最終章 《伝達》

「――兄者、動き出したでござる!!」

「分かっている、合図を送れ!!」



ダイダラボッチが動き出した事は森の中で待機していたシノビとクノも確認し、二人は即座に王国軍に知らせるために合図を送る。クノは自分の胸元から筒状の道具を取り出し、それを天に向けると道具に取り付けられている縄に火を灯す。


この魔道具はシノビ一族に伝わる魔道具であり、縄に火をつけると筒の中に入っている火属性の魔石の粉末が反応して爆発を引き起こす。一種の爆弾ではあるが、威力はそれほど高くない反面に規模は広いため、クノは上空へ向けて投げ放つとまるで「花火」のように爆発する。



『ギアッ……!?』

「合図は送ったでござる!!しかし、これで敵に気付かれたでござる!!」

「構わん、森の中ならば地形を把握しているこちらが有利だ!!」

「クロ、コク!!全速力で逃げるでござるよ!!」

「「ウォンッ!!」」



シノビとクノの元にクロとコクが駆けつけ、二人を背中に乗せて森の中を駆け出す。クロとコクは黒狼種であり、小さい頃は森の中で育てられた。だからこそ2体は森の中を巧みに移動する事ができた。


しかし、先ほどの爆発を不審に思ったダイダラボッチは進路を変え、爆発が起きた位置に向けて移動を開始する。ダイダラボッチが地面に足を下ろす度に振動が走り、木々が薙ぎ倒されていく。



「急げ!!見つかったら終わりだぞ!!」

「わ、分かってるでござるが……思っていた以上に走りにくいでござる!!」

「「ウォオンッ!!」」



振動が伝わる地面の上を走るのはかなりの困難を極め、クロとコクは地面の接触をできる限り避けるために跳躍を繰り返す。しかし、障害物が多い森の中では下手に跳躍を繰り返すと衝突する危険性があり、跳ぶ時は最善の注意を払わなければならない。


それでもクロとコクのお陰でシノビとクノは避難する事に成功し、爆発が起きた位置に辿り着いたダイダラボッチは不思議そうに周囲を見渡すが、4人の姿を発見する事はできずに本来の目的へ戻る。



『ギアアアアアッ……!!』

「どうやら諦めたようだな……よし、奴よりも先回りするぞ!!」

「承知したでござる!!」



ダイダラボッチが再び巨大剣に向かって移動したのを確認すると、シノビとクノはダイダラボッチよりも先に目的地へ向けて移動を開始した――






――空に上がった花火を確認した他の討伐隊の面子は指定の位置に配置し、各自身を隠しながらダイダラボッチが訪れるのを待つ。作戦の実行はダイダラボッチが地中の中に仕掛けたマグマゴーレムの核が隠された地面の上に立った時であり、そこを狙って魔術師のマリンが攻撃を行う。



『マリン、緊張してないか?』

『う、うるさい……お前はしっかりと私を支えろ』



マリンはゴウカに肩車して貰った状態で杖を構え、魔法を発動させる準備を行う。しかし、緊張しているせいか腕が震えており、流石の彼女もダイダラボッチを相手にすると考えると恐怖を抱く。


黄金冒険者としてマリンも様々な魔物を相手にしてきたが、ダイダラボッチの場合は格が違った。ダイダラボッチは単なるゴブリンではなく、魔物を越えたの存在だった。



『そう緊張するな、お前と俺が力を合わせれば無敵だ!!力仕事は俺、魔法仕事はお前だ!!』

『魔法仕事って何だ……ふうっ』



ゴウカはマリンを安心させるように声をかけると、彼女は呆れながらもゴウカの励ましの言葉を聞いて心を落ち着かせる。そして彼女は覚悟を決めた様に目つきを鋭くさせ、身体の震えを止めて杖を構えた。



『安心しろ、この大陸で一番の魔術師は……この私だ!!』

『うむ、その意気だぞ!!』



マリンは自分こそが最強の魔術師である事を照明するため、彼女は覚悟を決めた表情で杖を構える。この一戦を通してマリンは「マジク」も「マホ」を越える魔術師になる事を決めていた。


実は二人の事はマホは尊敬はしていたが、その一方で自分こそが最高の魔術師だという対抗心を抱いていた。この戦いを通してマリンは自分の名前を世間に伝えさせるため、彼女は意識を集中させて最大火力の魔法を放つ準備を行う。


やがて木々を破壊しながらダイダラボッチが姿を現し、予想よりも進行速度が速い。幸いにも今夜は月の光に照らされて明るく、そもそもダイダラボッチの巨体ならば狙いを外す事の方が難しい。



「ギアアアアアアアッ!!」



まだ距離があるにも関わらず、自分達の間近で大声で叫ばれたかの様にダイダラボッチの声が響き、その声を聴いた者達は震え上がる。しかし、ここまで来た以上は引き返す事はできず、マリンは杖を力強く握りしめてありったけの魔力を注ぎ込む。

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