最終章 《国滅ぼしの巨人の滅亡》

――ビャクとプルリンのお陰でナイは助かり、他の者たちも安堵して彼の元へ集う。その中には魔導大砲を発射した者達も含まれ、急いでモモがナイの治療を行う。



「ナイ君!!大丈夫?すぐに治してあげるね!!」

「膝枕なら任せて!!」

「あ、ありがとう二人とも……でも、恥ずかしいよ」

「何を恥ずかしがってんだい、今更……でも、本当によくやったね」



リーナに膝枕してもらいながらナイはモモの治療を受け、そんな彼を見てテンは素直に褒め称える。ダイダラボッチは黒焦げの状態で巨大剣を下敷きにした倒れ込み、もう動く気配はない。


恐ろしい敵ではあったが全身が黒焦げにされ、顔面を真っ二つに切り裂かれた状態で倒れる姿は哀れではあった。しかし、ダイダラボッチを放置すればこの世界に平和は訪れず、それにダイダラボッチのせいで王国軍も被害を受けていた。



「ロラン大将軍……アルスとオランは残念ながら駄目でした」

「……そうか」

「はいは〜い!!まだ生きている方はこちらへ集めてください、私が治療しますからね〜!!」



ダイダラボッチのせいで王国軍も少なくない被害を受け、既に死亡している人間もいた。それでも生きている者はイリアの元へ集められて彼女が治療を施す。



「それにしてもこんな化物が本当にいるとはね……土鯨の時も驚かされたけど、こいつはそれとはまた違った化物だね」

「これが元々はゴブリンだというのだから驚きですわ……」

「信じられない進化だな……これも世界異変の影響か」



倒れたダイダラボッチの前にテン達は集まり、改めてその巨体を見て驚かされる。ダイダラボッチも元々はゴブリンキングと同様に最初は力の弱いゴブリンにしか過ぎなかった。いったいどれほどの敵を倒せばここまで強大な存在になれたのかと考えると感慨深い。



「それにしてもこんな化物を本当に打ち倒せるなんて……」

「ああ、信じられねえな……」

「最初に立てた作戦はこいつを封じ込めるだけで良かったはずなんだけどな……やりすぎだぞ、坊主」



当初の作戦ではダイダラボッチを倒すのではなく、巨大剣を利用して封じこめるはずだった。しかし、ダイダラボッチは巨大剣を引き抜いた事で作戦は変更を余儀なくされ、結局はナイの活躍で倒す事に成功した。


ダイダラボッチを封じ込める作戦は失敗したが、将来的に考えればダイダラボッチという脅威をこの時代で倒す事に成功したのは喜ばしい。そもそも封じるとしても時間と手間が掛かり、倒しきれた事が最大の幸運だった。



「……犠牲になった者達は一人残さず連れて帰る。今夜の所は飛行船で過ごし、明日はイチノに戻って休息を挟む」

「イチノ?王都へすぐに戻らないのですか?」

「ダイダラボッチの事をイチノの住民にも伝えておくべきだろう。それに……今回の最大の功績者もイチノに戻りたいだろう」

「ああ、そういう事かい。中々気が利くじゃないかい」



ロランはイチノへ向かう理由を知り、テンはナイの方へ振り返った。ナイにとってイチノは第二の故郷であり、ヨウやドルトンやイーシャン、それにインも居る。ナイにとっては誰もが大切な人で久しぶりに会いたい気持ちもある。


遺体を運び出し、重傷者の治療を終えると討伐隊は飛行船へ帰還するために動こうとした。しかし、飛行船はダイダラボッチの上空に浮上したままだと気付き、アルトに合図を送ろうとした。



「そういえば飛行船、ずっと空に飛んでるね」

「我々の様子を伺っているのだろう」

「お〜い!!聞こえるか!?もう大丈夫だぞ〜!!」

「いや、流石に聞こえるはずが……えっ?」

「グルルルッ……!!」

「ぷるぷるぷるっ!?」



大声で飛行船に呼びかけようとするガオウにフィルは呆れた表情を浮かべるが、彼の耳に何処からか物音が聞こえた。そしてビャクとプルリンが何かに気付いたように唸り声を上げる(プルリンの場合は怯えた様子だが)。


物音が聞こえた方向に全員が振り返ると、そこには信じられない光景が映し出されていた。それは死んだと思われたはずのダイダラボッチが震えており、ゆっくりと上半身を起き上げようとしていた。



「ギッ、ギィッ……アアッ……!?」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「ま、まだ生きていたのか!?」

『なんと!?こいつはたまげた生命力だな!!』



完全に死んだと思われていたダイダラボッチが動き出した事に誰もが驚愕し、慌てて全員が武器を構えようとした。だが、ダイダラボッチはこれまでの戦闘の負傷で限界を超えており、もう意識もはっきりとしていない。


呻き声を上げながら身体を起き上げる事には成功したが、ダイダラボッチは戦える状態ではない。それでも半ば切り裂かれている頭部を動かしてナイ達の方に振り返り、何事か呟こうとした。



「ギアッ――!?」

『まだ生きていたか!!だが、これで終わりだよ!!』

『えっ……』



しかし、ダイダラボッチが何かを喋る前に上空からアルトの声が響き渡り、飛行船が降下してダイダラボッチを押し潰す。


飛行船の巨体がダイダラボッチの上半身に襲い掛かり、その結果ダイダラボッチは再び地面に叩き付けられ、完全に押し潰されてしまう。その光景を他の者たちは唖然と眺める事しかできなかった――

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