最終章 《復活の刻》

思いもよらぬ事故によってダイダラボッチは封印を解く好機を得られ、背中の巨大剣を引き抜く事に成功したダイダラボッチは数百年の封印から解放された。巨大剣を抜いた跡にダイダラボッチは地上に出現すると、まずは自分を目覚めさせた切っ掛けとなったアンと、彼女の傍にいるを見つける。


ダイダラボッチは自分の意識を覚醒させる切っ掛けを与えたにも関わらず、アンと少年の姿を見て「人族」に対する怒りを抱く。自分を何百年も地の底に封じ込めた人族に対してダイダラボッチは烈火の如く怒りを抱き、二人を殺すために攻撃を行う。



『ギアアアアアアッ!!』



二人は確実にダイダラボッチが手にしていた巨大剣によって押し潰され、死体ははずだった。だが、ここでダイダラボッチにとって予想外だったのは「太陽」の存在だった。



『ギィアアアアッ……!?』



太陽の光を浴びた途端にダイダラボッチは言葉にはしがたい痛みが全身に走り、何百年も暗い地の底に潜り続けていたせいで太陽の光と熱に耐え切れず、逃げるように地の底に再び戻ってしまう。


やはり何百年も動かなかったせいかダイダラボッチの体質が変化しており、太陽の下ではまともに行動する事ができない。そのように悟ったダイダラボッチは「夜」が訪れるまでの間は大人しく地の底で身体を休める事にした――






――夜を迎えるとダイダラボッチは再び地上に出現し、数百年ぶりの食事を本格的に味わう。実を言えば地の底に落ちてきた牙竜はダイダラボッチが目を覚ました時、餌として捕食しようとした。だが、思っていた以上に牙竜は骨が硬くてまともな栄養源にならず、吐き捨ててしまう。


地上に抜け出したダイダラボッチは獲物を探すが、ダイダラボッチが姿を現した時点でムサシノ地方の魔物や動物は逃げ出してしまう。仕方がないのでダイダラボッチは樹木を引き抜いて食事を行う。


通常種のゴブリンは果物や茸の類は食べられるが樹木などは食べる事はできない。しかし、進化の過程でダイダラボッチは新しい能力が目覚め、その能力は口にした物はどんな物でも栄養源に帰る能力だった。


この能力のお陰でダイダラボッチはあらゆる植物や鉱石さえも食べて栄養源に変換する事ができるようになり、実は封じられていた時もダイダラボッチは無意識に土砂を喰らって生き延びていた。数百年の間もダイダラボッチが生き残る事ができたのはこの能力のお陰であり、生命力を巨大剣に吸われながらも生き延び続ける所か肉体が成長していた理由もこの能力の恩恵である。



『ギアアッ……!!』



食事を終えて十分な栄養源を確保すると、ダイダラボッチは自分が手放した巨大剣の元へ向かう。この巨大剣を放置する事はできず、またこの巨大剣が突き刺さればダイダラボッチは再び封じられて動けなくなってしまう。


この巨大剣が存在する限り、ダイダラボッチは安心して暮らす事はできない。また人族がこの巨大剣を利用して自分を封印する可能性が残っている以上、ダイダラボッチとしては巨大剣を放置する事なできない。



『ギアアアアアッ!!』



巨大剣に対してダイダラボッチは持ち前の怪力を発揮して破壊を試みた。しかし、何百年もダイダラボッチの生命力を吸い上げて進化した「クサナギノツルギ」は破壊する事はできず、それどころかダイダラボッチが触れる度に生命力を吸い上げる。


いくら攻撃を加えようとクサナギノツルギが壊れる様子はなく、それを確認したダイダラボッチは体力の消耗と数百年ぶりに身体を動かしたせいで身体が鈍っている事を悟り、仕方なく地の底に戻って身体を休める事にした。


地の底に戻ったのは太陽から避けるためだが、十分に休養を取った後はダイダラボッチは再びクサナギノツルギを破壊する事を決意する。クサナギノツルギを確実に破壊するまでダイダラボッチは安心はできず、彼は地の底で再び夜を迎えるのを待ち続ける――






――そして時は流れ、ダイダラボッチが復活を果たしてから二日目の夜、遂にダイダラボッチは万全な体調を取り戻す。数百年も動かなったせいで碌に動く事ができなかった肉体も自由に動かせるようになり、それを確認したダイダラボッチは地上へ向けて岩壁を登り始める。



「ギアアアッ……!!」



既に太陽の光は見えず、その代わりに月の光が差していた。月を見上げながらダイダラボッチは岩壁をよじ登り、遂に地上へ抜け出す。大穴から這い出てきたダイダラボッチは周囲の光景を確認し、咆哮を放つ。




――ギアアアアアアアアッ!!




自分こそがと言わんばかりにダイダラボッチは咆哮を放つと、クサナギノツルギと名付けられた巨大剣の元へ向かって移動を開始した――

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