最終章 《ダイダラボッチの誕生秘話》
「ギアアッ……!?」
ダイダラボッチは巨大剣を視界に捉え、怒りの表情を浮かべながら木々を薙ぎ倒しながら移動を行う。しかし、野生の本能が働いたのかダイダラボッチは巨大剣に近付く前に動きを止める。
足を止めたダイダラボッチは地上に視線を向けて違和感を抱き、昨日訪れた時と違って僅かにだが気配のような物を感じた気がした。このムサシノ地方に生息する殆どの魔物や動物はダイダラボッチが目覚めた時に恐れを為して逃げ出したはずだが、今日は何故か地上の方からほんの僅かではあるが気配のような物を感じ取った。
牙竜の場合は自分が強すぎるがために自分を襲う生物の存在を考えず、気配を感知する能力はそれほど高くはない。しかし、ダイダラボッチは元々は力の弱い1匹のゴブリンだった。
――遥か昔、和国の領地で誕生したゴブリンこそがダイダラボッチの正体だった。ゴブリン時代のダイダラボッチは他の魔物に怯え、自分よりも強い存在と巡り合うのを恐れて怯えながら暮らしていた。
そんな力の弱いゴブリンがどうして生き延びる事ができたのかと言うと、それは気配を感知する能力と同時に自分の気配を立つ方法を見出す。ゴブリンは獲物の気配を感じ取り、その後に自分の気配を絶つ事で奇襲を仕掛け、自分よりも強い獲物を狩る方法を見出す。
後にダイダラボッチとなるゴブリンはまるで「狩人」のような戦法で次々と獲物を狩り続け、様々な魔物の肉を喰らった事で進化を果たす。ホブゴブリンに進化した後は仲間を連れて他の魔物を襲い、時には人間とも戦う機会もあった。
ホブゴブリンに進化してからは肉体も強くなり、知能もより発達したお陰で仲間を増やしていく。やがてホブゴブリンからゴブリンキングに進化を果たした際、ゴブリンキングの周囲には多数のホブゴブリンやゴブリンの姿があった。ゴブリンの軍勢を率いてゴブリンキングは和国の都へ攻め込み、戦を仕掛ける。
どうして人間の暮らす住処を襲ったのかと言うと、ゴブリンキングが暮らすムサシノ地方を支配していたのは人間だったからだ。ゴブリンキングは人間を倒さない限りは自分達の平和は訪れないと判断し、配下と共に都を襲撃した。
長い戦いの末にゴブリンキングは都を壊滅させたが、その反面に配下として従えていたゴブリンとホブゴブリンを失ってしまう。そしてクサナギノツルギと呼ばれる剣を突き刺された事によってゴブリンキングは地中に封じられる。
数百年の時を地中に封じられたゴブリンキングは更に肉体が成長し、和国の間では「ダイダラボッチ」なる存在として恐れられた――
――ダイダラボッチは昔の事を思い出し、地上に感じる気配に警戒心を抱く。どの気配も自分と比べれば虫けらのように小さいが、それでもダイダラボッチは巨大剣の周囲に生物の気配が集まっている事に疑問を抱く。
巨大剣の破壊のためにダイダラボッチはこの場所に訪れたが、謎の気配を複数感じ取った事でダイダラボッチは嫌な予感を抱く。ダイダラボッチは歩みを止め、まずは気配の正体を確かめるために近くに生えている樹木を引き抜く。
「ギアアッ!!」
樹木を引き抜いたダイダラボッチは巨大剣の周囲に視線を向け、手始めに樹木を投げつける。その結果、投げ放たれた樹木は地上に生えている木々を巻き込み、何本も倒木していく。
「ギアッ!!ギアッ!!」
次々と樹木を引き抜いてダイダラボッチは巨大剣の周りに樹木を投げ飛ばし、木々の破壊を行う。この行為で森の中に隠れている王国軍は倒れた木々に巻き込まれぬように行動するしかなかった。
「やばい、倒れるぞ!?」
「落ち着け、冷静に対処しろ!!」
「大声を上げるな、奴に気付かれる……!!」
「大丈夫だ、我々ならば問題ない」
森の中で王国騎士や冒険者達が次々と倒れていく樹木に巻き込まれないように避難を行い、もしもこの場に集まっているのがただの兵士ならば冷静に対処できなかっただろう。
しかし、今回集められた討伐隊は「少数精鋭」を重視し、王国内の実力者だけ集めて結成された最強の討伐隊である。いくら樹木が倒れてこようと一流の武人である彼等は冷静に対処して被害を食い止める。
「ギアッ……」
樹木を抜いて攻撃を繰り返していたダイダラボッチだったが、巨大剣の周囲に生えている樹木を薙ぎ倒しても何も起きない事に疑問を抱き、地上から感じる気配も散ってしまう。
自分が気にし過ぎただけなのかとダイダラボッチは思い直し、再び巨大剣へ向けて移動を開始した。しかし、討伐隊の面子は動き出したダイダラボッチを確認すると、即座に指定の位置に戻って準備を行う。
ゴウカに守られているマリンはダイダラボッチが罠の場所まで移動するのを待ち構え、緊張しながらも杖を構えたまま動かない。そして遂にダイダラボッチが指定の位置に辿り着くと、彼女は最大級の火属性の攻撃魔法を放つ。
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