最終章 《巨人の目覚め》

――日の光が届かない程の地の底、そこには緑の巨人が身体を横たわらせていた。巨人は身体を休ませているわけではなく、自分が活動できる時間がくるのをじっと待ち構えていた。


ダイダラボッチの最初の目的は自分を何百年も封じていた「巨大剣」を破壊する事であり、あの巨大剣さえなければダイダラボッチを封印する武器は消え去る。その後は自分を暗い地の底に封じ込めた種族に復讐を誓い、この地上から1匹たりとも逃さずに「人族」を殺す事を決意していた。



「ギァアアアアアッ……!!」



怒りのあまりにダイダラボッチは鳴き声を上げると、大穴の内部に衝撃が伝わって岩壁の一部が崩れ落ちてしまう。上から降りかかる瓦礫に対してダイダラボッチは気にもせず、いくら身体に当たろうと構わずに時がくるまでじっと待ち構える。


太陽が完全に沈むまでの間、ダイダラボッチはこれまでの出来事を思い出す。ダイダラボッチは遥か昔、軍勢を引き連れて和国を襲撃した。イチノを襲撃したゴブリンキングのようにこの時にダイダラボッチはまだ若く、身体の方もそれほど大きくはなかった。



『ダイダラボッチだ!!ダイダラボッチが現れたぞぉっ!!』

『逃げろ、逃げるんだ!!』

『妖怪め……ここは我々の土地だ!!』



和国に攻め入った時にダイダラボッチは大勢の「妖刀使い」と対峙し、配下達と共に激闘を繰り広げた。激戦の末に和国の都を破壊する事に成功したが、ダイダラボッチは当時の和国のが手にした武器を刺される。



『くらうがいい!!これこそが我が国の至宝……クサナギノツルギを!!』

『グギャアアアアアッ!?』



クサナギノツルギと呼ばれた剣を手にした将軍はダイダラボッチの背中に剣を突き刺し、この時点では剣の大きさは普通の剣と大して変わりはなかった。しかし、剣はダイダラボッチの身体を貫いた途端に異変が起きる。


剣が突き刺さった途端にダイダラボッチは身体中の力が抜けてしまい、動く事もままならなかった。ダイダラボッチは必死に他の配下の力を借りて和国から離れる事に成功したが、それは和国の仕掛けた罠だった。



『よし、来たぞ!!』

『穴の中に誘い込め!!』

『落とせぇっ!!』

『ギアアアアッ!?』



ダイダラボッチは山の中に逃げ込んだつもりだったが、それは和国の軍隊が仕掛けた罠で彼は地中深くまで掘り起こされた穴の中に落とされてしまう。当時は今ほどの巨体と力を持っていなかったダイダラボッチは抵抗する暇もなく、地の底に封じ込められてしまう。


背中に突き刺さった剣のせいでダイダラボッチは本来の力を引きだせず、他の配下も皆殺しにされた。その後はダイダラボッチが落ちた穴は和国の軍勢が埋め立てたが、この時の軍勢がシノビ一族の先祖だと思われる。


結果から言えば和国は滅ぼされたがその代わりにダイダラボッチの封印は成功する。しかし、ダイダラボッチは地の底に封じ込められながらも生き延び、それから何百年も眠り続けた。




――どうしてダイダラボッチが何百年の時も生き延びられたのかは本人も分かっていない。しかし、ダイダラボッチは地の底に眠りながらも身体の成長は止まらず、そして背中に突き刺された「クサナギノツルギ」もダイダラボッチの生命力を吸い上げて巨大化していく。




最終的にはダイダラボッチが目覚めたのは数百年後であり、ダイダラボッチの意識が覚醒したのは魔物使いのアンが原因だった。アンは魔物使いとして高い資質を誇り、そのせいで彼女は魔物が近くに居る場合、その力を感じ取る一方で魔物の方もアンの存在を認識する。


ダイダラボッチが封じられているアンが辿り着いた時、ダイダラボッチは彼女の存在を感じ取った。アンの目的もダイダラボッチであり、彼女がこの場所に訪れたのは偶然ではなく、アンもダイダラボッチもお互いに惹かれ合うように巡り合う。


しかし、両者の違いはアンの場合はダイダラボッチを自分の手駒に仕立て上げるつもりだったが、ダイダラボッチの場合は彼女によって意識が覚醒した。そのせいでアンはダイダラボッチの意識を感じ取り、その強大な意識に恐れを抱く。


アンはダイダラボッチの存在を恐れて逃げようとしたが、それに気づいたダイダラボッチは彼女を行かせないために無理やりに身体を動かす。この時にダイダラボッチが動いたせいで地面が割れ、その地割れに巻き込まれた牙竜がダイダラボッチが封じられた地の底まで辿り着く。



『グギャアアアアッ!?』



地の底に落下した牙竜は不運にもダイダラボッチの背中に突き刺さっていた巨大剣と接触し、生命力を奪われた。この時に牙竜の生命力を吸い上げた事で巨大剣はダイダラボッチに与える負荷が激減し、その隙を逃さずにダイダラボッチは身体を動かして巨大剣を引き抜いて復活を果たした――

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