最終章 《強者の弱点》

――ギアアアアアアッ!!



折れた背骨を修復させ、切り落とした左足も再生を果たしたダイダラボッチは再び万全の状態へ戻る。ここまでの戦闘でダイダラボッチも相当に消耗しているはずだが、それでも弱り切った討伐隊を一掃する力は残っていた。


新薬を飲んでいない者達もここまでの戦闘で体力と魔力の限界を迎え、ロラン達もまともに戦える状態ではない。今度こそダイダラボッチは邪魔されず、巨大剣を手にした。



「ギィイイイイッ!!」

「く、くそがぁっ……」

「もう、終わりなんですか……?」

『諦めるな!!まだ俺は戦えるぞ!!』



巨大剣さえも手にしたダイダラボッチを見て誰もが絶望しかける中、ゴウカだけはドラゴンスレイヤーを片手に戦おうとしていた。彼だけは討伐隊の中で唯一元気が有り余っているが、いくら最強の黄金級冒険者と言っても一人ではダイダラボッチに勝てるはずがない。



「ギアアアッ!!」

「いかん、来るぞ!?」

「ゴウカ!!もういい、逃げろ!!」

『俺は逃げん!!』



ゴウカに視線を向けたダイダラボッチは自分に歯向かうのは彼だけだと判断し、巨大剣を彼に目掛けて振り下ろそうとした。それに対してゴウカはドラゴンスレイヤーを両手で構えて受け止めようとすると、彼の背後から大きな影が出現した。



「ドゴン!!」

『お前は……!?』



ドゴンはゴウカの後ろに回り込むと彼と共に巨大剣を受け止めようと両腕を交差させ、そんなドゴンの姿にゴウカは驚くが、兜の中で笑みを浮かべて共に巨大剣を受け止める。



『ぬぅううううんっ!!』

「ドゴオオオンッ!!」

「ギアアッ……!?」



振り下ろされた巨大剣をゴウカとドゴンは力を合わせて正面から受け止めると、どちらも地面に足元が埋もれる程の衝撃を受けたが、それでも押し潰されずに受け止める事に成功した。


自分達の何十倍もの体躯を誇るダイダラボッチの攻撃をゴウカとドゴンは正面から受け止め、その光景に誰もが驚きを隠せない。如何に二人が強靭な肉体と腕力を誇ると、普通ならばダイダラボッチの攻撃を受け止め切れるはずがない。



(どうなってるんだ……!?)



どうしてドゴンとゴウカがダイダラボッチの攻撃を受け止める事ができたのかガオウには理解できず、彼等が何か特別な事をしたようには見えない。



(いったい何が起きている……!?)



ロランでさえも二人がダイダラボッチの攻撃を受け切った事に動揺し、どうしてダイダラボッチの攻撃を止める事ができたのかを考える。しかし、彼等よりも先に答えに辿り着いたのはテンだった。



(そうか……そういえばアルト王子が言ってたね、あの巨大剣はナイのだって……)



誰よりも早くに気付いたテンは、頭の中にナイの旋斧を思い描く。ナイの旋斧は直に触れた人間から聖属性の魔力を吸収し、その魔力を利用して自身の強化を行う。


旋斧は聖属性の魔力を吸い上げる事で成長し、今では大剣のように変化を果たす。そして巨大剣は元々は旋斧と同じ類の魔剣であり、触れただけで聖属性の魔力を吸い上げる効果を持つ。


ダイダラボッチは気付いていないようだが、ここまでの戦闘でダイダラボッチは相当に力を使い果たしていた。数百年以上の時を生きる程のダイダラボッチの生命力は確かに凄いが、それでも限界が無いわけではない。


現在のダイダラボッチは討伐隊との戦闘によって疲弊し、しかも肉体を再生するためにかなりの魔力を消費しているはずだった。テンはダイダラボッチの再生能力の正体が自分達の扱う「再生術」と同じ原理だとしたら、現在のダイダラボッチはもう殆ど魔力は残っていないはずだと悟る。



(あんたの事だよ。自分をここまで追い詰める敵とは出会った事はなかったんだろう?だから、自分の限界を把握しきれなかった……それがあんたの唯一の弱点だったわけかい)



ダイダラボッチは生まれた時は弱者だったが、それでも知恵を絞って強敵を打ち倒し、強くなり続けた。しかし、強くなり過ぎたせいでダイダラボッチは自分自身の強さを過信し、自分にも「限界」があるという事を忘れていた。


ここまでの戦闘でダイダラボッチは力を使い果たし、もう巨大剣を扱いこなす体力さえも残っていなかった。その証拠にダイダラボッチは巨大剣を振り抜く事すらもできず、その場に手放してしまう。



「ギアアッ……!?」



身体に力が入らずにダイダラボッチは巨大剣を手放し、危うく倒れそうになった。しかし、ダイダラボッチは最後の力を振り絞って倒れる事だけは拒む。


自分がここで倒れれば地上のを活気づかせる事になると考え、意地でもダイダラボッチは倒れようとはしなかった。だが、そんなダイダラボッチに対して迫る巨大な影が近付いていた。

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