最終章 《王国騎士団の力》

「行くぞっ!!アリシア、エリナ!!」

「ええ!!」

「はい!!」



先頭を駆け抜けたのはランファンであり、彼女の両肩にはアリシアとエリナが乗り込んでいた。エリナは弓矢を構えてエルマ仕込み「魔弓術」を発動させ、的確に傷口に目掛けて矢を放つ。



「まだエルマさんのように上手く当てられるか分かりませんけど……いっけぇっ!!」

「ギアアアッ!?」



エリナはエルマのように完璧な魔弓術は扱えないが、それでも彼女の弟子として毎日修行を行っていた。その成果が発揮され、彼女の放った矢は全て左足の傷口に突き刺さる。


傷口を抉られたダイダラボッチは悲鳴を上げ、それを見たランファンとアリシアは左足が狙い処だと察して動き出す。ランファンはアリシアを掲げると、勢いよく彼女を投げ飛ばす。



「ふんっ!!」

「はあああっ!!」

「ギャアアッ!?」



投げ飛ばされたアリシアはレイピアを正面に構えると、彼女の繰り出したレイピアの刃はダイダラボッチの左足を貫く。当然だが傷口を狙っての攻撃であるため、体内に深く刃が突き刺さるとダイダラボッチは悲鳴を上げる。



「左足だ!!奴の左足に攻撃を集中しろ!!」

「行くぞぉおおおっ!!」

「うおりゃああっ!!」



聖女騎士団と猛虎騎士団は最も損傷が大きいダイダラボッチの左足に攻撃を集中させ、それに対してダイダラボッチは逃げようとしたが、四つん這いの状態では上手く動けない。


まさか倒したと思われた聖女騎士団と猛虎騎士団が復活するなど予想もできず、それは味方である他の騎士団の者も同じだった。どうして彼等が復活したのかと戸惑っていると、ダイダラボッチの背中に乗り込んだテンが声をかける。



「あんたら、何をぼさっとしてるんだい!!さっさと手伝いな!!」

「テンさん!!どうして無事だったんですの!?」

「無事なわけあるかい!!イリア魔導士が渡してくれた新しい薬のお陰だよ!!」

「イリアさんの!?」



実は作戦が開始される前に討伐隊の全員にイリアはを渡しておいた。今現在の彼女の技術で造り出せる最高の薬である事は間違いないが、その反面にこれまでの薬と違って大きな副作用があった。



『皆さんにはこれを渡しておきます。私が作った特製の薬です』

『ん?こいつは仙薬とやらかい?』

『はい、今までの薬の技術を集約して作り出した最高傑作……のはずですが、これを飲むとちょっと問題がありましてね』

『何だい、問題って……危ない薬じゃないだろうね?』

『いえいえ、これを飲んだら再生能力が活性化されて大抵の傷は完璧に治りますよ。しかも怪我が治るだけではなく、魔力が活性化されます。つまり、強化術と大生術を同時に発動させのと同じ効果です』

『何だって!?そいつは凄いじゃないか!!』



イリアの作り出した新薬は「強化術」と「再生術」を参考にした薬であり、これを飲めばどんな人間も強制的に二つの術の効果を引きだす。大怪我を負っても即座に再生し、更に肉体の限界まで身体能力を高める。


この薬の最大の利点は強化術や再生術を完璧に身に着けていない人間でも扱えるという点だが、その反面に薬の効果が切れると二つの術を発動させた反動で酷い筋肉痛に襲われて動けなくなるという。



『この薬の効果は5分が限界です。それを越えると薬の反動で動けなくなります』

『つまり、強化術と再生術を発動させた後の反動が一気に襲い掛かってくるわけかい……並の人間が飲んだら死んじまいそうだね』

『だからこの薬を飲むのは最終手段です。危険だと思うなら飲まなくてもいいです』

『なるほど……肝に銘じておくよ』



テンはイリアから受け取った新薬を使う機会が訪れない事を祈ったが、結局は彼女を含めて殆どの人間が新薬を服用する状況に追い込まれた。


最初のダイダラボッチの攻撃でテン達は戦闘不能になるほどの損傷を負い、仕方なく全員が新薬を飲むしかなかった。そうしなければ死んでいたかもしれず、しかも完全に動けるようになるまで大分時間が掛かってしまった。


彼等に残された時間は恐らくは2、3分しかなく、もしも薬の効果が切れれば彼等は倒れて動けなくなり、ダイダラボッチに止めを刺されるだろう。そうなる前に勝負を決する必要があった。



「はあっ!!この薬凄いぞ、力がみなぎる!!」

「全然疲れない……けど、後で怖い事になりそう」

「だから今のうちにこいつをぶっ倒すんだよ!!ほら、あんた等も見てないで手伝いな!!」

「お、おう!!」

『よし、行くぞぉっ!!』



四つん這いの状態となったダイダラボッチにめがけて討伐隊は殺到し、この好機を逃さずに止めを刺すために急所に攻撃を繰り出す。ダイダラボッチは予想外の騎士団の復活によって追い詰められ、それでも諦めずに怒りの炎を瞳の中に宿す。

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