最終章 《伝説の終焉》

(――ビャク!?)



空中に浮かんだナイは意識が飛びかけていたが、家族ビャクの声を聞いて意識を覚醒させる。ビャクの声が聞こえたという事は間もなく魔導大砲が発射される事を意味しており、彼はダイダラボッチに視線を向けた。


ダイダラボッチはビャクの声を聞いて意識が反れてしまい、そのお陰でナイをばてようとしていた口が僅かに閉じてしまう。それを見逃さずにナイはダイダラボッチの歯の部分に視線を向け、上手く着地を行う。



「このぉっ!!」

「アグゥッ!?」



巨体であった事が災いし、ぎりぎりの所でナイはダイダラボッチに飲み込まれずに歯の部分に着地すると、跳躍してダイダラボッチの額に突き刺さったままの旋斧に手を伸ばす。



「返せっ!!」

「ギアアッ!?」



飛び込んだ勢いを利用してナイは旋斧を引き抜いてダイダラボッチの頭から飛び降りると、背中をそのまま滑り落ちていく。この時に森の中に設置された魔導大砲が発射され、凄まじい熱線がダイダラボッチに目掛けて放たれる。



(これだっ!!)



ナイはダイダラボッチの背中を滑り落ちながらも魔導大砲から発射された熱線を確認し、熱線がダイダラボッチに当たる箇所を直感で見抜いて旋斧の刃を伸ばす。


本来であれば魔導大砲はダイダラボッチの攻撃に利用する兵器だが、ナイは熱線を浴びせた所でダイダラボッチを確実に倒す事はできないと判断した。そのため、彼は熱線を利用して旋斧に吸収させる。



(今ならできるはずだ……この旋斧なら!!)



かつての旋斧は吸収できる魔力量に限界があったが、ハマーンが黒水晶を埋め込んだ事で吸収できる魔力量は増えているはずだった。魔導大砲から発射された火属性の魔力の光線が旋斧の刃に触れると、刃が赤色に変色して熱を帯び始める。



「うおおおおっ!!」

「ギアアッ!?」



背中に凄まじい熱気を感じ取ったダイダラボッチは悲鳴を上げ、何が起きているのかと振り返ると、そこには熱線を吸い上げて真っ赤に染まった旋斧を構えるナイの姿があった。


彼の手に持っている旋斧は赤く染まるだけではなく、黒水晶も赤色に光り輝き、そして刃は炎に包まれていた。吸収しきれなかった火属性の魔力が刃に包み込み、巨大な炎の剣と化す。



「うおおおおおっ!!」

「あれは……!?」

「と、飛んだ!?ナイ君が飛んだ!?」

「馬鹿なっ!?」



魔導大砲から発射された火属性の魔力を全て吸い上げた事でナイの旋斧にはを倒した時と同様に膨大な火属性の魔力が纏う。その魔力を利用してナイはジェット噴射のように上空へ移動を行う。


この移動方法はブラックゴーレムやドゴン、そして飛行船の噴射機と同じ原理であり、膨大な火属性の魔力を放出させる事でナイはダイダラボッチの頭上に移動を行う。そして彼は最後の攻撃を繰り出すために旋斧を両手で握りしめる。




「終わりだぁああああっ!!」

「ギアッ――!?」




迫りくるナイに対してダイダラボッチは恐怖を抱き、身を守ろうにも既に両腕は負傷し、逃げる事もままならない。この時にナイは旋斧を振りかざした瞬間、刀身に纏っていた炎が形を変えて「火竜」のような姿に変化する。




「な、何だいあれはっ!?」

「か、火竜か!?」

「あれは……ゴブリンキングを倒した時と同じ!?」

「ああ、間違いない……火竜の炎だ!!」




旋斧から放出された炎が火竜のような姿に変化した事にテンとルナは驚き、ドリスとリンはイチノでナイがゴブリンキングを倒した時と同じ技を繰り出した事を思い出す。テンとルナはゴブリンキングの討伐には参加していなかっため、初めて見る光景だった。


火竜の姿を模した魔力に包まれる形でナイは旋斧をダイダラボッチに振りかざし、自分に迫りくる火炎の竜にダイダラボッチは生まれて初めて心の底から恐怖した。圧倒的な存在感を放つ敵にダイダラボッチは悲鳴を上げる。





――ギィアアアアアアアアアアアッ……!?





ムサシノ地方どころかにまで響き渡る悲鳴をダイダラボッチは放ち、旋斧がダイダラボッチの頭部を切り裂いた瞬間、火炎の竜はダイダラボッチに喰らいつく。


火炎はダイダラボッチの全身を包み込み、頭部を今度こそ真っ二つに切り裂かれたダイダラボッチは倒れ込む。この際にダイダラボッチは巨大剣を背にして倒れてしまい、地上に衝突した衝撃でナイは旋斧と共に弾き飛ばされてしまう。



「うわぁっ!?」

「ナイ君!?」

「ナイ!!」

『いかん!!落ちるぞ!!』



弾き飛ばされたナイを見て慌てて他の者が彼を受け止めようとしたが、誰よりも早くナイの元に駆けつけたのは人間達ではなかった。



「ウォンッ!!」

「ぷるんっ!!」

「うわっ……あ、ありがとう」



ナイを受け止めたのはプルリンを背中に乗せたビャクであり、上手い具合にプルリンがクッションとなってナイを優しく受け止めた――

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