納スペースもある、壁には寝袋もセットできるし、重力下用のベッドもあった。
「ご飯とかは調理室で作って談話室と個室、どっちで食べてもいいよ」
「はい」
「んじゃ、荷物整理…はないんだっけ、談話室行こっか」
「了解です」
壁をゆっくり伝って艦内を移動する、個室と談話室はすぐ隣で、入って奥側には操舵室も見える。
「ブリッジは談話室を通る構造だよ、自動操縦もあるから基本的にここにいることが多いかな?」
正面の映像がモニターで映し出されてるカメラがある、映像には隔壁しか映っていなかった。
「積み込み終わったぞ、これ飯と輸出品の搬入リストな」
作業が終わったクガさんが搬入リストをイチゴさんに渡してチェックする。
「は~い、あっ、今回多めだ」
「一応月から先の分もエレベーターで発注かけておいたからな、ひとり増えるし」
「はいは~い、OKだよ」
イチゴさんはソレに電子署名を入れて、談話室脇にあるボックスに入れる。
「確認OK?」
「OKだ、出発できる」
「よし、じゃあブリッジに行こっか」
イチゴさんが先頭を切ってブリッジにはいる。
ブリッジには席が6つ、弧を描くように配置されていて、ブリッジ中央に少し高めの台座があってその上に館長席がある、その館長席にドン! と勢いよくイチゴさんは上から座る、クガさんは手際よくその正面下の席に座った。
「どこでもいいぞ、そうだな、隣にでも座ってろ」
「はい」
促されるままに、クガさんの右隣に座ってシートベルトをつける。
「モニター起動、発進前チェックリスト開始」
「了解」
正面の大きな窓にUIが表示されていく。
「タキシングクリアランス要請」
タキシングクリアランスとは、出発要請だ、他の宇宙船とぶつからない様に管制に発進許可をもらう。
「…タキシング許可受諾」
すぐに発進許可が出る、よっぽど空いてたのだろう。
「航宙灯、タクシー灯スイッチオン」
「確認」
「パーキング ブレーキ解除」
「確認」
イチゴさんが勧めて、クガさんが次々にチェックしていく。
「宇宙間位置指示器、天宙図表示」
続々と、各種UIが光り浮かんでいく。
「タクシー灯スイッチオフ」
「確認」
「主警報装置確認」
「警報なし」
「カタパルト旋回開始」
グォン、という重低音と共にカタパルトが回転し始め、滑走路が点灯する。
「真空化開始」
このまま隔壁を開いてしまうと、宇宙空間で貴重な空気が外に出てしまうので、ある程度の空気をドックから吸い出す必要がある、ちなみにコレを忘れるとかなりの額の罰金が必要になるらしい。
「ブースターアイドリング開始」
「点火OK」
ブースターのアイドリングが開始したけど、音はブリッジには聞こえて来ない。
艦内の静音性が高いのもあるけど、ブースター自体が機体最後方にあるし、外側を伝う空気はもう減少してる為だ。
「隔壁開放」
「開放開始」
ここでようやく宇宙空間が目の前に現れる、目的地の月は目視できる位置にある。
「発進許可要請」
「三分間の発進許可受諾」
「やっぱ今の時期早いね」
「だな」
「電磁カタパルト起動」
「起動完了、出れるぞ」
滑走路の中心部が青い電磁パルスを走らせる、空気がアレばバチバチと音がなってるだろう。
「ヨトゥン級 戦艦ワダツミ、発進!」
「発進」
加速による急激なGが身体を襲う、3Gくらいだろうか、椅子に思いっきり押し込められるような感覚だ。みるみるうちに加速していき、カタパルトを一瞬で駆け抜けていき、気づけばあっという間に静止衛星を離れている。
「V1…VR…V2まで加速完了、巡航速度到達、自動操縦ON」
「安定化確認、お疲れ様」
「ふい~、おつかれ~」
ふたりともシートベルトを外して思い思いに軽く柔軟しながら談話室に戻っていく。
「え? えーっと」
「あー、後は自動操縦だからもういいぞ、AIが優秀だから」
「あ、はいわかりました」
どうやら後は自動操縦で進むらしく、着陸までは離れていても平気らしい。
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