最終章 《貧弱の英雄VSダイダラボッチ》
(これがダイダラボッチ……改めてみると凄いな、こんな生き物がいるなんて……)
飛行船の船首からダイダラボッチを見下ろすと、ナイは改めてダイダラボッチの巨大さを思い知り、こんな生物がこの世に存在する事が驚きだった。土鯨も大きかったが、こちらの場合はゴーレムのように巨大な外殻を身に纏っているため、ダイダラボッチの方が大きいかもしれない。
ダイダラボッチも本を正せば力の弱い1匹のゴブリンだったのかもしれない。それこそ「貧弱」の技能を持ち合わせるナイと同じような存在だった可能性もある。しかし、非力なゴブリンといえども力を身に付ければここまで強大な存在に成れる事を思い知らされる。
だからといってダイダラボッチの存在を許すわけにはいかず、ここでダイダラボッチを放置すれば和国のように王国も滅ぼされる。それだけは避けるためにナイは旋斧と岩砕剣を構え、攻撃の機会を伺う。
(よし、今だ……!!)
薬の効果が現れ始めたのかナイの身体が熱くなり、彼は即座に強化術を発動させた。その結果、ナイの身体は光に包まれる。聖属性の魔力が全身に纏い、その光の輝きは月光を想像させた。
空から降り注ぐ光に気付いたダイダラボッチは顔を見上げると、そこには見た事もない巨大な生物が浮かんでいる事に驚く。旧式の飛行船の外装は「鮫」のような姿をしているため、それを見たダイダラボッチが巨大生物と勘違いするのも無理はない。
「ギアアアアッ……!?」
唐突に上空に現れた巨大な物体にダイダラボッチは戸惑い、一瞬ではあるが動き停止した。その隙を逃さずにナイは強化術を発動させ、普段よりも魔力の出力を高めた状態で飛び降りる。
「うおおおおおっ!!」
「ギアッ!?」
ナイは飛行船の船首から飛び降りてダイダラボッチの元へ向かうと、突如として自分の元に落ちてきたナイにダイダラボッチは一瞬だけ驚く。しかし、即座に反応して右腕を繰り出す。
「ギアアアアッ!!」
「岩砕剣!!」
自分に目掛けて迫る巨大な拳に対してナイは岩砕剣を空中で振り下ろし、この際に地属性の魔力を送り込む。作戦前にナイは魔法腕輪に複数の地属性の魔石を組み込み、それらを利用して一気に岩砕剣に魔力を送り込む。
魔操術を極めた今のナイならば複数の魔石から同時に魔力を引きだし、それを岩砕剣に送り込むのは容易い。岩砕剣の刃が紅色に染まり、魔力を送り込まれるごとに重量を増していく。
「はぁあああああっ!!」
「グギャアアアッ!?」
限界まで重量が増加した岩砕剣はダイダラボッチの繰り出した右拳を貫き、そのままダイダラボッチの腕を切り裂きながらナイはダイダラボッチの顔面に目掛けて接近する。
(ここだっ!!)
ダイダラボッチの腕を岩砕剣で切り裂きながらナイはダイダラボッチの顔面に迫り、途中で岩砕剣を手放してダイダラボッチの腕を足場に利用して旋斧を振りかざす。
「うおおおおおっ!!」
「ギアアアアッ!?」
旋斧を両手で構えた状態でナイは振りかざし、ダイダラボッチの顔面に目掛けて刃を繰り出す。だが、ダイダラボッチは咄嗟に左腕を伸ばして旋斧の一撃を掌で受け止めた。
(しまった!?)
ナイは岩砕剣を捨てて旋斧で止めを刺そうとしたが、それさえもダイダラボッチに防がれてしまう。旋斧は掌に食い込み、そのままの状態でダイダラボッチはナイを掴んで押し潰そうとした。
「ギアアアアアッ!!」
「うわぁあああっ!?」
「ナイ!?」
「ナイ君!?」
「ナイさん!?」
ナイがダイダラボッチに掴まれて地面に叩き付けられようとする光景を見て他の者達は悲鳴を上げるが、この時にナイの左腕だけは拘束を免れていた。それどころかまるでナイの意思に反して動き出したかのように地面に向けて腕が伸びる。
彼の左腕には腕鉄鋼が装着され、その上には「反魔の盾」が取り付けられている。ダイダラボッチは全力でナイを叩き潰そうとしたが、反魔の盾が先に地面に接触した瞬間、これまでにない強烈な衝撃波が発生した。
「ギアアアッ!?」
「ぐああっ!?」
『うわぁああああっ!?』
ダイダラボッチの馬鹿力で振り下ろされたナイは反魔の盾によって衝撃を跳ね返し、その反動で衝撃波が拡散してダイダラボッチも地上の者達も吹き飛ばされかける。この時にナイはダイダラボッチの手から離れ、再び上空へ浮き上がる。
腕鉄鋼と反魔の盾は地上に衝突した時に剥がれてしまい、ナイの左腕の方も損傷が酷い。しかし、イリアのくれた薬は強化術と再生術を同時に発動させる効果があり、空中に浮かんでいる間にナイの左腕は再生を果たす。
『まだだ!!まだ終わっていない!!』
空中に浮かんだナイはダイダラボッチに視線を向けて、丁度いい具合にダイダラボッチが尻餅を着いていた。しかも運がいい事に巨大剣はダイダラボッチの背中側に存在し、どうやら先ほどの反魔の盾の衝撃波で上手い具合に巨大剣が横たわる場所にダイダラボッチが倒れ込んだらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます