最終章 《副作用》
――ドゴォオオオオンッ!!
何処からか奇妙な鳴き声が響き渡り、驚いたのはダイダラボッチだけではなく、他の者たちも咄嗟に上空を見上げる。そして彼等が見た者はまるで隕石の如く加速しながら落下する「ドゴン」の姿だった。
アルトに改造を加えられたドゴンはブラックゴーレムの外殻を利用して作り出された鎧を身に着け、更に背中の部分にはブラックゴーレムのように火属性の魔力を噴射しながら空を飛んでいた。ドゴンの胸元には黒水晶が埋め込まれ、凄まじい速度で加速したドゴンはダイダラボッチの背中に目掛けて突っ込む。
「ドゴォオオオンッ!!」
「ギィアアアアアッ!?」
ドゴンの突進を受けたダイダラボッチは今日一番の衝撃が身体に伝わり、背骨が折れる音が鳴り響く。ドゴンの登場に誰もが驚愕し、呆気に取られたが彼のお陰でダイダラボッチの動きは止めた。
「い、今だ!!攻撃を続けろ!!」
「あと少しだ!!このままぶっ倒すよ!!」
『ふははっ!!面白い登場の仕方だな!!今度、俺も真似してみるか!!』
「言ってる場合か!!止めを刺せ!!」
思いもよらぬ援軍の到着で討伐隊は士気が上がり、全員が狩りで弱り切ったダイダラボッチに攻撃を開始した。最早、巨大剣を頼らずとも今のダイダラボッチならば倒せる可能性も出てきた。
背中に落下したドゴンは衝突の際に身に着けていたブラックゴーレムの鎧の一部が剥がれて落ちてしまう。時間がない中での改造だったために色々と無理があったらしく、彼はブラックゴーレムの鎧を引き剥がすとダイダラボッチの背中に攻撃を加える。
「ドゴン!!ドゴォンッ!!」
「ギアアッ……!?」
ドゴンに大してダイダラボッチは怒りを露わにして背中に手を伸ばそうとするが、先の攻撃でダイダラボッチは背骨を負傷し、しかも背中にドゴンが衝撃を加える事で上手く再生もできない。
「ドゴォンッ!!」
「グギャアッ!?」
「効いてる!!こいつ、もう限界が近いよ!!」
「左足も再生する気配がない……もう再生能力も限界のようですわね!!」
「全員、突っ込め!!」
完全に弱り切ったダイダラボッチに討伐隊は勝利を確信し、恐れを抱かずに全員がかりで攻撃を続ける。ダイダラボッチは討伐隊の猛攻撃に対して反撃する余裕もなく、全身を丸めて防御を行う。
まるで亀の様に縮こまって攻撃を防ぐ姿に討伐隊は気力を取り戻し、自分達の勝利が近い事を確信する。ロランでさえもダイダラボッチを追い込んだと思い込み、最後の止めを繰り出そうとした。
「この一撃で終わらせる……うおおおおっ!!」
「あたしらも行くよ!!」
『おっと、止めは譲らんぞ!!』
ロランの他にもテンとゴウカが後に続き、3人は同時に攻撃してダイダラボッチの首を切り落とそうとした。だが、攻撃を仕掛ける寸前でテンとロランの身に異変が起きる。
「ぐはぁっ!?」
「がはぁっ!?」
『何っ!?どうしたお前達!?』
「ッ…………!?」
攻撃を放とうとした瞬間、ロランとテンは突如吐血して膝をつく。その様子を見てゴウカも慌てて攻撃を中断し、二人の様子を伺う。しかし、異変が起きたのは二人だけではなく、周りの人間達も唐突に苦しみ始めた。
「げほっ、げほっ!!」
「ミ、ミイナ!?」
「うええっ……な、何だこれ……気持ち悪い」
「ルナさん!?」
ミイナも唐突に咳き込み始めて倒れ込み、慌ててヒイロが彼女の元に向かう。ルナの方も急に頭を抑えて膝を崩し、その様子を見てドリスが彼女を支える。
唐突に苦しみ始めたのは彼女達だけではなく、他にも大勢の人間が頭を抑えたり、吐血して地面に倒れ込む。体調を崩した者はほぼ全員が聖女騎士団と猛虎騎士団の団員である事が判明し、即座にリンは彼等が倒れた理由に気付く。
「まさか……薬の副作用か!?」
「そ、それってイリアさんがおっしゃっていた新薬の事ですの!?」
体調を崩した者達はイリアの新薬を飲んだ者達ばかりである事が判明し、彼女の薬のお陰で彼等は戦線に復帰したが、その反動が今になって襲い掛かってきた。
イリアの新薬は一時的に「強化術」と「再生術」を同時に発動させるのと同じ効果を誇るが、薬の効果が切れた場合は肉体に大きな負担が襲い掛かる。恐らくは吐血した人間はあまりにも肉体に負荷を与えた事で身体の限界を迎え、その反面に体調を崩しただけの者は魔力切れを引き起こして意識を保つのも限界だった。
ダイダラボッチにあと少し止めを刺せる状況の中で討伐隊の半分近くの人間が戦闘不能に追い込まれ、この間にダイダラボッチは再生能力で討伐隊から受けた傷の修復を行う。
「ギアアアアッ……!!」
「ち、畜生がっ……」
「あ、あと、少しだったのに……」
「ぬううっ……!?」
背中の骨を直し、更には切り離された左足をダイダラボッチは回収して傷口に押し当てると再生を行う。切断された左足は元通りに戻り、傷口も塞がり始める光景を討伐達は黙って見ている事しかできなかった。
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